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第6話 ジェレミー皇子の悪行

 リディア嬢と俺は謁見の間に居残りになった。

 そしてなぜかロマリア神聖国の聖女様が皇帝陛下の横に立ち、ニコニコしながらこちらを見ている。

 さっさと退出してください……。


「リディア、それにルークよ。今までこのような茶番に付き合わせてすまなかったな」

「宰相閣下、それはどういうことでしょうか?」


 リディア嬢が不安げに尋ねた。


「ジェレミー皇子の悪行は初めから掴んでいたということである」

「「ええっ!」」

「それを承知でジェレミー皇子には踊って頂いた」

「なぜ、そのようなことを?」

「ジェレミー皇子が動けない隙に証拠固めをするためじゃ。このことはブリュネ公爵もベルガー伯爵(おやじ)も知っておるぞ」


 ああ、そういうことね……どうりでおかしいと思ったよ。

 それにしても実際はどんな悪さをしていたんだろう?

 

「ちなみにルークよ。お主が言っておったジェレミー皇子の隠し事とは何か? 話してみよ」


 ごめんなさい……それはハッタリです……。


「え~と、先ずは利害関係を考えました。ジェレミー殿下とシャリエ伯爵の結びつきにどのような利益があるのかと」

「なるほど、良い着眼点であるな。それから?」

「シャリエ伯爵は北方山脈にある鉱脈が枯れたせいで最近は資金繰りで困っていたと聞きおよんでいます」

「その通りじゃな」


 ここまでの情報源は親父殿です。意外と情報収集能力が高いんだよな。


「ところがです。運がいいことに、シャリエ伯爵は新たな鉱脈を発見したのです」


 新鉱脈は作り話しだけどな……。


「ほう、どこからそのような情報を手に入れたのか気になるが、ジェレミー皇子との関係は?」

「新たな鉱山を開拓する資金がないので、ジェレミー殿下に泣きついたというわけです。おそらく、その鉱山の利権と引き換えに」

「つまり、ジェレミー皇子とエレミー嬢が結婚すれば、資金源の基盤は盤石になるというわけじゃな」

「そのとおりでございます。ジェレミー殿下は新鉱脈の開拓を隠し、利益を独占しようとしていたと推察いたします」

「ご明察じゃ」

「えっ?!」

「んっ? ルークは知っていたのではないのか?」

「そ、そうですね。もちろんです。もちろんですとも……」


 真実と出任せを混ぜた作り話だったのに当たっていたとは……。

 リディア嬢が俺の腕を組んでニコニコしている。


「しばし待たれよ」


 ボドワン宰相は意味ありげな笑みを浮かべ、皇帝陛下に近づいた。

 何を話しているのだろう?


「リディア、ルーク! こちらへ参れ」


 ボドワン宰相に呼ばれた。

 皇帝陛下の前に行くのはちょっと気が引けるが、リディアは躊躇なく壇上に登っていく。

 さすが公爵令嬢だ。俺はリディア嬢にしっかりと腕を掴まれているので、当然一緒についていくことになる。まるで姉に連れられた弟のようで恥ずかしい……。


 それにしてもリディア嬢は力が強い、身体強化魔法でも使っているんじゃないのか?


「ふたりとも、ご苦労であった」

「はい、有り難きお言葉、痛み入りますわ」


 リディア譲と俺は頭を下げた。

 そろそろ腕を離してくれないかな……。


「緊張せずともよい。余はふたりに褒美を取らせようと思っておる」

「そのようなお気遣い無用でございますわ」


 リディア嬢が手をフルフルしている。

 なに、この可愛らしい生き物は?

 そして、ようやく俺の腕が自由になった。


「そうはいかぬのじゃ。シャリエ伯爵領の領主に空きができてな。誰かを領主に据えなければならぬからな」


 そう言われましても俺は伯爵家の三男坊ですし……。

 って、シャリエ伯爵家は取り潰しになるのが決定していたのか……。

 ここから先はリディア公爵令嬢にお任せしよう。


「はい、お受けいたします!」


 即答かよ! さすが公爵令嬢だ。

 14歳なのに領主になる覚悟ができているらしい。


「うむ、ルーク、ベルガー伯爵には余から伝えておくが、爵位が必要であるな。ボドワン卿、どうしたものかな?」


 はい? なんで俺なの?

 12歳で領主って……どんな罰ゲームだよ。


「そうですな……、少々実績が足りぬかと存じますが」


 少々どころじゃなくて、全く実績はないんだけど……。


「ちょっとお待ちください。領主になるのはリディア様ですよね? 何でぼくの爵位の話になってるんですか?」

「わっはっはっ」「ほっほっほっ」


 何がおかしいの?


