72.剥がれない顔
「あ、やっておくから帰っていいよ」
時計の針が6時をすぎた頃
上司は私に声をかけた
私のデスク周りはぐちゃぐちゃで
どう見たって帰れないのに
「明日までの締切のやつだけ…」
「いいからいいから、それやっとくからさ、大丈夫」
上司はいつもこうなのだ
ニコニコしながら私の仕事を幾らか持ってくれる
上司ガチャ成功したと入社した時は友人に自慢をしていたのだが
「でも、係長この後ご予定あるって言ってませんでした?」
「人と会うけど時間が遅くてね、その間に片付けておくから、明日提出の資料見せてくれるかい?」
一呼吸置いてから係長はそう言った
簡単な説明をすると係長はすぐに理解してくれて早速仕事にとりかかる
人の仕事を引き受けて
何故あんなにニコニコできるのだろう
がむしゃらに仕事している私とは大違いだ
これが大人の余裕と言うやつなんだろうか
「じゃあ、あの、お先に失礼します」
必要最低限の片付けをして
わたしは係長に頭を下げた
係長がお疲れ様とひらひらと左手を振っているのが見えたのだが
あ まただ
この人に感じる違和感
ニコニコと笑ってはいるものの
拭いきれないほどのハリボテ感
貼り付けている笑顔が
どことなく嘘に見える
そして左手にも違和感
今日も指輪を外している
終業のチャイムが鳴る時には
つけていたはずなのに
詮索はすべきではない
妄想はすべきではない
噂を広げるべきではない
私のモヤモヤは消えることはなくて
家に帰ってからも
胡散臭い笑顔が気になった
そして翌日のこと
係長の顔が剥がれたらしい
浮気、不倫、ダメ、絶対




