魔力を視る(1)
「今日はカフスボタンを作ってみようか?」
「はい!」
その日、ソラウ様がカフスボタンの台座を持ってきてくれた。
基本的な装飾品を一通り作れたので、新しい装飾品に挑戦だぁ!
「もうすぐ光の季節だろう? 社交シーズン中の光の季節には守り効果の装飾品が王侯貴族から求められやすい。まあ、需要がとても高いんだ。男性貴族は女性ほど装飾品を身に着けられるわけではないから、カフスボタンを祝石に変えるのは自身の身を守るだけでなくカフスボタンを懇意にしている女性に手渡したり、逆に女性からプレゼントしてアピールすることもあるらしいよ。まあ、普通に親子間、兄弟姉妹間、夫婦間、友人間でも贈り合うね。男性へのプレゼントの定番品なんだよ」
「つまり、これからたくさん作らないといけないんですね」
「そうそう。だから今日からカフスボタン強化週間やるよ」
「わかりました。頑張ります」
しかしながら面倒くさそうに祝石を台座に取りつけていくなぁ。
ソラウ様は祝石を作りたいのであって、祝石を装飾品にしたいわけではないんだよね。
でも、そうして祝石を作りすぎているので置き場に困って装飾品にしている。
私はまだ、効果を高めきれていないみたいなので、試行錯誤を繰り返す日々だ。
対してソラウ様は台座に祝石を取りつけるのも上手いし、祝石の能力を引き出すのも完璧。
本当に、なにをさせても天才なんだなあ、と感心する。
最近は嫌いな野菜も食べられるようになったし、寝坊も減ったし、手が離れてしまうのがちょっと寂しくもありの。
「あの、祝石の効果を高めるには聖魔力を均等に込めなければいけないって教わりましたけれど」
「うん、そうね。なに? まだできないの?」
「ううう……。だって難しいですよ。あんまり込めすぎると変な熱を持つし……」
「石によって魔力の許容量があるからねぇ。込めすぎれば砕けちゃう」
聖魔力を込めながら、祝石を台座に取りつけて効果を高めて確定させる。
けれど、そのための聖魔力を込めすぎたら壊れちゃうんだよね。
そもそも、祝石にするためには一度石を綺麗に磨き、[祝福]をかけて石の中の穢れを浄化する。
そのあと、もう一度[祝福]をして石を祝石にするのだ。
祝石になった時点で石の中には聖魔力がたっぷり。
装飾品にする時に聖魔力を使うのは、台座から金具部分などに祝石の効果を持ち主に伝えるようにするのだそうだ。
その接続の加工が難しいんだよね。
「初日にさー、リングの作り方とか教えたでしょ?」
「え? は、はい」
「祝石みたいにはならないけれど、ああいう台座を作る時にも聖魔力って込めることができるんだよ。祝石細工師ってそういうところから職人の腕が出るんだ。今はそんなに高品質の装飾品のオーダーもないけど、光の季節が過ぎたら次の光の季節に備えて依頼が来るようになると思う。それまでには作れるようになっててほしいけどそのへんどう?」
「え、あ、う、が、頑張ります」
結構な無茶ぶりをなさっていませんか。
いや、でも、ソラウ様の作った装飾品は私と同じ既製品の台座やリングを使っても高品質になる。
これはもう経験とか才能なんだろうな。
けれど、土台も自分で作れれば高品質になるのかな?
とはいえ、まだそこまでの経験はないしな。
ううん、ということは、私もっと色々成長できるっていうことだよね?
使用人として働いていた頃よりも毎日楽しい。
できることが増えていって、これからもできることが増えていくってわかる。
「じゃあ、こっちの祝石はよろしく」
「オニキスですね。高めるのはトラブル防止の効果で大丈夫ですか?」
「そー。あーあ、もうそろそろ細工師仕事飽きてきたなー。早く光の季節になって強い魔物を狩りに行きたーい。でっかい魔石を祝石にして効果調べ尽くしたーい」
「わ、わあ……」
言ってることがむちゃくちゃだなぁ!
ま、まあ、ソラウ様は実績もあるから本当に光の季節になったら討伐のお仕事に行くんだろう。
この作業場にある宝石や魔石はそうして集められたらしいので。
魔石の祝石の細工はソラウ様が台座の加工からするので時間がかかる。
他にも聖魔力を使える細工師がいないわけではないらしいけれど、国に片手の数しかいないらしいから、貴重な魔石の祝石はソラウ様が自分で加工した方が早い。
でももうその作業に、ソラウ様は飽きている。
私に対して「早く魔石の祝石も細工できるようになってよぉ」と唇を尖らせるようになっているのも、それが原因だろうなあ。
はい、頑張ります。
とはいえ、カフスボタンへの細工加工もあんまり難しくはない。
難しいのはやっぱり聖魔力のを注ぐ量。
今のところ破壊にまで至ったことはないのだけれど、金具の方に時々「ピシッ」という変な音を聞いたことがある。
もうその音が怖くてそれ以上魔力を流せなくなるのは仕方ない。
でも、今日はもう少し流す聖魔力の量を意識してみようかな?
「あ、そうだ」
「はい?」
「俺は普通にできるから考えたことなかったけれど、自分の魔力を”視る”ようにすればいいんじゃない? なんかオラヴィがそう言えって言ってたんだけど」
「え? み、視る? 自分の魔力が視えるんですか?」
「そう」
なんでそんな大事なことを今まで教えてくれなかったんですか、この人。
入り口に立って待機しているオラヴィさんの方を見てしまう。
わかる、わかるわ。
オラヴィさんが「ソラウ様は自分が当然のようにできるので他人もできる、やってると思っているんです!」と目で言っているのが。
なるほどな~~~?








