第10話 植物工場
蛍光鉱物の都。
淡く輝く鉱山都市。
輝壁の回廊、ドワーフの聖地。
かつて魔大陸南部にあった輝く鉱物で彩られた地下都市。
――ドワーフの輝石都市
作物を育てるために必要な水と土は目途が立った。
しかし冬に育てるとなると温度管理と光源が必要になる。
冬というのは日照時間が短い――という偏見があるからだ。
だがビニールハウスが雪で埋もれる可能性もあるから間違ってはいないだろう。
温度に関しては温度計から熱交換まで技術はあるので問題はない。
つまり後は光源を確保すればいいだけだ。
流石に植物の隣で焚火をするわけにはいかないし、白熱電球も光源としては非効率だ。
ではどうしよう?
…………。
ここはやはり明かりと言ったら電気工学――という事で電気の力で解決しよう。
「――という事でこれから蛍光灯を作る」
「いえーい!」「ひゅーひゅー」「モーモー!」
開発に強い二人――アルタとカルは水の浄化設備と化学肥料にまわっている。
そこで助手ゴーレム達と、宿代としてモーアー族のモノに開発を手伝ってもらう。
「蛍光灯を作るためにはまず蛍光体という謎の発光物質を手に入れなければいけない」
「掘削だー!」
「そうなんだけど蛍光体はそこらの鉱物と見分けがつかないからこの道具を使う」
――テッテレー!
そう言って取り出したのは濃い紫色の電球だ。
「それはなーに?」「モーア?」
「これはカルちゃん特性の《ブラックライト》だ」
蛍光体というのはブラックライトの光を当てると発光する。
そういう不思議な物質だ。
その不思議性質を利用して効率よく探し出そうというわけだ。
実は市販のブラックライトと、蛍光灯の構造は同じだったりする。
違いは蛍光体の成分だけになる。
――つまり蛍光体を見つけるには蛍光体を持っていなければいけない。
ふぅ~これだから技術の最初の一歩は矛盾をはらんでいて困る。
という事でここは紫外線の歴史に習って最古のブラックライトの出番になる。
ブラックライトの歴史は浅く、時は1900年頃のアメリカ。 アメリカ人物理学者であるロバート・ウィリアム・ウッド教授が紫外線だけを透過する電球を開発したのが始まりだ。 それは彼の名にちなんでウッドガラスと呼ばれる材質から作ったウッドランプというものだ。
材料は酸化ニッケルを配合したバリウム系ガラスになる。
バリウム系ガラスはあの古風なブラウン管ガラスなんかに使われていた物になる。
ブラウン管ってのはX線というヤバ味が深い電波を照射して映像を映している。
つまり対策をしていないと視聴者の脳に深刻な電波を提供して――いろいろヤバくなる。
だからX線を吸収する鉛とかバリウムなんかが配合してある。
今回はそれを応用して遠赤外線と短紫外線を除くすべてをシャットアウトしたブラックライトを作ったってことだ。
その色合いは非常に濃い青紫色の電球。
光らせると目に見えない光線で網膜がやられるから遮光メガネを装備するか、間接的に使用しないとホントにヤバい。
「危険だから人に向けないように」
「へーい」「モ~……スヤァ」
寝るな!
「それじゃあブラックライトで発光体探しを始めるぞー」
「おー!」「……ッハ!? モー!」
といっても場所は資源集積所と化している東門だ。
その中の一山に用途無しとして放置されている水晶や結晶それから宝石たちがある。
宝石の原石とか本来は十分価値があるはずなんだけど、経済という概念が破綻している工場都市にとってはただの石でしかない。
そんな用途が無い癖に硬いので邪魔な結晶達。
この中に蛍光体の結晶がないかブラックライトで調べるってわけだ。
問題は昼だとあの淡い光を見ることはできない。
まあ要するに恥ずかしがり屋ということだ。
とある山師のおじいさん曰く、石たちの声は小さい、ということだ。
だから明かりを消して、あるいは暗い箱の中に置いて、ブラックライトを当てる。
「――ただの石だな」
そんな確認作業をする事はや数時間。
ついに待望のそれを見つけた。
「モァ! モァ!」「光ったよー」
すばらしい!
光を遮断した暗い箱の中で蛍光鉱物が光る。
同じような鉱物がまとまっている所を――文字通り一山当てたのだ。
この調子でじゃんじゃん集めてしまおう。
――――――
――――
――
「結構集まったな」
蛍光鉱物を集めたら不純物と分離するために一度粉砕する。
そして選鉱装置で蛍光体以外を分離する。
そうやって色とりどりの蛍光体が集まった。
「どれを使うのー?」
「モォ?」
とゴーレムが疑問に思い質問する。
「そうだな、ここはこの色白に発光する蛍光粉末にしよう」
さて、蛍光灯の原理はさして難しくない。
一般的なタイプは細長い棒状のガラスに蛍光体を吹き付ける。
そしてガラス管の両端に電極を取り付ける。
それから放電しやすくするために一度真空にしてから、いつものアルゴンと水銀を封入する。
そういつものアルゴンだ。
ふふん、真空管そしてニキシー管と製造ノウハウはあるのだよ。
カルちゃんにはな!
