表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/119

第8話 水処理施設

デカい体格で肌の色が緑で耳が長く尖ってるのがオークだ。

つまるところオーガとハイエルフのハーフだ。

あとそれから小さくて肌の色が緑で耳が尖ってるのがゴブリンだ。

つまりところノッカーとハイエルフのハーフだ。


――酒場でさらに種族について語るおっさん

 ここは研究所の一室にある魔石研。


 主に魔物別の魔石に違いがあるのかを調べている。


 と言っても研究できるのがアルタのみなので魔石の保管庫と化している。


 そこに新しいゴーレムとスケルトンの魔石が用意してある。


「それではこれから魔石に高電圧をかけます」


「ああ、これでカルがもう一体できるな」


 スケルトンの魔石に高電圧をかけるとその中に詰まっていた戦術や戦闘に頭に関する内容が消えるようだ。


 その結果、アイアンはカルに変化した、というのがアルタの認識だ。


 今の至上命題は少しでも生産力をあげてここから脱出する事。


 そのためにもカルの計算能力は重要だ。


 多少扱いにくくても増やした方がいい。


「……本当によろしいのですね」


「なんか含みがあるな。何か懸念でもあるのか?」


「はい、そのとてもいいにくいのですが――」


 そう言いよどみながら、意を決して述べる。


「たとえできたとしてもその子がカルちゃん並みに扱いやすいとは限りません」


 カルが扱いやすい?


 いやそれよりもこの意味は――ハッ!?


 そうか!


 あくまで高電圧を浴びて偶然誕生したカルが似た方法で出来るとは限らない。


 だが、それでも試してみない事には――。


 そんなことを考えていたら入口から一体のゴーレムが入ってきた。


「……ああ、増やすのですね。そしてボクの価値は無くなる……ツライ……さようなら」


「ってカルなんでここに来た!」


「ああ……さすがに白々しい称賛の嵐は気づきます…………そしてボクが増える……ボクの価値が下がる……絶望だ……」


「あらあら、よしよし。いい子いい子」と甘やかし始めるアルタ。


「……ふふん」とモチベーションが回復するカル。


 …………。

 ……。


 ふ~、一回考えを改めよう。


 そもそもなぜカルを増やしたいかというと計算力を上げたいから――それだけだ。


 その根底にあるのは一刻も早くここから逃げ出したいから。


 そうあのスライムがほぼ原因だ。


 ああ、クソ! スライム戦後に意識が変わっている。


 目の前にいるゴーレムは他と違いネガティブなんだ。


 今までみたいに遮二無二働かせていいわけじゃない。


 それを無視するなんて文明人として倫理にもとる。


 まったく!


