5.後悔、先に立たず。
(あの美女がリリアーヌだって?嘘だろ?リリアーヌはもっとぽっちゃりとした冴えない女だったはずだ)
「リリ、挨拶回りに付き合ってもらってもいいか?」
「はい、だって未来の旦那様ですもの。きゃっ、恥ずかしい!」
私は思わずベルタス様の背中を叩いてしまったが、ガッシリとしていて脂肪の感触がなかった。って一瞬しか触れてなかったんだけど、って誰に言い訳してるのかしら、もう!
「ほう、随分と立派になったね。このぶんじゃ君が商会を継ぐ日も近いんじゃないか?」
「いやいや、父は元気ですよ。まだまだ父は健在ですよ!しばらくは私なんぞ2番手ですよ」
「それにしても、美しい人を連れているね?」
「ああ、彼女は私の婚約者のリリアーヌ=ラッツィです。お見知りおきを」
「初めまして。リリアーヌと申します」
このような挨拶を20件近くした。正直疲れました。
「疲れただろう?」
「まぁ、そうですね」
「夜会とかは商談の場でもあるからなぁ」
「毎日ランニングとかしてもっと体力つけますね!」
こちらを見ている視線を感じた。これまでも感じていたけど、無視していた。だって、ねぇ?
「お久しぶりです、ボン侯爵令息。彼女は来ていないのですか?」
「あ、ああ…彼女はあいにく風邪みたいなんだ。陛下に病をうつすわけにいかないだろう?それで欠席なんだ」
私は知っている。この夜会には伯爵以上の爵位の人以外は出席できないという事を。
「それにしても…ボン侯爵令息はお変わりなく。すぐに本人だと分かりましたわ。あ、いけない。お父様達にも挨拶をしないといけないわ。ごきげんよう」
そう言って、私はボン侯爵令息の所を離れた。
(変わりなく?確かに体形は昔から同じだよ!自分がちょっと変わったからっていい気になって)
「お父様、ごきげんよう」
「お義父上、ごきげんよう」
「おうおう、我が娘。今日はまた一段とキレイだな。これもベルタス様のおかげだな。まぁ、ある意味ボン侯爵令息と婚約解消をして良かったのか。はっはっは」
「お父様ったら。さきほどその侯爵令息に一応挨拶をしてきました。彼女は夜会に入れなかったんですね」
「そりゃあそうだろう?この夜会は王家主催!高位の貴族以外は入れない。男爵位など論外!あ、ベルタス様みたいに国に貢献している大商会は平民でも入れる。しかしあの男爵がしてることと言えばなぁ」
「散財ですか?」
「よく知ってるな」
「情報は商業の命ですから」
ベルタス様はそう言って笑ってるけど、スゴイと思う。我が家の事も知ってるのかな?
「リリアーヌの変わりように驚いたようで」
「そりゃあそうだろう?昔リリアーヌが着ていた服はもうリリアーヌは着れないもんなぁ、大き過ぎて。それに比べて、あやつは何一つ変わっとらん!性格も体形も。性格は悪いし、体形はそのまま。性格については、ボン侯爵が嘆いていた。いっその事もう廃嫡してしまえばいいのだが、ボン侯爵家には跡継ぎがいないからやむを得ないと言った感じかな」
「私の紹介でよろしければ腕利きの男を養子にどうですか?性格はいいですよ。普段、貴族ともやりあっていますし。体形はいわゆる細マッチョですか?」
「ほそまっちょ?」
「細身で弱そうに見えるけど、実は鍛えてるから、体が締まってるんです。腹筋とか固いですよ。殴るとこっちの拳が痛いです」
「ほぉ」
「ベルタス様、もしかしてジムのいろんな機械を考案した方ですか?」
「経営は俺だけど、運営はそいつだから、日々マッチョ集団と鍛えまくってるよ」
そのような話をされているとも思わずに俺はただリリアーヌに負けた気がして悔しかった。