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転機(4)


「はっはっはっ。これはまた後日だなぁ」

「えっと、申し訳ございません」

「なにも謝ることはない。明日も仕立て屋で続きをやるのかい?」

「ええと……ご迷惑でなければ……」

「もちろんだよ。来年の国王陛下の誕生日パーティーには、ソラウとともに参加してほしいな」

「ソラウ様と……?」

 

 首を傾げていると、旦那様がふふふ、と笑って目許の皺を深める。

 ソラウ様と一緒に?

 来年の国王陛下の誕生日パーティー?

 旦那様がなにをおっしゃっているのか、まったく理解できない。

 

「――実はね、私には『聖女の里』に行った経験がある」

「え? は、はい?」

 

 突然なんのお話?

 聖女の里――聖女様が現れる、秘境にある女性しかいないという村のこと?

 旦那様のお話によると、聖女の里は男子禁制で男が迷い込んだりしないように[迷いの霧]という聖魔法で閉ざされている。

 しかしそれでも、救いを求める心を持つ者はうっかりたどり着くことがあるという。

 旦那様は[迷いの霧]に迷いながらも聖女の里に辿り着き、そこで罰と祝福として聖痕を授かった。

 その聖痕には光の神と聖女を感じ取る力があるという。

 

「そのようなものがあるのですね」

「そう。そして、リーディエ。私には君の姿が光に包まれて見える。それは違うことなき聖女の光。君はおそらく『聖女の里』の聖女様だ」

「………………」

 

 がだん、と馬車が小さく揺れる。

 旦那様に言われたことが、まったく理解できなかった。

 

「え……ええ、と……」

 

 どう答えたらいいものなのか。

 旦那様が嘘をおっしゃるとは、思わないけれど……聖女? 私が? 聖女の里の、聖女?

 

「突然こんなことを言うと混乱するだろうと思って、ソラウに君を預け、魔力の属性と魔力量を調べさせた。思っていた通り君の魔力属性は聖魔力。そして、魔力量はソラウの倍。おそらく、とつけたがここまでくるともはや疑いようがない。断言しても問題はないだろう。――君は聖女の里出身の聖女だよ」

「……え、あ……い、いえ、でも……」

「そう、だからこそ理解ができない。なぜ聖女の里の聖女である君が、ハルジェ伯爵家の養女として生きてきたのか。調べさせてはいるが、やはり君自身にもわからないのだろう?」

 

 気がつくと体は震えていた。

 なにを言われているのかわからない。

 わかりたくない。

 私が聖女の里の聖女様?

 旦那様は、本当になにをおっしゃっているの?

 信じられなくて首を横に振ると、頬杖をついた旦那様が目を細めて微笑む。

 

「ソラウには聖女の里に行き、君のことを調べるように頼んである。そのソラウも、もうすぐ帰ってくる頃だろう。あの子が帰ってきたら、君は君という人間の真実から逃れられなくなる。聖女として――どう生きていくのかを決めなければならなくなるだろう。このまま祝石(ルーナ)細工師として生きていくつもりならば、帰ってきたソラウとちゃんと話し合いなさい。あの子ならば君を守ってくれるだろう」

 

 声が出ない。

 首を横に振る。

 なにをどう、答えればいいのか。

 私は、私――私が、聖女の里の聖女?

 

「いきなりこんなことを言って驚いただろう」

「っ……」

「だがね、私は初めて君に会った時から知っていたよ。だからこそ、どういうことなのかがわからなかったんだ。ハルジェ伯爵が私に君のことを多額の援助金の代わりに、嫁に出したいなどと持ちかけてきた時は純粋に君の境遇を哀れに思ったからだったのだけれどね。いざ、君が来たらどうしたことだろう? 君は“聖女”だったのだから」

 

 多額の援助金。

 それを聞いて、お養父様が私を“売った”のか、と納得した。

 けれど、何処の馬の骨とも知れない私が聖女の里の聖女様。

 だめだ、何回反芻しても、理解が追いつかない。

 

「屋敷に帰ったら、ゆっくり考えなさい。ソラウにもよく話してみるといい。ただ、君は近く聖女として王に会うことになるだろう。今日仕立てたドレスも、そういう場で使うことになる。今まで君に淑女教育を受けさせたのも、最低限、そういう場で恥をかかせないためだ」

「そ……そう、だった……ん、ですか……」

「身の振り方はソラウが戻るまでに決めておくといい。決められなかったら、ソラウに身の振り方を相談しなさい。あの子は権力に靡くような性格ではないから、きっと君の力になるだろう」

 

 ゆっくり、顔を上げた。

 ソラウ様。

 旦那様の優しい、ソラウ様と同じシャルトルーズイエローの瞳。

 シニッカさんにああ言われて、旦那様のことはどこか警戒していた。

 恩人になんて態度を。

 反省して、そして一度きつく目を閉じる。

 自分のことがまだ、ちっともわからない。

 わからないけれど、旦那様はきっと嘘なんて吐く方ではない。

 私が聖女かどうかは、ソラウ様に相談してみてから――だから……!

 

「わ、わかり、ました。ソラウ様に、相談してみます」

「そうか。うん。じゃあ、そうしなさい。少なくとも、私よりソラウの方がいいはずだ。あの子ならきっと君を守ってくれるだろうからね」

「…………」

 

 ソラウ様の名前に胸が苦しくなる。

 そうだ、ソラウ様は私を守ってくださっていた。

 あんなに子どもっぽいのに、シニッカさんに私の味方になるように言っていてくださったり、私に祝石(ルーナ)細工師としての生き方も示してくださったり。

 自分の出生は、わからない。

 旦那様がこうおっしゃるのなら、本当に聖女の里の聖女なのかもしれない。

 でも……でも……、私は……。

 どうしよう。

 ソラウ様に、早く会いたい。



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