 せっかく原始人から近代人まで来たというのに、たかだかスライム一匹で鞭打ってでも働かせる世紀末の無法者になってるじゃないか。


「おーけー、高電圧によるゴーレム実験は止めだ」


 多少の遅れは発生するが最初から二人だけですべてをやり遂げるつもりだったんだ。


 問題ない。


 それによりしゃべって感情があるゴーレムの意思を無視するほうが問題だ。


 多少の遅れなんて現代人の矜持を守る代償でしかない。


「とはいえギリギリの状況だから優秀なカルにはもっと頑張ってもらうよ」


「……優秀…………ふふん」


 あ、やる気を取り戻してる。


 ふ~冷静になると優秀過ぎて扱いづらいカルを増やし過ぎるとこっちがパンクするな。


 そんなことを考えながら研究所の出口へと向かう。


「それでは工場長様。そろそろ現実逃避をやめて目の前の問題を解決しましょう」


 そう言いながらアルタが入口のドアを開ける。


 そして外の光景を目に入る。


「モ~、モママママ~、モグ! ア~、モママママ~、モグ!」

「モママママ~! モァ! モァ!」


 それは大勢のマヌケモノ達の集会である。




 ◆ ◆ ◆




 心機一転。研究所から外に出るとそこにはリーダー・モノを取り囲むように集まるマヌケモノ達。


 まったく見かけなかったモノが連れてきた同族達だ。


 その数はおよそ300匹だろう。


 そう遂に工場都市の人口がゴーレム5000体に300匹と一人になったのだ。


「おおぅ……ちょっと文明人としての矜持を捨てて追い出したくなってきた」


「工場長様。まずは計算をしましょう。そういった物騒な判断は計算してから決めましょう」



 ――という事で久しぶりの計算だ。


 前回の大豆の収量はおよそ1トン――2ギガカロリーだから約3年半分の食糧になる。


 だが今後のためにと大豆とそれ以外の植物も種まきした。


 20ヘクタール以上の面積に作付して二度目の収穫をした。


 その結果、食糧は計50トン以上も収穫できた。


 人ひとり分でザックリ計算すると1トンで3年半なら50トンで175年ぐらいだ。


 ひゅー。


 ところが人口が10人になると途端に17年分って量になり、100人になると1.7年だ。


 さて300人なら――。


「問題なく冬は越せそうだけど実際どうなんだ?」


「トリ肉もありますので冬は越せると思います」


「ああ……見える……毎日少しずつ人数が増えて計画が破綻する未来が見える…………鉄板になりたい……」


「よしよし、カルちゃんの指摘ももっともですね――想定外の事態になると冬を越せるか怪しいです」


 想定外の事態なんていつものことだな。


 それに、たとえ冬を乗り切ったとしてもその後は慢性的な食糧不足、脱出どころか長距離移動すらできないかもしれない。


 それはヤバイ!


 かなりヤバイ!!


「と、とにかくまずはモノ達の食費と、この後どのくらい集まるのか聞き取りだ!」




 ◆ ◆ ◆




 とりあえずカルには投げだした計算と書類整理をしてもらう。


 謎の集会を開いていたモノをとっ捕まえてアルタの通訳経由で色々聞いてみた。


「もぁもぁ~、もんもん!」とアルタが言う。かわいい。


「モォモゥ、モォ、モガ!」とモノが言う。


 そんな謎の言語のやり取りを見守る事しかできない。


 お? どうやら終わったようだ。


「それで対話はうまくできた?」


「はい、ただこの言語と呼べばいいのでしょうか――とにかく40種類ほどの単語だけで意思疎通しているようですので難しい理論や概念は伝わりませんね」


「少な! まあでも17種類以上あればそれなりに会話はできるか」



 ――その少ない単語から推論して判ったことがある。


 まず草食なので基本的に雑草で問題がない。


 うん、知ってる。


 人のベッドの干し草を食べてたのを知ってる。


 次にただそれは春から夏の間であって、冬を越すために秋には活発に動き出す。


 だいたい木の実などを大量に頬張ったり食い溜めするそうな。


 その必要量はざっと10万カロリー分!


 まあ大豆換算で50kg/匹になるかな。


 最低15トン分の大豆で急場はしのげる。


 そして最後にお仲間の数は何と――いっぱい!



