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初田ハートクリニックの法度(鎌倉物語)

在りし日のひととき

掲載日:2023/10/18

 小学校に入学したばかりの春。


 初斗はつとは授業の一環で、芋の苗を植えた。


 ヒョロヒョロの葉っぱを土にさしただけなのに、これが芋になるなんて信じられない。

 本当に芋になるの? と先生に何度も聞いて、先生は「なるよ」と答えてくれた。


 休み時間、毎日校舎裏の畑を見に行って、芋が生えてくるのを待った。

 奇跡の瞬間を目撃したくて。


 家でそれを話すと、双子の兄、平也へいやは「お前バカだろ」と辛辣なことを言う。

 クラスメートにも同じことを言われた。


 見に行く行為が楽しいわけではなく、気になる、見てみたい、それだけだった。


 日に日に葉っぱは伸びていくのに、いっこうに芋は生えてこない。

 おじいちゃんの家のかぼちゃみたいに、花が咲いてそれが実になると思っていた。


 そして秋。

 親子芋掘り会が開催された。



 みんなで軍手をはめて、先生に言われたとおりにつるをひっぱる。

 葉っぱしかないに何を収穫するんだろう、と不思議に思う。


 先生が農業用のフォークを土に入れて引くと、たくさんの芋が顔を出した。


「土の下にいたのか……」


 芋を洗って新聞紙でくるみ、焚き火に入れる。

 家の台所ではこんな焼き方できないから、初斗はじっと近くで観察していた。


「初斗、火傷するからこっちに来なさい」


 母の初音はつねに呼ばれて、初斗はしぶしぶ焚き火から離れた。

 火に近づきすぎて顔が熱くなっているのを、初音が濡らしたタオルで冷やしてくれる。


「保健室で氷をもらってきましょうね。そんなにじっくり観察して、何か発見でもあった?」

「うーん、火を見ていると目が痛いってことくらい」

「困った子ねぇ……」


 兄も同じクラスだけど、集団行動が嫌いで芋掘りの輪に入らず、玄関の階段に座ってあくびをしている。


「双子なのに性格は全然似ていませんね」なんて担任に言われる始末だ。



 焼きたての芋にかぶりついて舌を火傷して、味がわからなくなる初斗。


「あふひ」

「そうでしょうねぇ……」


 母は呆れてはいるものの、どこか楽しげに微笑む。


「あなたたちは将来どんな人に育つのかしらね。想像もつかないわ」

「ぼくはこころのお医者さんになるよ」


 息を吹きかけ、ホクホクの芋にかぶりついて、初斗は夢を語る。


「心の医者……って、精神科医? 初斗は今からもうそんなこと考えているのね。平也は?」

「どうでもいい」


 全く同じ作りの顔をしているのに、言うことは真逆。


「いつか夢ができたら聞かせてね」

「はいはい」


 やる気のない返事をして、平也は手付かずの芋を初斗に放る。


「兄さんは食べないの?」

「甘いもんは嫌いなんだよ」

「そっか、じゃあ兄さんの分もぼくが食べる」

「こーら、二つも食べたら夕ごはんが入らなくなるでしょう」

「入るよ。ぼく、せいちょうきだから」


 どーんと胸を叩く初斗。

 けれどまだ小学一年生。大きめの焼き芋二つがオヤツとしてお腹に入るわけがなく、母に没収されてしまった。



 焼き芋は冷蔵庫に入れてもらって、翌日のオヤツになった。




 それから三十数年。

 初斗は父になり、娘の保育園で芋を植えるという行事が行われた。


「パパ、パパ。ほんとにこの葉っぱ、お芋になるの?」


 小さい頃の自分と同じようなことを言うものだから、血は争えないなと思って笑った。



END

初田ハートクリニックの法度の主人公、初田先生が幼少の頃のお話。

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― 新着の感想 ―
[一言]  すごく可愛らしいお話だと思います!   小さな子どもの勘違い、可愛らしいですね。(私は幼い頃に図鑑でナマコに「食べられる」と書いているのを見て、巨大なナマコに人間が食べられている場面を想…
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