4 立花結衣視点
これは、ただの青春物語じゃない。
これは、人生を“やり直す”ことでようやく手に入れた、「本当の選択」の物語。
29歳で人生に絶望し、何もかもを失って死んだ僕が、
目を覚ますと、そこは高校一年の春だった——。
過去の僕は、臆病で、言葉が足りなくて、大切な人を裏切った。
今度こそ、ちゃんと向き合いたい。
今度こそ、大切な人を守りたい。
今度こそ、「好き」と言える自分でいたい。
『Re:Start』——それは、
僕が僕自身を取り戻すための、もう一度の青春の物語。
最後まで、見届けてくれたら嬉しいです。
図書館で佐倉くんが語った、あのひと言。
『“今”の僕はここに戻ってきた佐倉結城なんだ』
……その言葉が、まるで焼き付いたように脳裏から離れない。
点と点は確かに繋がった。中学三年の秋、あの日を境に突然連絡が途絶えた彼。その理由が「嘘」だったこと。自分を傷つけまいとした、見栄から来る自己防衛。
でも、腑に落ちない。
本当にあれが“全て”なのか。私が、どこかで彼をまだ疑っているから?
――それが理由かはわかんないけど、今、どうしてか会いたいと思えば思うほど、佐倉くんに会える気がしなくなってくる。
胸の奥に、もやがかかったような違和感が広がっていた。
部活終わりの夜、私はいつものカフェで、奈緒と向かい合っていた。
「最近、忙しいの? 後輩ちゃんたちが結衣のこと心配してたよ。……まあ、私がいちばんしてるけど」
「うん、ごめんね。もうちょっとだけ……。今、勉強教えてる人が居て」
「え、誰それ? 結衣が人に教える側ってめずらしいじゃん」
奈緒は少し意外そうに目を丸くした。それもそうか。バスケに学業、今まで人に時間を使う余裕なんてなかった。
「……珍しいかな。うん、確かに。でも、なんかその人とは……一緒にいると、楽しいの」
「へぇ? 何それ。もしかして好きなの?」
奈緒のストレートすぎる言葉に、思わずカップを持った手が止まる。否定できない。でも、肯定も……まだ、できない。
「好きかは……わかんない。でもね、一緒にいると、少しでも長くこの時間が続いてほしいなって思う。……でも」
「……うん?」
「もし、その人がね――私に嘘をついたことを後悔して、未来からすべてをやり直しに来たって言ったら、どう思う?」
奈緒は目を丸くして、しばらく沈黙した。
「……なにそれ。結衣、そういう系の本読んだ?」
「違うよ。ただ……本人がそう言ったの。“今の僕は、戻ってきた佐倉結城なんだ”って」
「佐倉……って、あの、前に言ってた中学の子?」
「うん」
奈緒は眉間にシワを寄せて、やがてため息をついた。
「まあ、私はその人のこと、話でしか知らないからアレだけど。……でも、嘘っぽい話なのに、結衣がそれを“嘘じゃない”って感じたなら――そうなんじゃない?」
「……私にもわからないの。あの言葉には説得力があった。でも、心のどこかで……まだ、信じきれてない自分がいる」
「……そりゃ、仕方ないんじゃない? 一度裏切られたんだもん。信じるって、そんなに簡単じゃないよ」
奈緒はカフェラテのふちを指でなぞりながら、静かに言った。
「でもさ、信じたいって思うなら、それがもう答えなんじゃないの?」
その言葉に、私ははっとした。
信じたい。――私は、彼を。
例え、どんな過去があったとしても。
彼の言葉を、もう一度、ちゃんと受け止めたい。
そう思えた、夜だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語『Re:Start』は、「もし人生をやり直せたら、あなたは誰を大切にしますか?」という問いから生まれました。
ありふれた学園モノに見えるかもしれません。
でもこの物語は、
「後悔」や「過去の自分」と向き合うことの苦しさ、
そしてそれを乗り越えて「今の自分」として未来を選ぶ強さを描こうとしたつもりです。
もし少しでも、
「自分にもこういう青春があったかもしれない」
「自分も、今からやり直せるかもしれない」
そう思ってもらえたなら、作者としてこれ以上ない喜びです。
そして、物語はまだ終わりません。
『Re:Live』、そして『Re:Life』へと続いていきます。
これから先の物語でも、彼と彼女がどう生きていくのか。
ぜひ、もう少しだけお付き合いください。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
ありがとうございました。