シークレット・ボックス 【月夜譚No.202】
秘密は暴きたくなるものである。隠されれば隠されるほど、ソレが気になってしまうのが人間の性なのだ。
だから、これは仕方のないこと。己の自制心が機能しないのは、兄が意固地になって隠し通そうとしたせいである。
そう自分に言い聞かせた少女は、目の前の箱に手を伸ばした。ロック機能付きのものであるが、鍵は既に兄の目を盗んで手に入れている。
兄と出会ったのは、一年ほど前。少女の父が亡くなって暫く、母が再婚相手に選んだ男性の連れ子だった。だから、正確には義兄である。
最初は初対面の緊張でギクシャクしていたが、義父も義兄も優しく接してくれて、数カ月もすれば本当に家族のような関係が築けた。
義兄は気安く何でも話してくれたが、一つだけ、この箱の中身は頑として教えてくれないのだ。少女はそれが気になってしまい、暇さえあれば箱の中身に思いを巡らせてしまう始末だった。
だが、それも今日までだ。何を見ても他人に言うつもりはないし、本人に言わなければバレることもない。
少女は高鳴る胸を抑えつつ、ゆっくりと鍵を回した。蓋を開け、中を覗き込む。
そして目に映ったそれ等を認識した途端、少女は真顔になってそっと蓋を閉じた。静かに鍵をかけ、机の上に箱を置く。
これは……何というか、隠したくなるのも頷ける代物だ。
兄には悪いことをしてしまった。少女は少しの後悔を抱えて、過去の遺物を元の場所に返すのだった。