8.高い空にカラスが飛んだ
空は澄んでいた
空は高かった
空には雲ひとつなかった
誰もいない停留所
人通りのないメインストリート
大容量のキャリーケース
今日でこの町とはさようなら
頭の中を駆け巡る記憶
楽しかったことも
苦しかったことも
喜んだことも
悲しかったことも
私を形成する材料になった
胸いっぱいに空気を吸った
春の心地良い匂いがした
ふと カラスが目の前に現れた
道路をちょこちょこ
歩道をちょこちょこ
あんた轢かれるよ
なんて思っているとカラスと目が合った
お前 どこに行くんだと言っているようで
ちょこちょことこちらに向かってくる
近づいたら逃げてしまいそうで
一定の距離を保ったまま
カラスと向かい合う
空 飛べるっていいね どこにでも行ける
私の言葉がわかったのかはわからない
カラスが鳴いた
お前も飛べばいいじゃないか
うん
だから飛んだんだ
今日が旅立ちの日なんだ
君みたいな立派な翼はないけどね
遠くの方にバスが見えた
あんたそこにいたら轢かれるよ
また言葉が伝わったのかわからないけれど
カラスはまた鳴いて
高い空に飛んで行った
頑張れよ
空に舞っていく姿は自信に満ちている
その姿に背中を押され
私は乗客がゼロのバスに乗り込んだ
空は澄んでいる
空は高い
空には雲ひとつない
飛べたら気持ちが良さそうだ
慣れた場所を離れるのは勇気がいる。
新しい環境に飛び込むのも勇気がいる。
ワクワクもすればソワソワもする。
自由に生きればいい。