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EX.他人の恋路を邪魔する奴は(sideアルヴィオ/前編)

2026年もよろしくお願いします。

午年にちなんでアルヴィオの回想と嫁取り話です。

 呪いをかけられて醜い蛙にされた王子様は、お姫様のキスで元に戻るんじゃなかったか?


 まさか毒蛙を喰わされて呪いが解ける王子がいるとは思わなかった。



 もちろん、それはおれの悪友ヒースクリフのことだ。



 あいつはどうにも恵まれぬ奴だった。

 国王とその寵愛深き側妃の間に生まれ、母の美貌を受け継ぎ、剣と魔法の才があり、頭も悪くない。

 いいとこどりをしているように見えるのだが、実はちっともそうではなかった。

 正妃のいびりが物凄かったのである。

 世の中、女の嫉妬ほど陰湿で恐ろしいものはない――王宮のそこかしこで囁かれるほど、リーザ様とヒースクリフに対する冷遇は徹底していたという。


 もう一人の当事者である国王陛下と言えば強そうなのは見た目だけ、実は非常に気が弱かった。

 元々第三王子だったが、兄君二人が口論の末に剣を持ち出し斬り合いになって双方亡くなる、という一大不祥事(スキャンダル)があって王位に就いた御方だ。

 お優しくて人柄はよい。

 が、これっぽっちも王に向いていない。

 向いていないのに王にされてしまって可哀想と言えば可哀想なのだが、本気で愛した女性と息子のことも守れずオタオタするばかりだったそうだ。


 話にならん、と奮闘したのがおれの親父、ラング伯爵ジュリアスである。

 リーザ様は伯爵家の分家に当たる子爵家の出身で、親父と子爵がはとこに当たる間柄だった。

 ところが子爵は正妃とその後ろ盾であるイリシス公爵家の威光に怯えてしまい、使い物にならない。


 そこで正義感の強い親父とお袋がリーザ様の実家代わりになった。

 リーザ様が若くして亡くなられたあとは、ヒースクリフの養育にも関わった。

 具体的には夏の避暑と称してヒースクリフをラング伯爵領へ連れ出し、同じ年頃の子供――つまり息子であるおれ、アルヴィオ・ラングと一緒くたに育てることにしたのだ。


 今でも素直に親父とお袋は凄いなと思うのは、本当にヒースクリフを王子ではなく、おれの弟みたいなもの、つまり普通の子供として扱ったことだ。

 たぶん、腫れ物に触るようなやり方では駄目で……暑苦しいくらい真っ直ぐに育ててやらんと、性根が歪んでしまうと考えたんだろう。

 その点、我が家は無骨な騎士上がりの伯爵家だからな。

 よく言えば大らか。

 実態に即した表現をすれば、非常に雑というものだった。


 小さくて細っこかった少年ヒースクリフはこわもてだが情にあつい使用人達から揉みくちゃに構いつけられ、何かにつけては金色の頭をわっしゃわっしゃと撫でくり回され、あれも食えこれも食えと餌付けされた。


 さらに、おれと子分ども……おれは領主の子で身体もでかかったので、いわゆるガキ大将というやつだった……は、やれ泥団子作りだの小魚釣りだの、今日はうさぎ狩りだのと、王宮ではあり得ない野蛮なお遊戯にヒースクリフを付き合わせたのである。


 おれは親父から「大きな怪我さえさせなければ、あとはいつも通りで良い」と言われていたし、王宮の複雑な事情なんざ分からん至極単純なガキだったので、至極単純に言われた通りにしたんだよな。


 大人達は一応ヒースクリフを「殿下(ハイネス)」の称号で呼んでいたが、おれ達子供同士は呼び捨てにしていたくらいだ。


 まー、アレだ。

 真っ直ぐではあったが、一国の王子に相応しい待遇とは言いがたいわな。

 ヒースクリフ自身は楽しかったと言っていて、大人になった今でも全く気にしていないが。

 思い返すと結構危ないのもあった。度胸試しで、大きな岩の上から川へ飛び込むとか。

 もちろん無理強いしたんじゃない。おれ達がわーわーやってるのを見て、ヒースクリフも急に吹っ切れたらしくてなー。

 いきなり、ざっぱーんと飛び入り参加したんだ。

 良い子は真似すんなよ。いやマジで。

 あいつ、なんだかんだで王族だからな?

