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愛してる(3)


 

「ソラウ様、お姉様にお養母様の居場所をお聞きしましょう! 本当にお亡くなりになっているのならハルジェ伯爵家に遺体が安置されていると思いますけれど、私も死んだなんて信じられないです!」

「君のお姉さん、どこにいるの?」

「学園にいらっしゃると思います!」

「ふーん……いや、学園は今日魔物討伐実習だったよね。他の実習生はまだシエレラの森にいるかもしれない。と、なると――」

「ま、待ってください! ソラウ殿! ルビアナが生きているというのですか!?」

 

 さっきまであんなに落ち込んでいたのに、目をキラキラさせながら顔を上げる侯爵様。

 その表情を見るに、本当にお養母様のことを愛していらっしゃるんだな……となんとも言えない複雑な気持ちになってしまう。

 レーチェお姉様とマルチェ、ハルジェ伯爵家姉妹とまったく血の繋がりがなかったと聞かされた今だと、お顔を見ることも稀なお養母様をこうも愛しておられる方を前にして私が複雑、と感じるのも見当違いな気もするけれど。

 

「生きているよ。その証拠に真の聖女の里より派遣されるはずだった聖女――リーディエから聖魔力がごっそりと消えている。魔力を失ったのはシエレラの森だよね? じゃあやはり森のそばに、元聖女ルビアナはいたのか。あるいは……」

「私の聖魔力がなくなったのが、関係あるんですか!?」

「ないわけがない。方法はよくわからないけれど……宝具に変な細工がされていたから、多分それも関係あるんだろう。君だけでなく俺の魔力もかなり消費させられたし、とんでもない女だな。聖女の里から聖女じゃなくて悪女も生まれるんだねえ」

「ええ……?」

 

 最後のは、嫌味だ。

 初めて見る意地悪い、今ここにいないお養母様を軽蔑する表情。

 ソラウ様ってそんな表情もできたんだ?

 私の知らないソラウ様を、今日一日でたくさん見た。

 意地が悪いのに、きっと嫌な表情のはずなのに、それでも今まで知らなかった表情を見られて嬉しいなんて思ってしまった。

 多分これが……恋というもの。

 そうか、本当に私、ソラウ様を好きだったのか。

 これがその感情なんだ。

 名前をつければなんであっけなく理解できてしまうのだろうか。

 こんな時に知ってしまうなんて、やり場にとても困る。

 

「行くよ」

「え? こ、今度はどこへ?」

「父さんのところ」

「へあ!?」

 

 なんで、というか、ソラウ様ももう魔力は空に近いのでは?

 私が不安に見上げたので、意図を察したのかソラウ様はネックレスの祝石(ルーナ)を口に含む。

 一瞬で普通の魔石に戻る祝石(ルーナ)

 ううん、なんなら魔石もただの石になった。

 え? ……え!?

 

「魔力は自然回復するしかないって……」

「うん、そう思ってたんだけど君の魔力を元聖女ルビアナが吸ったということは魔力って意図して吸収もできるんじゃないのかって思って。やってみた」

「やってみた」

 

 思わず周囲の騎士様や魔法師様をみてしまう。

 ポカン、と口と目を開けて「なに言ってんだこの人」という表情をしている。

 ですよね。

 

「……思ってもできないのでは?」

「なんで? 与えるのと逆のことをすればできるでしょう。そもそも回復する時も自然から魔力を取り込むんだよ? 人間は体内に魔石を持ってないんだから。じゃあ逆も然りじゃない? 聖女の里の聖女はそれを極めて、子世代に蓄積させていく術があるから聖女なんだと思うし? なら【聖人】の俺ができても不思議じゃないよね?」

 

 その理屈が通るんですか?

 通るんですね。

 思わずまた、周りの騎士様や魔法師様を窺ってしまう。

 もはや未知の生き物を見る目なんですけど。

 なるほど、ソラウ様は本当に――正真正銘本物の天才なんだ。

 今まではふわっとした知識としてでしか知らなかったけれど、こうして目の前でしれっとあり得ないことをされてしまうと認めざるを得ないというか。

 もう、そういう言葉でしか言い表せない。

 そういう言葉で諦めるしかない。

 あれだ。

 偉い人の考えることはわからないな! だ!

 

「さっき倒した魔物の魔石がまだシエレラの森に転がってるもんねぇ。あれらから魔力ごっそりもらって回復してから、元聖女様にお目通り願おうじゃん?」

「えっと、旦那様のところへ行かれるんですか? でもなんで行くんですか……? 旦那様がどうして狙われてるって――」

「ハァーーーー? 昨日説明したじゃん、忘れるの早すぎじゃないー?」

 

 え? 説明? されましたっけ?

 腕を組んで空を見上げてみるけれど色々いっぱいいっぱいだったからすぐに思い至らない。

 そんな私の様子にまたも深いため息を吐くソラウ様。

 ううう、覚えの悪い弟子でごめんなさい!?

 

「元聖女ルビアナは、四十五年前に聖女の里に迷い込んだ父さんに興味を抱いて里を捨てたの。もうそこまでくると執着だよ。侯爵様もルビアナが俺の父に会おうとしていたのは知っているのでは?」

「……そ……それは……」

 

 言い淀む侯爵様。

 それは肯定ってことですか?

 ええと、ルビアナお養母様は旦那様に会いたかったの?

 でも伯爵夫人が元公爵の旦那様にお会いするのは、かなり厳しいのでは……。

 

「確かに、ルビアナが私に近づいた理由は元公爵への取次を望んでのことだった。だが、私が元公爵へ会わせたい女性がいると言ってもまったく取り合ってくれなくて」

「なんでしたっけ? 派閥? 違いますもんね、父さんと侯爵は。あれで警戒心も強い人だし、それでリーディエを輿入れさせて無理やり接点を作ったんだろうなぁ。俺が弟子って形にしたから、結局親戚づきあいも無理になったケド。だからってこんな強行に出るなんて。余裕なさすぎでしょ。どんだけ?」





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