ホットケーキの手紙
『なろうラジオ大賞7』応募用小説です。
ホットケーキの作り方を 残しておきます
あなたが同じ朝を迎えるために
はじめにボウルを用意します
粉は袋の口を軽くつまんで ゆっくり振りながら入れるといい
高いところから落とせば空気を含んで あとが軽く仕上がる
むかしあなたが袋ごと落として 床を白くしてしまった
その跡をふたりで拭いた時間 大切にとってあります
卵を角に軽く当てて割り そっと開く
殻が入ったら 慌てず指先で拾い上げるだけでいい
その時のあなたの手つきを ふと浮かべてしまいます
牛乳(あるいは水)は 数回に分けて混ぜる
粉のすみまで届くよう 底からすくい上げながら
急ぐとダマが残るから ゆっくりゆっくり
日々の暮らしみたいに 早送りしないように
ざらつきが消えたら ようやく火をつけます
フライパンは中火より少し弱め
温まったら 薄く油をひく
キッチンペーパーでならすと 焼きむらが少なくなる
おたま一杯の生地を静かに流しこむ
真ん中から広がっていく円を見て 心を落ち着かせる
このあと少しの間 待つ
ぷつぷつと小さな穴が現れるまで
さわりたくなる気持ちを我慢するのが いちばん難しい
待ちきれず 覗きこんでいたあなたが
いまでもそばにいるみたい
小さな穴が開いたら ヘラを差し入れて一気に返す
ためらうと形が崩れてしまう
ふわっと持ち上がった生地の軽さを
あなたは覚えているでしょうか
裏面を短めに焼き終えたら ていねいにお皿へ移す
熱いうちにバターを乗せると 香りがやわらかく広がる
シロップをかけすぎて ふたりで笑った朝のぬくもりが
部屋のどこかで 静かに息をしています
ホットケーキは 失敗してもまた焼けばいい
丸くならなくたって 甘さは変わらない
もう 近くにいられないけど
あなたがホットケーキを作る朝
そのあたたかさの片隅で 残っていられますように




