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城の影樹


 私のいる場所からも大きな窓から黒い枝が勢いよく動き伸び続けていくのが見える。

 会議室の人々が後ろを振り返り、口々に「なんということだ」「す、すぐに騎士を……」と国王陛下に進言していたけれど……。

 

「このタイミング、この場所で影樹が発生するとは……。やっぱり狙いは父さんか」

 

 ソラウ様が静かに呟く。

 横顔はなにか辟易したようなもの。

 

「ソラウ殿よ、影樹を伐採してくれ!」

「ええ、まあ、いいですよ。ですがさすがに一日で二本も影樹を伐採したことはないですし、俺の魔力にも限界があります。”三本”は無理ですので予めご了承くださいね。手を打つなら、俺があの影樹と戦っている間にお願いします」

 

 上品に胸に手を当てて頭を下げるソラウ様の言葉に、国王陛下は一度渋い表情で目を閉じてから、次に目を開けた時にはもう吹っ切れたように手を挙げる。

 

「すぐに騎士団の第二部隊をルア侯爵家に派遣せよ! 侯爵夫妻を城へ! 屋敷はソラウ殿が調査するまでネズミ一匹入れるな! 城内の非戦闘員はすぐに避難を! 魔法師団は影樹伐採に迎え!」

「「「は!」」」

 

 衛兵たちが会議室から出て行く。

 私はいったいどうしたら、と思っていたらソラウ様に手を差し出された。

 見上げるとコクリ、と頷かれる。

 目の届くところにいろ――ということですね。

 その手の平に、自分の手を重ねる。

 そしてどうするのかと思ったら、会議室の窓を開く。

 ギョッとしたのは私だけではなかった。

 国王陛下含め、貴族の皆様も「え? なにする気? まさか?」と目をこれでもかと見開いている。

 ですよね? まさかですよね?

 

「ソ――」

「口閉じておきな。舌噛むよ」

「あああああああ!? やっぱりーーーーーー!!」

 

 そのまさかでしたよ。

 私の手を引いて、引き寄せられたらそのまま腰を抱えられて二階の窓から飛び降りたのだ。

 いくら二階で屋根が近いと言っても、さすがに常識的なものが欠けてはいませんかねこの人ー!?

 しかも着地したらそのまま屋根を走るし。

 私を抱えたままなのに、ものすごく速く走れるのは身体強化魔法だろうか?

 あっという間に城壁近くで枝を伸ばす影樹に近づいた。

 

「ここにいて。魔物を生み出す前に秒で終わらせる。」

「え、秒で!?」

 

 そんな無茶な、と思ったらあの大きな杖を取り出して屋根に柄の底をつける。

 地面に広がる光の円。

 そこからソラウ様の言葉――呪文によって柄や文字が書き加えられていく。

 

「光の神に罪を数えよ。光の神に懺悔せよ。光の神の沙汰を待て。汝は光の神の影。光の神の足元。光の神に伏し、首を垂れて、神の審判を受けよ! クロスライトニング・ジャッジメント!」

 

 魔方陣がソラウ様の足元に収束する。

 それが杖に流れ込み、ソラウ様が杖を振るうと無数の光の十字架が影樹に降り注いだ。

 さっき私を助けてくれた魔法だ。

 改めて見るとものすごい魔力の量。

 平然と使っているけれど、もしかしてこの魔法人間が一人で使える魔法ではないのでは?

 魔法師の平均的な魔力量が40前後、と習ったけれど、この魔法に使われている魔力は200を超えているように思う。

 広範囲で、高威力。

 影樹だからより効果が高いのだろうけれど、やっぱりソラウ様って【聖人】なんだなぁ!

 

「リーディエ、行くよ」

「あ、はい!」

 

 なんで!? と聞きそうになったけれど、多分さっきのように光の神の宝具を元に戻す必要があるんだ、と察してソラウ様の手を取った。

 ソラウ様は縮んでいく影樹を追うように走り、「清浄の風を纏い、清水を啜り、聖火で浄化され、聖域と成せ! リー・サンクチュアリ!」とあの真っ白な領域を展開する。

 影樹の発生源を見下ろすと、数人の騎士や魔法師、貴族が数人倒れていた。

 ソラウ様に「下りるよ」と言われまた横抱きに抱えられる。

 ひいい! だから、ソラウ様に触られると胸がドキドキして顔が熱くなって、なんだか困る! のに!

 

「ソラウ様!」

「全員今のうちに保護しろ! 黄色い礼服の男はそのままにしておけ! リーディエ、こっちへ」

「え? は、はい」

 

 真ん中で体を縮こまっている男性に、着地したソラウ様が駆け寄る。

 彼からなにかを持ち上げると、私の方に戻ってきた。

 

「これ」

「これも光の神の宝具……ですか?」

「うん。封印する。本来の姿に戻して」

「はい」

「あ、無理しないでいいよ。今も結構ギリギリでしょ?」

「はい、でも……頑張ります。ソラウ様に魔力も分けていただきましたし」

 

 それでも私の身を案じて肩を支えてくれた。

 しかし、これは――

 

「あ……う……」

「リーディエ」

「どうして、私、魔力、多いはずなんですよね? なんでこんなに魔力が足りなくなっているんでしょうか」

 

 手渡されたのは腕輪。

 これが光の神の宝具の一つ、腕釧(わんせん)

 人の腕に着けられるくらいの大きさだけれど、今私の体の中に残っている聖魔力では細工ができない。

 なんでだろう?

 私、魔力量は人より多いとソラウ様が言っていたのに?

 

「そんなの俺が聞きたいんだけど~?どこでそんなに魔力消費してきたの?君の魔力が枯渇するなんて――まさか、君……」



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