これは、ただの青春物語じゃない。
これは、人生を“やり直す”ことでようやく手に入れた、「本当の選択」の物語。
29歳で人生に絶望し、何もかもを失って死んだ僕が、
目を覚ますと、そこは高校一年の春だった——。
過去の僕は、臆病で、言葉が足りなくて、大切な人を裏切った。
今度こそ、ちゃんと向き合いたい。
今度こそ、大切な人を守りたい。
今度こそ、「好き」と言える自分でいたい。
『Re:Start』——それは、
僕が僕自身を取り戻すための、もう一度の青春の物語。
最後まで、見届けてくれたら嬉しいです。
深夜一時を過ぎた頃、結城の部屋は静まり返っていた。
蛍光灯の白い光だけが、机に広げられた紙とペン先を淡く照らしている。
冷たい空気が肌を刺し、耳鳴りのような静寂が胸を締め付けていた。
結城は机に向かい、震える手でペンを握りしめていた。
視界は涙で滲み、文字がにじんでよく見えない。
それでも、ペンは止まらなかった。
紙の上に、ただひとつの名前を書いていた。
──立花結衣。
何度も、何度も、名前をなぞる。
それは祈りのようであり、懺悔のようでもあった。
呼吸は荒く、胸は焼けつくように痛む。
喉の奥が熱い。息が詰まる。
それでも書かずにはいられなかった。
たとえ言葉が届かなくても、伝えたかった。
「……ごめんって、言いたかっただけなのに……」
かすれた声が、静かな部屋に吸い込まれていく。
ペンを走らせたその瞬間、視界が大きく揺れた。
地面が傾いたような感覚とともに、結城の体は机にもたれかかるように崩れ落ちる。
心臓が、ぎゅっと締め付けられた。
呼吸が止まり、音が遠ざかっていく。
視界は暗転し、重たい闇がゆっくりと落ちてくる。
最後に残ったのは、ただひとつの感情だけだった。
あの時、言えなかった。
本当は、ずっと好きだった。
けれど、嘘をついた。大丈夫だと、何もないふりをした。
そうするしかないと思っていた。けれど、それはただの逃げだった。
──もう一度だけでいい。やり直せるなら、彼女に、ちゃんと……。
意識はそこで、途切れた。
◆
風の音がした。
遠くで車の走る音がかすかに聞こえた。
冷たい空気が肌を撫で、湿ったアスファルトの匂いが鼻をかすめる。
ここはどこだ?
なぜ、自分は外にいる?
──結城くん?
名前を呼ばれた。
その声は優しく、澄んでいて、胸の奥を突き抜けるようだった。
忘れたくても忘れられなかった声。
長い間、聞きたくても聞けなかった声。
心臓が大きく脈打ち、息が乱れる。
恐る恐る顔を上げた結城の視界に――彼女がいた。
立花結衣。
中学三年生の制服姿のまま、そこに立っていた。
夕暮れの光が髪をやわらかく縁取り、その瞳はあの日のままだった。
信じられなかった。
ありえない。
でも、確かにそこにいた。
二度と会えないと思っていた人が、今、目の前にいる。
あのとき行けなかったバス停の前で。
言葉が出ない。
思考が止まる。
ただ涙だけが、勝手に頬を伝って落ちていった。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
彼女は、そんな結城を見て少し驚いたように瞬きをしたあと、柔らかく微笑んだ。
「なんだか……雰囲気、変わったね。結城くん」
その言葉が胸に染みた。
何もかも赦されたような気がして、結城は声を出すこともできず、ただ震えながらうなずくことしかできなかった。
あのとき言えなかった言葉。
もう戻らないと思っていた時間。
すべてが、今ここで再び交わろうとしている。
──やり直すチャンスが与えられたのだ。
涙を拭くことも忘れたまま、結城は立花結衣を見つめ続けた。
秋の風が吹き抜け、街灯の淡い光が舗道を照らす。
今度こそ言おう。
自分の足で、自分の口で、そして心で。
あの時伝えられなかった想いを。
結城の新しい時間が、静かに動き出していた。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語『Re:Start』は、「もし人生をやり直せたら、あなたは誰を大切にしますか?」という問いから生まれました。
ありふれた学園モノに見えるかもしれません。
でもこの物語は、
「後悔」や「過去の自分」と向き合うことの苦しさ、
そしてそれを乗り越えて「今の自分」として未来を選ぶ強さを描こうとしたつもりです。
もし少しでも、
「自分にもこういう青春があったかもしれない」
「自分も、今からやり直せるかもしれない」
そう思ってもらえたなら、作者としてこれ以上ない喜びです。
そして、物語はまだ終わりません。
『Re:Live』、そして『Re:Life』へと続いていきます。
これから先の物語でも、彼と彼女がどう生きていくのか。
ぜひ、もう少しだけお付き合いください。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
ありがとうございました。