第21話 王国に届いた違和感
王都中央神殿。
白い石で造られた回廊を、
一人の神官が早足で進んでいた。
「……失礼します」
扉をノックする間も惜しむように、
彼は執務室へ入る。
室内には、
高位神官が二人。
加護測定を統括する立場の者たちだ。
「……また、です」
入って早々、
神官はそう切り出した。
「何度目だ?」
年配の神官が、
苛立ちを隠さずに問う。
「北西境界付近――
測定結果に、
連続した誤差が出ています」
「誤差?」
「はい。
再測定を行っても、
数値が安定しません」
神官は、
記録板を差し出した。
そこには、
信じがたい結果が並んでいる。
Eランク判定だった者が、
翌日にはD。
さらに翌日にはC。
だが、
能力が向上した形跡はない。
「……ふざけているのか?」
別の神官が、
低く唸る。
「加護値は、
変動しないはずだ」
「……理論上は、
ですが」
神官は、
言葉を選びながら続ける。
「問題は、
変動の起点が――
一箇所に集中していることです」
「一箇所?」
「はい。
王国地図上では、
“空白地”とされている区域です」
沈黙が落ちた。
年配の神官が、
ゆっくりと息を吐く。
「……そこは、
追放者が流れ着く場所だろう」
「はい。
ですが――」
神官は、
はっきりと言った。
「加護値が低いはずの者たちが、
生存しています」
「それも、
異常なほど」
その言葉に、
室内の空気が重くなる。
「……魔物は?」
「ほとんど、
報告がありません」
「死亡報告も、
極端に少ない」
「……あり得ない」
誰かが、
そう呟いた。
加護が低ければ、
生き残れない。
それが、
この世界の前提だ。
「……誰かが、
手を入れているのでは?」
若い神官が、
恐る恐る言う。
「加護を、
外部から操作している……?」
「そんなことができる存在が、
いるとでも?」
年配の神官は、
即座に否定した。
「神以外に、
その権限はない」
「……ですが」
神官は、
さらに続ける。
「測定水晶が、
“拒否”しています」
「拒否?」
「反応しない。
破損もしない」
「ただ、
沈黙する」
その言葉に、
室内の全員が凍りついた。
それは――
あってはならない現象だ。
「……まさか」
年配の神官が、
低く言う。
「……評価外か?」
若い神官が、
息を呑む。
「そ、
そんな存在は……
記録にしか……」
「……だが」
別の神官が、
口を開く。
「我々は、
一度だけ……
似た記録を見ている」
その場に、
沈黙が落ちた。
誰もが、
同じ名前を思い浮かべていた。
だが、
口に出す者はいない。
「……王には?」
若い神官が、
問う。
年配の神官は、
首を横に振った。
「まだだ」
「今は、
“誤差”として処理する」
「だが――」
視線が、
記録板に戻る。
「放置はできん」
「調査団を出す」
「教会主導で」
若い神官が、
ごくりと喉を鳴らした。
「……もし、
評価外だった場合は?」
年配の神官は、
しばらく黙ったあと、
静かに答えた。
「――枠に戻す」
「それができなければ……」
言葉を、
途中で止める。
その先を、
誰も聞こうとはしなかった。
同じ頃。
辺境の空白地。
焚き火の周りでは、
いつも通りの夜が訪れていた。
笑い声。
小さな不満。
今日の出来事。
誰も、
王国で何が起きているかを知らない。
だが。
風が、
一瞬だけ、
向きを変えた。
俺は、
その変化を感じ取り、
空を見上げた。
「……来るな」
独り言のように、
そう呟く。
恐怖ではない。
覚悟でもない。
ただ、
予定通りだ。
数字を持たない場所は、
必ず見つかる。
理解できないものは、
必ず測られに来る。
それでも。
俺は、
火のそばに座り続けた。
逃げない。
隠れない。
壊さない。
ここに在り続けることこそが、
最も静かな否定なのだから。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