 …………。



 これだから計算ができないゴーレムとか魔物とか――まったく。


「よし、とにかく不測の事態に備えて食糧を増やす計画を立てよう」


「はい、しかし冬にどうやって増やすのですか?」


「ああ、それはもう考えてある――ビニールハウスだ」




 ◆ ◆ ◆




 ビニールハウスというのは外気を遮断して植物がもっとも育ちやすい環境を整える設備だ。


 つまり冬だろうと天候がどうだろうと関係ない。


 育てるのならイチゴとかトマトというイメージが付く。


 だが、たぶんそれは年中通して需要がある作物が決まっているからだと思われる。


 要するに採算性を度外視すれば小麦だろうがニンジンだろうが関係なく育てることができる。


 それでは必要な材料について考えよう。


 ビニールは手に入るからいいとして、水と土それから空調設備一式だろう。


「――つまりこれから空調設備を開発すればよろしいのですね」


「いいや、そうとは限らない。今までもタダより高いものは無いと知っていたから、嫌というほど改良を加えてきた。だから全部を改良しないといけない」


 タダの水は高くつくからボイラー用の水は常に改良を施した。


 そしてタダの空気も高くつくから液体空気にするために不純物を取り除いてきた。


「それはつまり作物用に水と土を改良して空気と温度を制御するのですね。ふふ、まるで精霊みたいですね」


「そういわれると農業に関しては今も昔も四属性を扱っているみたいなものか」


 さて、季節外れの農業をするには4つの要素をすべて近代化させなければいけない。


 必要なのはPhを調整した水、化学肥料を加えた土、湿度管理をした空気、いいかんじの光と温度。


 わーお。


 本来ならすべて無料なのに冬に農業をするだけで超高コストになりやがる。


「よし、まずは水からだ。ちょうどこの前作ったリトマス試験紙で周辺の調査から始めよう」


「はい、分かりました」



 さっそく各地の水をサンプリングして研究所に持ってきた。


 試験室にはいくつものラベル付きのビンが置かれている。


 ラベルには中央運河の上流から下流の湖、鉄鉱山から雨水さらには氷室の氷から炭鉱の水と書かれている。


 あらゆる場所で採れた水と比較用の純水H2Oで実験をする。



 ――――。



 試験の結果わかったことがある。


「これは……公害が酷いな」


「本当に……ひどいですね」


 石油が天然で沸く時点ですでに汚染が酷いのは判っていた。


 だから下流の湖や沼地の水は使用不可能なレベルになっている。


 つまり超酸性ってこと。


 それ以外に鉱山から流れる水もかなりひどい状態だ。


 これは液体酸素爆薬による採掘量の増大が原因だろう。


 炭鉱ぐらい離れた川の水になると普通の水になっている。


「作物を育てるには大量の水が必要なのにこれじゃあ危険だ」


「それでは地下水道の空間を利用して水の改質処理をしますか?」


「ああ、だけどそれだけだと根本的な公害汚染が続いてしまうから水処理施設を建設しよう」


 そう、現代文明人として公害対策はしなければならない。


 人類の公害いや鉱害の歴史は長い――それこそ古代から永遠と続いている。


 けれど鉱毒の記録はあっても重大な問題とはみなされなかった。


 鉱害が公害となって問題視されたのは産業革命により生産量が劇的に上がってからだ。



 言ってしまえば近代病というやつだ。


 オーケーそれじゃあ公害汚染も何とかして見せよう。




 ◆ ◆ ◆




 という事でいつもの研究所に汚水処理のミニチュアを作って実証実験を始めた。


 汚染水処理場の構成は4つの槽に分けられる。


 鉱山と油田では汚染原因が違うが処理プロセスは全部統一しておいた。



 最初の槽で水面に浮かぶ油分をとる。


 基本的には飲食店の厨房にあるトラップという油分を分離する謎の装置と一緒だ。


 これで石油や選鉱装置から出る油類を回収できる。


 石油とか重油って名前の割に水より軽いからほんと助かる。


「このプロセスで回収した油分は可能なら再利用だ。無理そうなら燃やして都市の熱源として使う」


「ええ、それで問題ないと思います」



 次のプロセスは2つの槽で汚水を処理する。


 このとき隔壁の下側を開けることで、油分以外が流れるようになっている。


 2つの槽は最初に石灰その次に消石灰をそれぞれ入れて撹拌する。


 中和剤としても利用される石灰系を放り込んででマゼマゼするってことだ。


 石灰つまりカルシウムというのはいろんなものと化合して安定化する。


 だからこそあらゆる産業でこれでもかというぐらい利用されている。


 そんなカルシウムを排水処理の中和剤として使う。


 これで水に溶け込んだ重金属がカルシウムと化合して槽の底に沈殿してくれる。


 そのあと第三槽で消石灰の粉でさらに中和させる。


 この辺は昔見学した工業廃水処理場の記憶が頼りだ。


 上手く化学反応を利用した除去プロセスだという印象を持った。


 これが一般家庭の生活排水なら微生物パワーでゆっくりと汚水を分解して排水できる。


 ほんと残念なことに鉱業廃水は微生物が死滅するほど危険だからしょうがない。


 時間をかけて中和できないから化学反応パワーで中和をするってことになる。


「それで二種類そろえるのはなぜですか?」


「単純にコストが問題なだけだ」


 物質として安定している石灰だと反応が鈍いが量を揃えやすい。


 逆に加熱して水かけた消石灰は生産にコストがかかる。


「なるほど、そういうことですか」


「この方法を二段中和法とよばれていたはず。このプロセスでほぼ中和できているがそれでも沈殿しない細かい粒子状の物質は残ってしまう」



 そこで最後の槽――第四槽で沈殿物を回収する。


 やることはやはり化学反応を利用して凝集剤を投入する。



 凝集剤――微細な不純物をかたまりにする薬品。 微細な粒子はマイナスに帯電していることが多いのでプラス荷電を有する鉱物が使われる。 主に硫酸アルミニウムや硫酸第一鉄などがある。 それだけでは大きな塊にならないので高分子ポリマーも入れて毛糸にゴミが絡まるように大きくして沈殿させる。