「ああ……急に呼びつけられて……何ですか……都合のいい女ですか……ツラいです」
そう言いながらもテキパキと蛍光灯を作ってくれる。
後で頭を撫でておこう。
そんな感じで出来た蛍光灯にさっそく電圧をかける。
すると電極から放出した電子が水銀原子とぶつかる。
その衝突時に紫外線が放射される。
紫外線は蛍光物質に当たり――あの白くも力強く光る。
「わっわ、うひーー」と叫ぶカル。
「モォ―モォ―!」と興奮するモノ。
「ひゃっはー!」といつものゴーレムズ。
「よっし、なんとか蛍光灯ができた」
よーし、アルタと合流してビニールハウスを作ってしまおう。
◆ ◆ ◆
「おかしいな……たしかビニールハウスだったはずなんだけどな?」
そこには毎日大量に作られるレンガと鉄筋コンクリートをふんだんに使った工場ができていた。
何ということでしょう。
爆発事故が起きる工場に隣接するならビニールよりレンガやコンクリがいいと、いつの間にか防御力に全振りしてるではありませんか。
さらに匠の技によって天井から天然光をできる限り入れる斜めの屋根型工場。
そして中に入るとシステム化された多段ラック方式の棚の列。
もちろんすべての棚に蛍光灯を備えています。
使用する化学肥料にもひと工夫がされています。
作物がどの配合比の化学肥料の影響で育つか調べられるようになっています。
そこで配合比の視える化のためにラックにはNPK-***のように数字表記の徹底使用。
まさにわからないのなら全パターンを調べればいいじゃないという脳筋農法!
アルタ式ノーキーン農法がここに完成したのです。
また酸欠ならぬ二酸化炭素が欠乏しないように近くの工場から温度管理した熱風と共に排気ガスが供給される人類不親切仕様。
もちろん供給する水も普通の水からpH調整水までより取り見取り。
最初の2か月に数千から数万パターンを調べて後の全育生環境を規格化しようという野心的すぎる植物工場が完成しました。
「――うん、やり過ぎ」
だが、そんな呟きは建設音にかき消された。
「工場長様、危険ですので下がってください。これから第二、第三工場を建てますので――」
そう、植物工場一つでは需要を満たせない可能性が高いのでどんどん工場を建設していた。
ちなみに蛍光灯の生産が追い付かないので第二以降は自然光タイプの工場らしい。
オーケーこれも冬越えとその後の食糧問題解消のためだ。
行くところまで行こう。
◆ ◆ ◆
順調に植物工場とすべての起点となる液体酸素工場を建てていく。
だがここにきて新たな問題が発生していた。
それは――。
「飛行船を建造する場所がない……だと」
あれほど空き地だらけだった工場都市も東から順にどんどん埋まっていった。
そして爆発事故を警戒して――例えば液体酸素工場は離れた場所にいくつか建ててある。
流石に爆発性の工場を一カ所に集めたりはしない――石油以外は。
「はい、さらにモーアー族の居住エリアが西側にできた影響もあり都市南部はほぼすべて埋まりました」
「……さすがに乗り物を壁の外で作りたくないな」
「となりますと――」
「ああ、北部に橋をかけよう」
北の森と共にレイスは消滅している。
後には炭しか残っていない。
「確か一度壊した橋があったけど、これを修復すればいいのかな」
「いいえ、必要物資量に対して橋が弱すぎます。ここは橋の修復は応急処置として鉄橋をいくつか建設しましょう」
「複数の橋か……さすがに100メートル幅の河川に橋を架けるとなると錬金術では無理そうだな」
「はい、さすがにお手上げです」と困った顔のアルタ。
そうなるとまずは足場を建設して、お次は三角ベースのトラス構造だろうか。
それからレイスのような魔物が来た時に備えて跳ね橋にしといた方がいいだろう。
うーん…………。
「よし、それじゃあ重機を作るか」
「重機ですか? クレーンならもうありますよ?」
「いいや、移動して100トン以上を持ち上げる油圧重機をつくるんだ」
◆ ◆ ◆
炭鉱では発火の危険があるからと液体酸素爆薬は使われていない。 ツルハシによる掘削が今も続いている。 過去に爆破事故が起きた1番坑道も蒸気機関による排水と送風により掘削が開始された。
しかし毒ガスが無くなったことにより地下に身を潜めていた魔物達が動き始める。
ウッド{ ▯}「がんばってビニールハウスを作る!」
ストン「 ▯」「ところがなぜか植物工場を建設するのがあの二人のクオリティ」




