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これは、ただの青春物語じゃない。
これは、人生を“やり直す”ことでようやく手に入れた、「本当の選択」の物語。
29歳で人生に絶望し、何もかもを失って死んだ僕が、
目を覚ますと、そこは高校一年の春だった——。
過去の僕は、臆病で、言葉が足りなくて、大切な人を裏切った。
今度こそ、ちゃんと向き合いたい。
今度こそ、大切な人を守りたい。
今度こそ、「好き」と言える自分でいたい。
『Re:Start』——それは、
僕が僕自身を取り戻すための、もう一度の青春の物語。
最後まで、見届けてくれたら嬉しいです。
立花さんとの約束から、一週間が経った。
彼女が用意してくれたカリキュラムは、簡潔で無駄がなく、それでいて“中学生の結城”には明らかに厳しすぎる内容だった。
最初に目を通した瞬間、思わず目を逸らしてしまいそうになったくらいだ。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
わからないなりに調べ、考え、答えを導き出す――そんな毎日が、今までの彼にはなかった刺激になっていた。
何より、今は追いつきたい相手がいる。
そのたった一つの理由だけで、前に進もうとする気持ちが自然に生まれていた。
学校が終わると、結城は机に向かった。
参考書は、本棚の記憶を頼りに似たものを探し、ページを何度もめくった。
ペンを走らせながら浮かぶのは、あの日の立花結衣の顔――まっすぐ彼を見て微笑んだ、あの目だった。
嘘をつかない自分になりたい。
誇れる自分になりたい。
その気持ちが、眠気や疲れを吹き飛ばしていった。
⸻
そして再び、一週間後。
約束の日が来た。
胸の奥がそわそわして落ち着かない。指定された時間よりもずっと早く、あのバス停に到着していた。
冷たい風に頬を撫でられながら、落ち着かない指先をポケットに押し込み、ただ彼女を待った。
やがて制服姿の立花結衣が、小さく手を振りながら歩いてきた。
「お待たせ。体調、大丈夫だった?」
「うん、全然元気。……この一週間、ずっと勉強してたよ」
自然に口元が緩む。素直に近況を話せる自分が、少しだけ誇らしかった。
「そっか、えらいえらい。……じゃあ、テストするね」
「……テスト?」
結衣はポーチから数枚のプリントを取り出し、差し出した。
「今のカリキュラムで出した内容。八割以上解けたら次の段階に進もうかと思って」
思わず背筋が伸びる。突発テストなのに、不思議と逃げたいとは思わなかった。
「……よし、やる」
「じゃあ、タイマー一時間ね。頑張って」
⸻
一時間後。結城は頭を抱えていた。
「……ごめん。全滅だった」
プリントに軽く目を通した結衣は、頷いて言った。
「これはね、うちの学校の最近の授業範囲から出した問題なの。つまり、これが佐倉くんの“今”の実力ってこと」
現実を突きつけられ、胸が少し締めつけられる。
でもそれ以上に――
「でも、大丈夫。今はできなくても、やればできる内容だから。少しずつ慣れていこう?」
そのひと言が、温かくて、嬉しくて。
誰かにこうして励まされたのは、いつぶりだっただろう。
胸の奥に、小さな火が灯る。
この人のために、もう一度頑張ろう。
「じゃあ、カリキュラムはこのままでいい?」
「うん。ただ、効率良く進めるために、一緒に組み直してもいい?」
「もちろん。……あ、そうだ」
結衣がポーチから手帳を取り出す。
「今週の休日、空いてたら……一緒に勉強しよ?」
その柔らかな提案に、結城は何も言わず、静かに頷いた。
言葉はいらなかった。ただそれだけで、充分だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語『Re:Start』は、「もし人生をやり直せたら、あなたは誰を大切にしますか?」という問いから生まれました。
ありふれた学園モノに見えるかもしれません。
でもこの物語は、
「後悔」や「過去の自分」と向き合うことの苦しさ、
そしてそれを乗り越えて「今の自分」として未来を選ぶ強さを描こうとしたつもりです。
もし少しでも、
「自分にもこういう青春があったかもしれない」
「自分も、今からやり直せるかもしれない」
そう思ってもらえたなら、作者としてこれ以上ない喜びです。
そして、物語はまだ終わりません。
『Re:Live』、そして『Re:Life』へと続いていきます。
これから先の物語でも、彼と彼女がどう生きていくのか。
ぜひ、もう少しだけお付き合いください。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
ありがとうございました。