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赤い槍  作者: 浦野蜻蛉
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ルーティーン

 カーテンの隙間から光が剣のように差し込んでいる。日差しの感じからすると、もう昼はとうに過ぎているのだろう。でも私の身体はベットの上に流された鉛のように蛞蝓のようにへばりついたままだ。昨晩飲みすぎた睡眠導入剤が喉にねっとりと絡んでいる感覚がとにかく気持ち悪くて、近くにあったペットボトルの中に入っているよどんだ液体を体の中に流し込んだ。

 一息つく間もなく、私はベットに顔をうずめて声もなく泣き出した。いや、今の私に流す涙など一滴もない。流れる涙もないのに、私は泣いている自分に陶酔しているだけなのだ。そして同時にその自分に自己嫌悪を感じ、今にも死んでしまいたくなる感情を声も出さずに自分しかいない部屋の中で泣いているふりをしているのだ。一通りの儀式を終えて、私は老いた駱駝のように身体を起こし、洗面台へと向かった。鏡の向こうには、意思もなくねじ曲がった髪が胸まで広がった姿を映し出していた。そして、一滴の涙が含まれていない黒くくすんだ涙袋と光を浴びることがなくなった青白い皮膚の中に何も見ていない黒い闇が二つ顔と言われる場所に鎮座していた。

 歯磨き粉をたっぷりとのせた歯ブラシを口に咥えたその一瞬、私は覚醒し闇に光が宿る気がした。が、それも単なる思い込みに過ぎず、二つの闇はあっという間にいつもの影を纏うことになった。

 歯磨きを右下の奥歯から磨き始め、左へ移行、そして上の歯は左の奥から右へ移動する、一通りのルーティーンを終えた私は、口にたまった穢れと懺悔を吐き出すように洗面台に歯磨き粉と唾液が混じったものを叩きつけ、口を濯ぐことなくバスルームに向かった。45度に設定しているシャワーを捻り、頭の上から足先まで水を体に纏わせる。私が住んでいるこのマンションで唯一気に入っているのは、瞬時に自分が望む熱湯が勢いよく体に叩きつけてくれることだ。シャンプーもボディソープも使用しなくなってどれくらいの時が経ったのだろう。ただただお湯に身体を打ち付けることを10分ほど行い、朝の儀式を終えた。

 これが私の一日の始まりなのだ。







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