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始まりの選択。



 随分と、不思議な夢を見ていた気がした。どこか安心するような、懐かしいような。だが、そこに温度はなくて、寂しさも感じる場所であった。しかしそこが俺の、俺たちの目指す──────────。


 

 「起きたか。完治はしているはずだが、痛みはないか?」


 「……ッ!お前!!」



 彼女の顔を見た瞬間、怒りしか沸いてこなかった。一度目でも許せる筈がないのに二度も殺されたとなると恐怖や驚愕ではなく怒りが己を支配するのは至極当然のことであった。

 しかし彼女は、初めて俺の予想を裏切った。



 「今回は本当にすまないと思っている。君の能力を確かめたかったのは本当だが、実は君の第二人格がどのようなモノなのかもう一度目にしたかった。」



 そう言いながら、頭を深々と下げ謝罪をしてきた。そんな彼女を見て、怒りが段々と薄れていった。



 「はぁ……?たったそれだけの理由で……いやでも、こうして生きているし謝罪もした。俺自身もう一つの人格は気になっていたし……。今思ったらそこまで怒ることでもないか……?」


 「ありがとう。それと結果だが、確かに君の別人格は出てきた。だがあれは別人格というより別人……いや、気にしないでくれ。とにかく今は問題なさそうだ。」


 「目ぼしい結果はなかったのか……せっかくあんたにまた殺されたというのに。」


 「あはは……それに関しては本当にすまない。次から殺す時はしっかり宣言するからそれで許して欲しいな。」


 「頭沸いてんの?」



 本当に、異常者だ。だがそんな彼女にも慣れてきてしまっていた。俺の性格上の話でもあるが、殺されても生き返るという確かな証拠が異常事態にも強制的に慣れさせていたのだろう。しかし慣れてきただけで憤りは依然として感じ、段々と殺されたという事実に対する微かな恐怖も湧き出てきた。


 

 「誠意として、君の言うことを一つ何でも聞こう。自害しろと言うのならするし、何かを寄越せというのなら喜んでそれを差し上げよう。無論、私もその選択肢に入っているから私の人生を君にあげても良い。」


 「いらんわ!!人の人生貰ったところで何も出来ないだろ!?……あやっぱ魅力的な提案。」


 「ッ///分かった、私の人生を君に全て譲渡しよう♡……だが、これだけは譲れない。私が、支配者だ。」


 「いやなんでそうなる?別に良いけどなんでそうなる?」


 「黙れ。四の五の言わずに言うことを聞け。」



 彼女は毅然とした態度でそう言い放った。そんな姿を見たおかげで今までの怒りと恐怖が寝っていった。彼女なりの配慮なのだろう。少しだけ、安心することができた。

 そして彼女の瞳に視線を通し、願いを告げた。



 「俺は、この国を……いや、この世界を冒険したい。」



 俺は、両親の死のせいで深い絶望と怒りに苛まれ、長い間夢を見ることが出来なくなっていたのだが、藺草と向き合い、関わっていくことで段々とそれらは治っていき、寧ろ彼女に対して希望を見るようになっていった。そこで産まれた二つのねがいがあった。その一つが異世界の、冒険であった。

 

 人は皆、大人になっていくに連れ、純粋な少年・少女の夢を忘れていき、新たな希望を見出しそれに縋り、依存していく。周囲の人間も、そうであった。だが、俺だけはそのねがいを一生忘れることが出来なかった。

 彼女が与えてくれた、たった二つのそれを忘れるなんて、自分の全てを否定してしまうことになるからだった。


 そんな俺の発言に対し、彼女はこう告げた。



 「ふふっ。それが君の願いであるのなら、全霊を持って叶えよう。安心しろ、私が着いている。いつ何時でも、な。」


 「否定、しないのか?」


 「?何故否定する必要がある。私は人の夢を莫迦にするほど性悪ではない。それに、君の願いなんだ。尚更そんなことしない。」



 彼女の事を、誤解していた。彼女の根底にあるのは綺麗な想い。純粋な人の心。それらと狂気が混じり合っているものだから確かに異常ではあるのだろうが、俺の心から負を拭い去るのには、それだけで充分だった。誰かに馬鹿にされた訳でも見下された訳でもない、劣等感から産まれていたねがいに対する劣悪な感情は、ついに純粋な想いへと変貌した。


 そんな人を目の前にして、誰が惚れないと言うのだろうか、そんなこと生物なら、人間なら出来る筈がなかった。

 だが俺は、そんな彼女に一抹の何かを感じていた。



 「ありがとう……随分と救われた、と思う。」



 心臓の高鳴りは果たして緊張によるものなのか、もしくはこれからの未来のことなのか、はたまた彼女に抱いた─────────いや、もしくはもっと別の。






 「──────すぅ……、アルドール・ヴァレンタイン。」


 「何、かな?」


 「俺と、冒険してくれ。」



 すると彼女は、本当に綺麗な、真っ白な笑顔を見せて。しかし俺にとっては不安を加速させたその一言を。

 



 「はい、喜んで。君の為なら私は何処へだって。」





 煌びやかな硝子窓の外には、この状況には相応しくないであろう灰色で、どこまでも貪食で汚い空が、この場を支配しようとしていた──────────。



 こんな状況が最高に、気持ち悪かった。

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