ちょちょぷりあん1
俺の心臓はいまだかつてないほど高鳴っていた。
今日、俺は人生で初めての告白をする。
あの角を曲がった先に、アイツがいる。
幼馴染で、いつも俺のそばにいて、それがいつの間にか当たり前の存在になっていた。
それまでは特別な気持ちがあったわけじゃあない。
しかし昨日、アイツが尊敬する先輩に告白されているところを目撃してしまった。
そしてソレを見た時、俺は胸が丸ごと抉られるような気持ちになった。
つい物陰に隠れてしまった。
胸の心臓はえぐられたままだ。
口から魂が出てきてしまいそうで、俺はとっさに口を抑え、視線を足元に向ける。
そこに偶然いたちょちょぷりあんと目が合った。
しばしの沈黙の後、
アイツは先輩に向かって口を開いた。
しばし返事を待ってほしい、と。
血液が止まっていたのかと錯覚するような俺の身体が、再び熱を帯び始める。
アイツは先輩と付き合わない。
アイツは俺の元から去っていない。
なんだこの感情は?
俺は、足元のちょちょぷりあんを少しだけ撫でると物音を立てないように細心の注意を払い、その場を去った。
その夜、俺はベッドの上で今日の事を思い出していた。
俺に芽生えた感情はなんなのか?
────いや、もう、気づかないふりはやめよう。
俺は、アイツの事が、好きなんだ。
俺は、アイツの事が、ずっとずっと好きだったんだ。
その事実を認めた後、俺は布団の中で悶えた。
窓の外ではちょちょぷりあんが、そんな俺をじっと見つめていた。
そして今日、俺はアイツを呼び出した。告白するために。
先輩は男の俺から見てもすごく頼りなる素晴らしい男だ。
アイツがなんでそんな先輩からの告白を保留にしたのかはわからない。
でも、これは千載一遇のチャンスだろう。
先輩がアイツを押しに押しまくれば、きっとアイツは根負けして先輩と付き合い始める。アイツはそういうヤツだ。そして器用のいい先輩だ。きっとその後を上手くやるだろう。
────だから、俺が俺の感情を伝えるのは今日が最初で最後。
気取ったセリフは一晩考えても思い浮かばなかった。
だから、俺はこの気持ちをそのまま伝える!
角を曲がった先に、いつものアイツがそこに立っていた。
木の上に目を向けるとちょちょぷりあんもそこにいた。
「なぁに? 用って?」
いつも見ているはずなのに、いつも笑い合っていたはずなのに、今日のアイツはなんだかとても綺麗で、だけども何故か、まるでガラス細工のようにとても儚く壊れやすそうな錯覚を感じる。
ちょちょぷりあんが木から落ちてきて、俺たちの位置からちょうど正三角を描く場所で動きを止めた。
覚悟は決めた。
だけども言葉を出そうとしたとき、喉の奥が震えている自分に気が付く。
声を絞り出そうにも出てこない。
無理に出せば泣き声しか出てこないだろう。
なにをしているんだ。
こんな時に、そんなかっこ悪い告白なんてあるかよ!
「ちょちょっ、ぷりりぃ~」
ちょちょぷりあんの声にハッとする。
それと同時に喉の震えも止まった。
今なら、声を発せられる。
「お前の事が好きだ。……俺と、付き合ってくれ!」
言いながら俺は頭を下げる。
言えた。
言った。
言っちまった。
顔が真っ赤なのが自分でもよくわかる。
どうなる?
お前はどんな顔をしている?
お前はなんて答えてくれる?
俺か?
それとも先輩か?
ちょちょぷりあん、俺に勇気を……!
「ずっと……その言葉を待っていたの……」
その言葉に、俺はバッと顔をあげた。
驚きと喜びの気持ちを前面に押し出して。
アイツは俺を選んでくれた。
────しかし、顔をあげた俺の眼に映ったのは、アイツの泣き顔だった。
「でも、でも……遅いよ……遅すぎるよ……」
アイツは泣きじゃくり始めた。
俺は呆然とそれを眺める。
「どうしてもっと早く言ってくれなかったの? もう私、ちょちょぷりあんと一緒に海外に行くの…… ……ううん、私も悪いの」
少しだけ泣き声だけがその場に響いて、アイツは更に声を絞り出す。
「ありがとう……私も、ずっと好きだったよ……」
そう言ってアイツは俺から背を向け走り出した。
俺はそれを追う事が出来なかった。
俺はその場で膝から崩れ落ち、しばし呆然とした後、目から一滴の涙が、そして口からほんの一言がこぼれ落ちた。
「ちょちょぷりあんて、なに?」
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