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死神少女。  作者: 千尋
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勃発 その弐

ハインツから遥か東にあるベルツ連邦とクラン帝国の国境線付近の町に、このあたりの者達とは明らかに違う服装をした女が二人、町の中心部にある市場を特に目的がない様子で、ぷらぷらとあちらこちらを覗きながら歩いている。


二人のうち一人は、背が高く、たれ目気味の眠たそうな瞳、艶やかな烏のような黒くて長い髪。前髪は二つに分けにし、横の部分は顎のあたりで切りそろえ、後ろは腰のあたりまで伸ばし、その先を白く太い紐で結んである。その仕草、容姿はどこか奥ゆかしさを感じさせる。


そしてもう一人は、どこか幼さの残る顔にややつり眼の大きな瞳、少女というよりも少年と言った方がしっくりくる。髪の色はやはり黒く、共に歩く女と同じような髪形であるが、違うのは後ろの髪を一つにまとめた、いわゆるポニーテールにしている。ポニーテールにしては長すぎる髪は、彼女が市場のあちこちへと動き回る度にゆらゆらと左右へ振られ、時々、通行人より嫌な顔をされていた。


そして、目を引くのは二人の美しさだけではなく、その服装もそうである。上半身は肩先から上腕部にかけて当世袖、手には前腕を覆い隠す籠手。下半身は腰に縛り、太ももを覆うようにつけられた佩楯、臑当に白足袋、そして草履。そして、それらの下から見える鎧直垂は、背の高い方の女には黒生地に蝶の刺繍。もう一人の方は、白生地に椿の刺繍が施されてあり、二人の腰にはこの辺りの地方の剣ではなく、珍しい長い刀と短い刀が二本差してある。


「なぁ、揚羽。これを食べてみたいのだが、どうか?」


背の高い揚羽と呼ばれた女は、髪を結んだ方の女が指さした食べ物を見ながら首を傾げ、少し思案したような顔をしたが、すぐにいいでしょうと答えた。


「椿、二つ買いましょう」


「なんだ、揚羽も食べたかったのだな」


二人は顔を見合わせてくすりと笑うと、屋台の男に代金を支払い二つ購入した。それは、長い羊の腸に肉をつめ串を刺して焼いた物、フランクフルトであった。焼きたての脂と肉の香ばしい香りがする。二人の出身地にはない食べ物であった。


屋台の男から受け取るとすぐにかぶりつこうとした椿へ、お行儀が悪いと揚羽が止める。そして、少し先にある椅子を見つけると、早く食べたくてしょうがない椿が急ぎ足で椅子へと向かい、揚羽の分も席を確保すると、早く来いと手招きをしている。


そして、揚羽も椅子へ座った事を確認するや、ぱくりと一口かぶりついた。


「美味いぞ、揚羽」


目を輝かせながらうーんと唸り、もしゃもしゃと食べる椿を見ながら、揚羽もフランクフルトを食べ始めた。


そんな揚羽達の目の前に、どう見ても紳士と思えないガラの悪い男が四名現れた。そして、にやにやと下品な笑みを浮かべ、揚羽と椿の身体を舐めまわすように見ている。


「なぁ、異国の姉ちゃん。俺らにあんたらを味見させてくれよ」


ぺろりと舌舐めずりしながら、男は揚羽に顔を近づけてそう言うと、周りにいた男達もへらへらと笑いだしている。男の呼気から酒の臭いがする。


美しさとその服装で周りの目を嫌でも引く二人は、そんな酔っ払い達の格好の餌食となった。しかし、そんな男達に動じること無く、フランクフルトを食べ続ける二人に、男達も少しむきになった様子で、男の中の一人が椿の腕を掴もうとしたその時、その男が悲鳴を上げた。


男の手の甲に、フランクフルトの串が貫通していたのである。椿は最後の一口分のフランクフルトが残っている。という事は、男の甲に串を刺したのは揚羽である。


しかし、それを目の前で見ていた椿も椿で、そんな事はお構い無しに、最後の一口を口に入れて食べている。


先程まで眠たそうな目をしていた揚羽の両目に、凍てつくような殺気が込められ、男達を睨んでいる。男達は揚羽の目に言い知れぬ恐怖を感じた。動物的本能と言う奴か。


「下がれ、下衆共がっ!!誰に向かってその様な不埒な行為を働こうとしたか分かっておるのか!!」


びりびりと空気を震わす揚羽の怒号に、身動きのとれなくなった男達は、ただぶるぶると震えているだけだった。


揚羽から発せられる尋常ではない殺気に、本当に殺されると感じぺたりと座り込む男達に、侮蔑のこもった眼差しで一瞥すると、すらりと腰の刀を抜いた。


そして、助けてくれと懇願する男達の言葉を無視しし、首を刎ねようとする揚羽。


「もう良い、揚羽。この者達も懲りたであろう」


刀を握る揚羽の手にそっと自分の手を重ねた椿がそう言うと、揚羽は大人しく従い刀を鞘におさめた。それを周りで見ていた者達も安堵のため息をついている。


「椿に感謝するのですね」

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