 運良く何もなかったから助かったんだ。

 軽い気持ちでやって風邪でも引かせてみろ、飛ぶぞ。

 首が。



 少し大きくなってからは、遊びに代わって騎士の鍛錬が始まった。

 武門の家だからな。悪ガキ仲間も大半が家臣の子供だ。みんな騎士団の見習いになって鍛錬も一緒にやる。

 夏の間はそこにヒースクリフも加わる形なんだが、意外な才能が発覚した。

 あいつは女みたいな顔に似合わず、鬼のように強かったのである。

 天性の才だろう。それと魔力。

 強い魔力は身体能力を底上げする。ヒースクリフはリーザ様そっくりで、容姿で父王に似たところと言えば金髪の色合いぐらいだったんだが……

 やっぱりあいつは陛下の子で、内側には色濃く王家の血が流れていたんだな。


 おれと互角だったよ。

 当時おれが十歳でヒースクリフが八歳だ。

 ガキの二歳差は大きいし、生まれつき身体がでかくて魔力もそこそこあって、見習い連中のうちでは一番強かったおれと、まるっきり互角。

 二回、手合わせして二回とも引き分けたんだぞ?

 あいつはまだ身体が小さかったから、そこでへたばったけどな。


 あれで周りの、あいつを見る目が完全に変わった。

 それから、ヒースクリフが剣の道を進むことも決定づけられた。

 何しろ、おれ達は脳筋一族だ。

 王子だろうが戦えるに越したことはない、と手加減せずびしばし鍛えた。

 ヒースクリフも真面目な性格だから、稽古を積んでどんどん強くなっていった。



 しかしヒースクリフにとって、そいつは良いことばかりじゃなかった。

 と言うのも王太子エーリヒ殿下が、どっちかというと剣よりも書物を好み、政治に向いた方だったためだ。

 ベルーザの建国当初ならともかく、今は国王が自ら武器を取って魔物と戦う時代じゃない。全く問題はないんだが、エーリヒ殿下と異母弟のヒースクリフは何かと他人から比較されるんだよな。


 年を重ね、ヒースクリフが騎士として頭角を現していくにつれ、王太子の地位を脅かすんじゃないかと要らん勘繰りをする奴らが出てきた。

 エーリヒ殿下ご自身ではないぞ。正妃と、その周りだ。



 この頃からヒースクリフには暗殺の危険が付きまとっていたらしい。

 もっとも、こいつほど殺しにくい奴も珍しいんだがな。

 剣の腕が立ち、魔法も使えるから狙撃されても平気で防ぐ。

 と、なると残るは毒だが、ヒースクリフは生まれつき「毒無効化」という魔法まで持っていた。

 その名に違わず、毒を受けても体内で克服する。反則じみた能力だ。

 なのでこいつは刺客が襲ってきても軽く撃退しちまうし、食事に毒を盛られたって一晩もすればケロッとしている。暗殺者泣かせも良いところだわな。

 特に毒はしょっちゅう入っていたらしいが、もはや暗殺と言うより嫌がらせ。正妃の鬱憤ばらしに近い。

 つくづく、余計な真似しかしない女だ。



 もちろんラングヘイムにいる夏の間はンなもんある訳がなく、あいつも何も言わんので、おれ達見習い仲間は知らなかったんだがな。

 それでも言葉の端々にどうも不穏な気配を感じ、おれは親父に聞いてみた。


「ご結婚なさるまでの辛抱だ」

 

 と言うのが親父の答えだった。

 ヒースクリフはシーラーン王国の王女ネレシュ様と婚約している。

 あと数年先ではあるが、結婚して大公位か公爵位か、相応の爵位を受け取って臣籍降下することになっている。

 そうすればエーリヒ殿下の地位は盤石になり、邪魔なヒースクリフを亡き者に……という馬鹿げた輩も減るはずだという。

 シーラーンは長年の同盟国だが国土は小さく、ベルーザ王国の政治を左右するような力はない。

 ネレシュ王女も控えめな性格の方だとか。


「華やかではなくとも、静かに、穏やかに暮らしてゆければよい」


 おれは完全には納得できなかった。まだ青臭いガキだったからな。

 親父が言うのは負けを認めるようなもんじゃないか。

 しっぽ巻いて逃げる犬と同じだ。

 本当にそれでいいのか?

