44/73
44.下がる視線
異様な光景だった
私もその一員なのだけれど
それはとても異様な光景
電車の出発時間まで
画面を見ながら時間を過ごしていた
両耳にはワイヤレスイヤホン
しかもノイズキャンセリング付き
ガタンと車体が揺れて電車は出発した
そこでふと視線を上げた
なんだかゾワりとした
言い難い何かが背中を這っていく
乗客は皆 視線が下を向いている
どこかで見た光景だった
どこだっただろうか
あぁ そうだ テーマパークだ
皆 現実世界を忘れて楽しみたい世界のはずが
小さな媒体をせっせと動かして
予約を取るのに必死だった
あの光景もゾワりとした
楽しむはずの空間のはずなのに
デジタルに支配されているそれ
参考書を開く学生の姿も見えるが
中には電子書籍を眺める者もいる
なんだろうか なんなんだろうか
このデジタルに侵されていく感覚は
何でもかんでもデジタル デジタル
当たり前のように広がるデジタル
あれもこれも 全てがデジタル
なんだか疲れる世の中になったもんだな
やれやれと息を吐いてから
私はまた視線を下に向けた
あれもこれもデジタルの時代。色々な申し込みや変更、解約、オンラインでできますよっていうのが、私としてはあまりしっくりこない。手元に紙で控えがないとどうも落ち着かない。




