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加護値0と断罪された俺、実は神の評価外でした 〜追放された王国が崩壊するまで〜  作者: 黒羽レイ


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第2話 無価値の証明

大神殿の控え室は、やけに静かだった。


外の喧騒が嘘のように、分厚い石壁に囲まれたこの部屋には、音が届かない。

いや――正確には、遮断されているのだろう。

これから「処分」を受ける者に、余計な雑音は不要だという配慮なのかもしれない。


俺は長椅子に腰掛け、両手を見つめていた。


震えてはいない。

動悸も、乱れていない。


……おかしいな、と自分でも思う。


人生が終わったかもしれない瞬間だというのに、感情が追いついてこない。

まるで、どこか他人事のようだった。


扉が開き、神官が二人入ってくる。


どちらも白銀のローブを纏い、胸元には神殿の紋章。

さきほど測定を担当していた神官とは別の顔だ。


「再測定を行います」


簡潔な言葉だった。


俺は無言で立ち上がり、彼らに従う。

向かった先は、控え室の奥にある小さな祭壇。


そこには、先ほどとは違う――明らかに古い水晶が据えられていた。


「これは?」


「予備ではありません。

神殿に保管されている、古式測定用の水晶です」


古式。


嫌な予感が、胸の奥を掠めた。


「通常の水晶で反応が出ない場合、

“神の祝福を拒まれた可能性”を疑い、こちらを使用します」


拒まれた。


その言葉に、微かなざわめきが生じる。


「……つまり」


「加護を持たないのではなく、

神に見放された存在であるかどうかを調べるためのものです」


断定ではない。

だが、誘導としては十分だった。


俺は水晶の前に立つ。


再び、詠唱。

空気が重くなる。


水晶は――やはり、沈黙したままだった。


光らない。

揺らがない。

まるで、俺が存在しないかのように。


神官たちの表情が、硬くなる。


「……結果は同じ、です」


一人がそう告げ、もう一人が書類に何かを書き込んだ。


「レイ・クロウゼン。

加護反応なし。

加護値0。

測定不能、及び祝福不在と判断」


淡々とした声だった。


「よって――王国法第十二条に基づき、

あなたは『Eランク以下』、

すなわち“無価値”と正式に認定されます」


無価値。


またその言葉だ。


だが今回は、先ほどとは違う。

その単語が、確かな“効力”を持って俺に突き刺さった。


神官の一人が続ける。


「無価値認定を受けた者は、以下の制限を課されます」


一枚の紙が差し出される。


「王国籍の剥奪」

「貴族位の失効」

「婚姻資格の永久停止」

「学園・騎士団・ギルドへの所属禁止」


一つ一つが、重い。


「以上をもって、

あなたは王国社会における“構成員”ではなくなります」


つまり。


「……人として、扱われない?」


思わず、口に出た。


神官は否定しなかった。


「“神の祝福を受けない存在”は、

この国では人としての役割を持てません」


それが、常識だった。


俺は紙を見つめたまま、しばらく動けなかった。


そのとき、扉が再び開く。


入ってきたのは――父だった。


アルベルト・クロウゼン。

この国で生き残るために、感情を切り捨て続けてきた男。


「……結果は?」


神官が答える。


「正式に、無価値認定です」


一瞬だけ、父の表情が歪んだ。

だがそれは、すぐに消えた。


「そうか」


短い返事。


そして父は、俺を見た。


いや――正確には、“見なかった”。


視線は、俺の肩口を通り過ぎている。


「……家としての判断は?」


神官が問う。


父は、わずかに息を吐いた。


「クロウゼン家は、

レイを――家族として扱うことを、ここで終わりにする」


その言葉は、静かだった。


「家名を汚すわけにはいかない。

無価値と認定された者を、

家に残す理由はない」


当然だ、と言わんばかりの口調。


「……分かりました」


神官が頷く。


「後ほど、婚約についての正式な手続きも行われます」


婚約。


その単語を聞いた瞬間、ようやく胸が軋んだ。


「エリスは……?」


問いかけると、父は一瞬だけ、こちらを見た。


「彼女には、何の落ち度もない」


それが、答えだった。


俺は、何も言えなかった。


否定も、反論も、懇願も。

そのすべてが、無意味だと理解してしまったからだ。


この世界では、

数字がない者は、言葉を持たない。


「明日、王の裁定が下る」


父はそう言い、踵を返した。


「……恨むなよ」


最後に、そう付け加えて。


扉が閉まる。


再び、静寂。


俺は一人、控え室に取り残された。


無価値。

不要者。

社会の外。


そう、認定されたはずなのに。


――不思議だった。


絶望よりも先に、

胸の奥に、消えない違和感がある。


本当に、俺は“何も持っていない”のか?


水晶は、俺を拒んだのではない。

ただ――測れなかっただけではないのか?


その考えが、頭から離れなかった。


大神殿の天井を見上げながら、俺は小さく息を吐く。


「……明日か」


明日、すべてが決まる。


そのはずだった。


だがこの時点で、

俺はまだ知らなかった。


この「無価値」という判定こそが、

この世界の最大の誤算だったということを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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