 だが親父の、珍しく疲れがにじんだ顔を見ると言えなかった。



✳︎✳︎✳︎



 しかしまあ、誰もが思った通りにことは進まなかったんだよな。


 陛下が崩御され、エーリヒ殿下が国王に即位なされた。

 ネレシュ王女も亡くなられ、ヒースクリフの婚約は白紙になった。

 エーリヒ陛下にはまだ子がいない。

 ヒースクリフは王位継承権一位の王弟殿下になってしまい、とっとと新しい相手を見つくろって結婚しなきゃならない。


 ところがだ。

 ネレシュ王女と少し歳の差があったヒースクリフは既に十九歳。

 我が国における貴族女性の結婚適齢期は十六歳から十八歳。

 きちんとした家柄の令嬢はみんな、既に結婚なり婚約なりした後だった。

 おまけにヒースクリフは相変わらず正妃――改め、王太后になられたあの鬼婆に睨まれている。賢明な貴族には敬遠されていた。


 残ってるのは高位貴族でもちょっと問題がある……性格がアレだったり、えり好みが激しかったり、男女交際に奔放だったりする令嬢か……

 家格は低いが上昇志向が強く、貪欲で手段を選ばない令嬢か……という感じでなあ。

 言っちゃなんだがロクなのがいない。


 ヒースクリフじゃなくても逃げたくなるだろうよ。

 あいつは元々の顔の造りがど派手だから分かりにくかったが、明らかに覇気がなく投げやりになっていた。

 あんまりにも縁談を嫌がって女という女を遠ざけるものだから、「氷の殿下」という異名がついたほどだ。

 本当はそんな奴ではないのにな。

 そのうち、ぷつりと糸が切れて国を出ていってしまうんじゃないか……などと、親父は心配していたぐらいだ。

 ま、杞憂というやつだったんだが。



 フィリア嬢が現れ、ぜんぶ吹き飛ばした。

 綺麗さっぱりとな。



 最初は訳が分からん状態だったよ。


 その頃おれはちょうど、別の任務で王都ベルゼストを離れていたんだ。

 ラング領とは王都を挟んで反対方向。

 南部のとある町の近くで魔物が大発生して、その討伐をやっていた。

 ネズミに似た小型の魔物が、うんざりするほど溢れかえっていてなあ。

 あまり凶暴性はないが、とにかく逃げ足が早くて繁殖力が高く、一匹でも取り逃がすとすぐ増える。しぶとい連中だった。

 結局二か月あまりかかって、ようやく鎮圧することができた。


 おれも部下どもも、しばらくネズミ退治の悪夢を見そうだなと思いながら、ベルゼストへ帰ってきたら――――



 ヒースクリフに恋人ができていて、王太后は修道院送りになっていた。



 待て待て待て。

 何があった!

 おれがネズミとたわむれている間に!!


 問い詰めてやろうとしたが、ヒースクリフが騎士団の宿舎にいない。

 あいつ王族のくせに、第一分団長のちっさい居室に住み着いていたろうが。どこ行った。

 仕方ないので副長のライル・リーバンを捕まえた。


「ヒースクリフ……殿下はどうした?」


「あー、アルヴィオ分団長はまだ知らないですよね。青花宮にお帰りになられましたよ。ここだと嫁さん囲えないですからね」


「ほお」


 嫁と来たか。

 違和感しかない単語だな。ヒースクリフの嫁。

 青花宮へ帰ったのか……あいつの生まれ育った「家」ではあるが、この二年ほど全く寄り付かなかったはずだ。任務がなくても、こっちにずーっと居座ってた。

 異常も異常だ……いや待てよ。

 騎士団の宿舎は、おれやライルのような地方出身であったり平民出であったりして王都に家がない騎士が住むためのもの。

 王弟殿下がお住まいである、ってのがまず異常だったんだから……

 正常に戻ったとも言えるな。


「……何というか、妖精の国へ迷い込んだ気分になっているんだが」


「でしょーね。俺らもびっくりしましたよ」


 ライルが言うには、ヒースクリフは部下を率いて闇の森の調査に行っていたが、そこで王太后が放った暗殺者に急襲されて他の者とはぐれ、一時生死不明になった。

 当然ライル達は血相を変えて探し回った。

 翌朝見つけたのがぼろぼろの廃屋と、なぜか廃屋に住んでいた隣国アストニアの貴族令嬢と、そのご令嬢に一目惚れしたヒースクリフだった、と。


「おい……その話はどこから突っ込めばいいんだ?」


「情報量、多いっすよねえ」


「うむ。まずあれだ。なんで闇の森にアストニアのご令嬢がいる。んな簡単に落ちているものじゃなかろう」


「捨てられたらしいですよ?」


「はあ?」


 ……アストニア第二王子の婚約者だったが、浮気されて婚約を破棄されて、闇の森に置き去りにされただと?