「ルークよ、知らぬかもしれぬが帝国は人材不足でのぅ。才能のありそうな若者には早い時期からつばを付けておるのだ。いわゆる青田買いじゃ。ほっほっほっ」


 『ほっほっほっ』じゃねぇ~よ。面倒なことは嫌だぞ。


「それでは、実績のない若輩者はこれにて退散致します」

「ルーク様、逃げようとしてもだめですわよ」


 また、腕を組まれた……。だから、身体強化魔法を使わないでくれるか。

 いつの間にか『ルーク様』になってるし……。


「実はのう、将来性のある人材が不足していることは確かなのじゃが、ルークの場合はもう一つ疑念があるのじゃ」

「えっ? ぼくは何か疑われる事をしましたっけ?」

「聖女様、こちらへ参られよ」


 宰相閣下の後ろに控えていた聖女アンネリーゼが会話の輪に入ってきた。


「お久しぶりでございます、リディア様」


 聖女様は髪の毛が白く、瞳は黄金色に輝いていた。


「ご無沙汰しております、アンネリーゼ様。この度は恥ずかしいところをお見せして申し訳ありませんでした……」


 長々とした二人の挨拶が終わると、聖女様の目は俺に向けられた。


「お初にお目にかかります、ルーク様。わたしはロマリア神聖国において預言者を務めているアンネリーゼと申します」

「はじめまして、アンネリーゼ様」


 挨拶が終わると宰相閣下が聖女様に話を振った。


「アンネリーゼ様、神託の内容を教えてもらいますかな?」

「はい、約1ヶ月ほど前の事でございます。わたしが女神メーティス様に祈りを捧げていた時、神託があったのです……」


 聖女の神託の内容はこうだった。


『黒目黒髪の少年が帝城の裁きの間に現れて、帝城を魔物から救うだろう。

 古き森から湧き出た魔物に蹂躙されている都市をその少年が神の如き御業により浄化するだろう。

 かの少年は荒れ果てた大地を豊饒の土地へと清浄化し、人々を安寧へと誘うだろう』


 そして聖女は続けた。


「その少年こそ〈女神の使徒〉様です。そしてルーク様は黒目黒髪でございます」


 いやいや、ちょっと待てよ聖女様。


「黒目黒髪の少年は他にも居るのではないですか? 宰相閣下」

「それがな、最近はそれに当てはまる人物は居らぬのじゃ」


 最近はいないのかよ……。


「でも、一致するのは黒目黒髪というところだけですよね? それにここは『裁きの間』ではないし、ぼくは呼ばれて帝城に来ただけで『現れて』とは意味合いが違うと思います」


 う~ん、俺がここで覚醒したことを『現れて』と言っているのだったら……。


「そうですね……。ただ、神託の表現はいつも曖昧なところがあります。それくらいは許容範囲だと思います」


 許容するのかよ!


「ルーク様の疑念はもっともだと思います。わたしもすぐにルーク様を〈女神の使徒〉様だと特定するつもりはありません……」

「はい、それでは無罪放免ですね」

「ハッキリするまではルーク様に張り付かせていただきます」


 おい!


「宰相閣下……」


 宰相! 目を逸らすんじゃない!

 そして、ここまで黙って聖女様の話を聞いていたリディア嬢が俺の腕を強く掴んだ。

 痛いんですけど……。


「ルーク様、いいじゃありませんこと? わたくしもお傍に居りますので、不都合なことがあれば排除いたしますわ」


 なぜかリディア嬢と聖女アンネリーゼの間で稲光が飛び交っているような幻覚が見える……まあ気のせいだろう。


 そこへ息を切らせた衛兵が駆け込んできた。


「何事であるか?」

「宰相閣下、第一近衛騎士団のフェルミ様から緊急の連絡であります」

「申してみよ」

「帝都の北東にある〈古代の森〉から魔物が大量に湧き出ているというと報告がありました!」

「なんだと! 詳細は分かるか?」

「魔物の進行が速く、昨日から商業都市アンカードが襲われているとのことです。魔物の数は約1万におよびます」


 それは魔物のスタンピードというやつだ。

 その衛兵が言うには、魔物の種類や戦術にもよるが、完全に殲滅するには5倍の戦力が必要らしい。


「アンカードの状況はどうなっておる」

「現在、駐屯兵団と冒険者の混成部隊が防衛戦を行っていますが、一部の魔物が都市の内部にまで侵入し、状況は思わしくありません」

「防衛力はどのくらいだ?」

「駐屯兵団が約300人、冒険者は100人に満たないと思われます」


 戦力が全然足らないのは素人の俺でもわかる。

 アンカードを防衛するよりも住民を避難させたほうがいいんじゃないか?

 といっても、魔物に襲われているなら時既に遅しか……。


「軍務卿には連絡したか?」

「はい、別の者が向かっております」

「分かった。それでは30分後に緊急対策本部を設置し、対策会議をおこなう。各将軍へ連絡せよ」

「はい、直ちに!」


 これは大変なことになってきた。

 俺の出る幕じゃないから帰ろうか。


「宰相様! これは女神様のお告げでは?」

「アンネリーゼ様、その話は後回しにしてくれぬか」

「はい、致し方ないですね……」


 聖女様は可愛そうなくらい落ちこんでいるが、俺としてはそのままおとなしくしていてほしい。


「皇帝陛下、緊急事態ですぞ」


 宰相はこんな時でも冷静に見える。


「分かっておる。リディアとルークよ。残念であるが、お前たちの件は後回しである」

「はい、それではこれにて退出いたします」

「うむ、大儀であった」


 リディア譲と俺は謁見の間をすぐに退出した。

 聖女アンネリーゼは宰相閣下と残るようだ。

 いずれにせよ、ここから先は俺達の出る幕ではない。


 一時は国外追放どころか、斬首刑にされるかと思ったが、どうにか生き残ることができた。

 今は危機を回避したことを素直に喜ぶべきだろう。


「ルーク様」

「なんでしょうか? リディア様」

「呼んでみただけですの、ふふふ」


 新たな危機が隣にいる気がする……。

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