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加護値0と断罪された俺、実は神の評価外でした 〜追放された王国が崩壊するまで〜  作者: 黒羽レイ


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第17話 何も持たない拠点づくり

朝は、静かにやってきた。


焚き火の熾きが、かすかに赤く残っている。

その向こうで、昨夜の男が身じろぎした。


「……朝か」


彼は、まだ状況を飲み込めていない顔をしている。


無理もない。

誰も来ないはずの空白地で、

一夜を越えたのだから。


「……逃げなかったな」


俺がそう言うと、男は苦笑した。


「逃げる理由が、なかったので」


率直な答えだった。


「名前は?」


「……ユグ。

ユグ・ラティスです」


貴族名ではない。

姓も、聞いたことがない。


「加護値は?」


そう聞くと、

彼は一瞬だけ、視線を伏せた。


「……測定で、Eでした」


やはり。


「追放か?」


「いえ。

追放される前に、

自分から出ました」


自分から。


「村に残ると、

家族まで迷惑がかかるって言われて……」


その言葉に、

俺は何も返さなかった。


この世界では、

よくある話だ。


「ここで、何をするつもりだ?」


俺が問う。


ユグは、少し考えてから答えた。


「……生きられたら、

それでいいです」


正直だ。


だが、

どこか投げやりでもある。


「それなら、

手伝え」


俺は立ち上がり、

丘の向こうを指した。


「水の流れを、

少し変える」


「……え?」


ユグは目を瞬かせた。


「何も持ってないのに?」


「だからだ」


俺は、歩き出す。


「持ってないから、

無駄なことをしなくて済む」


谷の底を流れる水は、

細いが安定している。


問題は、

そのままでは生活に使いづらいことだ。


「石を、

ここに積む」


俺が指示すると、

ユグは戸惑いながらも動いた。


大きすぎず、

小さすぎない石。


「……こうですか?」


「違う」


俺は首を振る。


「水の“癖”を見る」


「……癖?」


「速い場所、

淀む場所、

必ずある」


言葉にしながら、

俺自身も気づく。


考えているというより、

分かってしまう。


石を置く位置。

流れが変わる角度。

水が溜まる場所。


「……ここだ」


石を置いた瞬間、

水音が変わった。


流れが、

柔らかく分かれる。


「……すごい」


ユグが、

思わず声を漏らす。


「……魔法ですか?」


「違う」


即答した。


「ただ、

間違えなかっただけだ」


それは、

誇りでも自慢でもない。


事実だ。


午前中のうちに、

簡単な水場ができた。


飲み水。

洗い物。

最低限だが、十分。


「……本当に、

何も持ってないのに」


ユグは、

感心とも困惑ともつかない表情を浮かべる。


「道具がなくても、

順番を間違えなければ、

形になる」


俺は、そう答えた。


「……それ、

教会の神官が聞いたら、

怒りますよ」


「だろうな」


少しだけ、笑った。


昼。


簡単な食事をとる。


その間も、

ユグは何度も周囲を見回していた。


「……魔物、

本当に来ないですね」


「来ない」


断言する。


「少なくとも、

ここには」


理由は分からない。


だが、

確認はできている。


「……安心、

していいんですか」


「警戒はしろ。

安心は、

自分で決めろ」


俺は、

そう言った。


午後。


寝床を増やす。


俺が作ったものを、

ユグが真似する。


最初はぎこちない。

だが、

すぐに形になる。


「……不思議だ」


ユグが言う。


「今まで、

何か作ろうとすると、

必ず失敗してたんです」


「……ここでは?」


「……失敗しない」


俺は、

少し考えた。


「場所の問題かもな」


それは、

半分本当で、

半分嘘だ。


この場所は、

俺の“影響圏”にある。


だが、

それを言うつもりはない。


夕方。


遠くに、

また人影が見えた。


今度は、

一人じゃない。


三人。


男女混じり。


距離を取り、

こちらを伺っている。


ユグが、

小さく息を呑んだ。


「……知り合いです」


「追放者か?」


「……はい」


俺は、

焚き火の方へ戻る。


大きくはせず、

だが、見えるように。


「……どうします?」


ユグが、

不安そうに聞く。


「さあな」


俺は、

肩をすくめた。


「選ぶのは、

俺じゃない」


しばらくして、

三人が近づいてくる。


怯え。

警戒。

期待。


それらが、

入り混じった表情。


俺は、

同じことを言った。


「火はある。

水もある」


「座るかどうかは、

自分で決めろ」


彼らは、

顔を見合わせた。


そして――

一人が、

ゆっくりと腰を下ろした。


続いて、

もう一人。


最後の一人は、

少し遅れて。


その瞬間。


ここは、

もう“俺一人の場所”ではなくなった。


だが、

国でも、

村でもない。


名もない。

役割もない。


ただ、

生きられる拠点。


何も持たないところから、

確かに、

形になり始めていた。


俺は、

焚き火を見つめながら思う。


――これでいい。


宣言はいらない。

旗もいらない。


ここは、

自然と広がる。


数字に縛られない場所は、

必要とする者だけが、

辿り着く。


それで十分だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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