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これは、ただの青春物語じゃない。
これは、人生を“やり直す”ことでようやく手に入れた、「本当の選択」の物語。
29歳で人生に絶望し、何もかもを失って死んだ僕が、
目を覚ますと、そこは高校一年の春だった——。
過去の僕は、臆病で、言葉が足りなくて、大切な人を裏切った。
今度こそ、ちゃんと向き合いたい。
今度こそ、大切な人を守りたい。
今度こそ、「好き」と言える自分でいたい。
『Re:Start』——それは、
僕が僕自身を取り戻すための、もう一度の青春の物語。
最後まで、見届けてくれたら嬉しいです。
立花結衣が、結城の隣にそっと腰を下ろした。
夕焼けに照らされたバス停のベンチ。端に座っていた結城を見て、彼女は少し眉を下げ、心配そうに覗き込んでいた。
「……大丈夫?」
その声は優しかったが、どこか彼の“変化”を探るような響きを帯びていた。
結城は咄嗟に視線をそらす。心を乱されるのが怖かった。
落ち着かない。けれど立ち上がることもできず、曖昧に頷くと、結衣はそれ以上言葉を重ねず、ただ同じ方向を見て静かに座り直した。
ひぐらしの鳴き声が遠くで響く。
どれくらいの沈黙が流れただろうか。
「……さっきから、ずっと泣いてたよね」
小さく、しかし真っ直ぐに告げられ、結城は返す言葉を失った。
泣いていた自覚さえなかった。頬は濡れていて、胸の奥からせり上がるものを抑えきれなかった。
「うまく言葉にできないけど……佐倉くん、雰囲気変わったね」
その言葉は結城の胸の奥深くに刺さった。
十五年ぶりの再会――それなのに、彼女は迷いなく言葉をくれた。変わったと。
嬉しくて、怖くて、胸が詰まる。
声にならず、ただうつむいた結城に、結衣は変わらず微笑んだ。
少しずつ結城の心が、呼吸を取り戻していく。
「まだ……時間ある?」
結衣が問いかける。その声音は、先ほどよりも柔らかく、耳の奥に残るようだった。
――まだ話したい。
そんな思いが胸に広がる。結城は頷いた。
「じゃあ、家の方まで歩こうか。一緒に」
立ち上がった結衣と並び、二人は歩き出した。
その歩幅を合わせるだけで懐かしさが込み上げ、愛おしさに変わっていく。
家の近くに着いたころ、結城は立ち止まり、意を決して口を開いた。
「……俺、ちょっと……立花さんに言っておきたいことがあって……」
だが、喉が詰まる。声が出ない。
“まだ言うべきじゃない”と、本能が制止した。
今じゃない――その直感が胸に根を張っていた。
「……ごめん、なんでもない」
目を伏せる結城に、結衣は少し驚いたあとで柔らかく笑んだ。
「佐倉くんが言えるようになるまで、待ってるね」
その一言が、救いのように胸に落ちた。
「そういえば、佐倉くんって受けるとこ、もう決まってたりする?」
結城の脳裏に、あの日の記憶がよみがえる。
――ついてしまった嘘。
見栄からだった。彼女の隣にいたい一心で、到底届かない学校を「受かる」と言った。模試結果を偽り、当然のように笑ってしまった。
だが結果は惨敗。別の高校に進学するしかなかった。
それが、彼の嘘だった。
「……立花さんと、同じ高校に行きたい。けど……」
声が震えた。結衣は黙って見つめている。
「今の僕じゃ、到底行けないから、こんなこと言うのも烏滸がましいと思うんだけど……勉強を教えてほしいです」
正直な気持ちだった。もう嘘はつきたくなかった。
それでも願わずにはいられなかった。もう一度、彼女の隣に立ちたいと。
沈黙が流れたが、それは決して冷たくなかった。
結衣は少し考え込み、それから微笑む。
「……ひとつ、約束できる?」
戸惑いながらも、結城は小さく頷いた。
「それなら、佐倉くん用にカリキュラムを組んであげる。すごく大変になると思うけど……途中で投げ出さないって、約束できる?」
真剣な瞳が、胸に刺さる。怖さよりも嬉しさが勝った。
「……うん。ありがとう、立花さん」
十五年越しの“はじまり”は、夕焼けの中で交わした小さな約束だった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語『Re:Start』は、「もし人生をやり直せたら、あなたは誰を大切にしますか?」という問いから生まれました。
ありふれた学園モノに見えるかもしれません。
でもこの物語は、
「後悔」や「過去の自分」と向き合うことの苦しさ、
そしてそれを乗り越えて「今の自分」として未来を選ぶ強さを描こうとしたつもりです。
もし少しでも、
「自分にもこういう青春があったかもしれない」
「自分も、今からやり直せるかもしれない」
そう思ってもらえたなら、作者としてこれ以上ない喜びです。
そして、物語はまだ終わりません。
『Re:Live』、そして『Re:Life』へと続いていきます。
これから先の物語でも、彼と彼女がどう生きていくのか。
ぜひ、もう少しだけお付き合いください。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
ありがとうございました。