「よーし、これで上手く沈殿してくれるはずだ」


「あの工場長様。撹拌してるので上手く沈殿してくれません」


 見ると処理施設の模型が撹拌で泥を巻き上げていた。


「おっと、それもそうだ。そうなると沈殿槽をさらに追加しないといけないな」


 あくまで知識だけでノウハウはないが、この処理により鉄、銅といったおなじみからカドミウム、ヒ素、クロム、水銀など人類基準の有害物質が手に入る。


「ところでこの沈殿物はどうするのですか?」


 利用できそうなのは利用して無理そうなのは廃棄物として処理するのがいいだろう。


「そうだな。使えるものは利用しよう。そしてそれ以外は廃棄物として岩塩ドームに封印だな」



 岩塩ドーム――岩塩採掘後の空間は堅固で水の浸透や漏洩がないという性質がある。 近年ドイツでは国内にある岩塩ドームの有効な利用法として廃棄物や放射性物質の最終処分場という案がある。 場合によっては処分目的で岩塩ドームを掘り副産物として食塩を売り出す場合もある。



「これで排水処理はいいとして次は農業水になるんだけど――」


「とりあえずpHを定期的に測定して問題なければ供給するという事でよろしいでしょうか?」


「そうだね。いやここはついでに浄水場を作って飲料水を供給できるようにしよう」


 いくらマヌケモノが耐毒を有していても心情的に汚染水を飲ませるのは好きじゃない。


 地下の広い空間を利用して浄水場を作ろう。


「浄水場は排水処理とは違うのですか?」と疑問を呈する錬金術師。


「いいや、基本的なプロセスは共通してるはず。違いがあるとすれば活性炭の投入と次亜塩素酸ソーダによる殺菌と中和そしてろ過フィルタによる不純物の除去あたりかな」



 活性炭――木炭などの表面にできる無数の穴に異臭の原因物質や化学物質を吸着させて、これらを除去する。


 次亜塩素酸ソーダ――パルプの漂白からプールや上下水道の殺菌消毒など広く使われている。 イメージと違い次亜塩素酸ソーダ単体の有害性はない、ただし酸と反応して塩素を発生するのでこの塩素により微生物は死滅する。 もちろん同じ理由で大抵の哺乳類は皮膚炎を起こす。 だから原液の空間噴霧はしてはいけない。


 ろ過フィルタ――いろいろな種類があるが大規模な場合は『重力式砂ろ過』が採用される。 砂や砂利を通して不純物を取り除くという最もシンプルなろ過方式である。



「ふふ、結構増えますね」そういいながら地下空間の模型を作り設備を作りこんでいくアルタ。


「規模は大きいがプロセスはわかりやすいほうだ。これで水問題は何とかなるだろう」


 そう、さして難しいことはしない。


 基本的に中学校の理科の実験を大規模化しているだけだ。


 今までやらなかったのはたった一人だったのとリトマス試験紙が無いからpH判定ができなかったことにある。


 よーし、これで水は概ね解決だ。


 あと残るは三属性だ!




 ◆ ◆ ◆




 液体酸素爆薬による掘削は含有率の低い銅の生産性すら上げている。 さらに研究所での油の研究により浮遊選鉱の精度が向上した。 だが選鉱の過程で出る副産物は土壌を汚染する。

 その足元でひっそりと地面に伏して獲物を狩る者を刺激し続ける。


ウッド{ ▯}「ぐへへへ、カルちゃんを増やして物量で設計を終わらせてやる」


ストン「 ▯」「素でバランスブレイカーだから増やすの禁止しましょうね」


※作者より

ゴーレムは喜怒哀楽を基準に4種類出す予定でしたが喜と楽の差別化が小説だと難しいのでやめました。

たぶん差別化のために楽をしたい怠け者なゴーレムになるのですがマヌケモノ達と被るので三種類が基本になります。


あと前話で違和感があったところを一部変更しました。

以上。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