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ホラー

「僕を殺してください」という少年

作者: 獅堂平

 街はすっかりクリスマスムードに変わり、どこでも陽気な音楽が聴こえる中、不思議な少年に出会った。

「僕を殺してください」

 彼はそう叫んでいた。人々は不審げに通り過ぎていく。

 少年は中学生くらいだろうか。背はそれほど大きくなく、平均より少し低いくらいだ。

「僕を殺してください」

 まるでマッチ売りの少女のように、彼は連呼していた。

 なんの目的だろうか。本当に死を望んでいるのだろうか。

「君は、何故そんなことをしているんだい?」

 私は声をかけた。

「こんにちは」

 少年は挨拶をした。

「こんにちは。とりあえず、喫茶店で話さないか?悩みがあるなら聞くよ」

 私は提案した。


 喫茶店に着き、私はブレンドコーヒー、少年はオレンジジュースを注文した。

「初めまして。僕の名前は鈴木宗徳すずきむねのりです」

 少年は自己紹介をした。本名かどうか疑わしいところだが、目下のところ、その名前で呼ぶことにする。

「えっと、宗徳くんは、何故、あんなことをしていたんだい?」

 私が聞くと、少年は呆けた顔で、

「え、ダメなんですか?」

 と言った。

 ちょうど店員が飲み物を運んできたので、一旦、会話は途切れた。


「駄目というわけではないけど、なんていうか、異常なことなので」

 コーヒーを一口飲んだ。思いのほか酸味が強く、私は顔をしかめた。

「たしかに、はたから見れば、おかしなことには見えるかもしれませんが、僕には必要なことだったので」

「死ぬことが?」

「いえ、殺されることです」

「どう違うんだい?」

 私は好奇心が表出することを抑えながら尋ねた。

「死には、病死、事故死、自殺などありますが、中でも他殺が一番崇高だと思っているのです」

 宗徳はまっすぐな瞳で私を見た。冗談の類ではなく、本気のようだ。

「崇高ねえ……」

 私は二の句が告げられなかった。

「ええ。崇高です。他人の明確な意思が介入し、絶対的な支配がありますから」

 彼の発言に、私は唸った。

「ということは、君はマゾか何かなのかい?」

「SMの趣味はありません。けれど、死を選ぶのなら、殺害されることがもっとも崇高だと思ったのです」


 *


 私は彼をファッションホテルに誘った。

 そこであれば、事を済ませるには都合がよいと思ったからだ。性的行為をしようが、殺人をしようが、他人に見咎められることがない。

「初めて、こういうとこ、入りました」

 少年は目を輝かせて言った。これから自ら殺される人間とは思えない反応だ。

「そうか。よかった。いい冥土の土産になるね」

 私が言った。この時、脳をチクチクと刺激する、何かを私は感じていた。

「ええ。そうですね」

 彼は首肯した。

「その前に、シャワーを浴びるかい?」

 性行為の前のような言葉なので、私は自身の発言で苦笑した。

「いえ。このまま始めてしまって、問題ないです」

 宗徳はにこやかに笑った。その笑顔は、どこかで見た記憶があった。


 彼をベッドに押し倒すと、私はゆるりと彼の首に手をあてた。

「今更、もう遅いからね」

 私が確認すると、彼はこくりと頷いた。

「始める」

 私は少しずつ、手に力を込めていった。


 彼はもだえ始めた。死を覚悟しているとはいえ、本能が生を求めているのだろう。

 その姿に、何年か前にイジメを題材としたドラマを思い出していた。


「あっ」

 私は手を離した。はっきりと記憶が蘇った。

 この少年は、一時期、子役として有名になった俳優ではないか。


「君は、もしかして、()()()()()()()()()()()()としていたのか?」

 私が尋ねると、彼は力なく笑った。

「はい。なりきって、殺される役を演じていました」

「本当に殺されたら、どうするつもりだったんだ?」

「その時はその時です」

 私は唖然とした。


 ()()()()()()()()()()()()が眼前にいる。


「おじさんは、なんで、僕を殺そうと思ったのですか? 普通、頼まれても、やらないですよね」

 少年の問いに、私は笑った。

「君と同じだよ。私は、監督兼脚本をやっている映画監督なんだ。

 ()()()、人()()()()()()()()()()させたかったんだ」

 この少年とは良い映画が撮れそうだと確信した。


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