「よく生きていたな」


「たまたまズィーゲル草の群生地だったんですよ。魔物に喰われずに済んだって訳です」


「あー……あの毒草か。理解した。だが、ヒースクリフが一目惚れするのが分からん」


「なんか、今回はやんごとなきあの御方が本気だったみたいですね。メチャクチャ強烈な毒を喰らって、さすがの殿下もやばくなったところを看病してもらったそうで。優しさが染みちゃったのかなと」


 よく煮込んだシチューみたいな言い方だな、おい。

 だが気持ちは分からんでもない。


「ここのところヤサグレていたからな……イチコロか」


「イチコロっすね〜。でも良いご令嬢ですよ、フィリア様っておっしゃるんですけど。優しいし美人だし、いつも楽しそうに目をきらっきらさせて『ベルーザって素敵なところね!』ってニコニコしてるんです」


「ほー」


「そんなフィリア様を眺めて、殿下も気持ち悪いくらいデレデレしてます」


「『氷の殿下』はどこへ行った」


「春が来て跡形もなく蒸発なさいました。もうね、にやけててもそうは見えないのがイラッと……いやいや、美形の王族オーラってすごいな〜と思う訳です」


 ライルのひがみっぽい冗談はさておき……

 ま、それなら良いか、とおれは思った。

 ヒースクリフ、あいつにもちゃんと女に惚れたり、にやけたりする機能があったんだな。


「しっかし、王太后を失脚させるとは」


「今まで殿下がやる気なくて、おとなしかったでしょ? あちらさん、調子に乗っちまったんじゃないですかね。今回のやつは俺達も巻き添え喰らってちょっと危なかったし、どこに出しても恥ずかしいご立派な暗殺未遂ですよ。殿下がエーリヒ陛下に直談判しまして、王太后とついでにイリシス公爵も強制引退です」


「そうか。ようやく、という感じはあるが……」


 おれが生まれる前から続いていた、イリシス公爵家の傍若無人っぷりもここまでか。


 長年にわたって王宮と政治は王太后とその兄、イリシス公爵の独壇場だった。

 先王陛下が気弱で国政に熱心でない以上、必要悪と言おうか……それでどうにか回っている面もあったようだがな。


 現国王エーリヒ陛下は書物の方がお好きとは言え、弱腰じゃなく普通に有能だ。

 が、まだお若い。

 急に王位を継いだこともあって、実母と伯父を簡単に切れなかった。

 即位から五年かけて少しずつ他の貴族達を味方につけ、粛清の機をうかがっているところであったと思う。

 そこにヒースクリフの反撃がぶっ刺さったんだろう。


 ライルがしみじみ言った。


「俺、故郷のことわざを思い出しましたよ。他人(ひと)の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られる、って言うんですけども。殿下の逆鱗を触っちまうと本気でシャレになんねぇんだな〜って」


「なるほどなあ」


 普段はおとなしい奴ほど、キレると怖かったりするからな。ヒースクリフもそのクチだったらしい。

 それを聞いて、おれは腑に落ちたというか、風向きが変わったのだという実感が湧いてきた。



 呪いが消えたんだな、ヒースクリフ。



 ならば言うことはない。

 おれも、親父も一安心だ。

 創造神の御許にいるお袋やリーザ様もそうだろう。

 良かった良かった。



 ――――……しかしだな。


 おれに肝心のフィリア嬢を会わせようとしないのは、一体どういう了見だ?

 おまえの想い人で親父が後見役なら、おれの妹みたいなものだろうが。

 隠すな!


 ……減ったら困る、だと?

 寝言は寝てから言え!!


後編に続きます。

いつも長くてごめんなさい。


冬の間に短編2本を投稿してます。

二つとも短編と言っておきながら例によって長いんですが、よろしければ暇つぶしに読んでやってください(笑)


・冬童話2026参加作品の恋愛もの

「名ばかり王女の名もなき献身」

https://ncode.syosetu.com/n5194lo/


・屑だった旦那様と「やり直し」をしてみるお話

「愛することはないと言った旦那様、やり直しって本当ですか? 〜溺愛&反省ムーブが斜め上すぎて奇行にしか見えないんですが〜」

https://ncode.syosetu.com/n5478ll/


よろしくお願いします。

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