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第7話 アンモニア合成計画《一部改稿》

「ここを開けろ! 王命により不当にブツを蓄えていないか調べさせてもらう」

『な、なんだあんたら家から出て行ってくれ! うちは貧乏なんだ蓄えなんてない!』

「うるさい中を調べればわかることだ!」

「オイあったぞ!」

『蓄えなんてねーよ。ボロ布も持っていかれて何も持ってないぞ。一体何があったってんだ?』

「……糞尿があったぞ」


――硝石集めギルド

 北の森は夜になると赤々と燃えてそれが酷く怖ろしく感じるが、数日経つとそれに慣れてしまう。



 久しぶりによく寝て――寝すぎてしまった。


 なにせ連日遅くまで電卓の調整やら真空管の交換に時間をとられていた。


 最近はモノを見かけないがおかげでゆっくり寝ることができた。


 朝寝坊した寝ぼけまなこで下に降りる。


「うぅ……少し冷えてきたなぁ」


 そしていつもの朝食――否、トリ肉を添えたおいしい朝食だ。


 できればコーヒーが欲しいところだがそんな都合のいい植物は見つかっていない。



 ギルドの受付を見るといつもの様にアルタが書類整理を――。


「ああ……書類整理に終わりが見えない……」


 と見せかけてカル・ゴーレムのカルちゃんが新しく導入した電卓机に座って書類と格闘していた。


「ああ……完成したのにまた山のように資料がやってくる…………もういや――」


「す、すげええぇ! 僕たちができない書類整理をこんな短時間にまとめ上げるなんて!」

「おいおい、こんな出来るゴーレム初めて見た! コイツはヤベーぜ!」

「ヒャッハー! 人ができないことをさも当然のようにやる、そこに憧れるー!!」

「なんという電卓使いだ! これはカル・ゴーレムにしか扱えない代物だぁ!」

「さすがカルちゃん! いやカル様――!!」



「………………ふふん」



 チョロい! チョロすぎる!!


 とりあえずこんな感じでネガティブゴーレムの周囲にいつものゴーレムを5体ほど配置して事あるごとに称賛させたら――なぜか上手くいった。


 世界は平和になったのだ。


 だがそれはカル・ゴーレムのコストが尋常じゃないぐらい高騰していることを意味する。


 なにせ数に限りのあるスケルトンの魔石1個と通常の魔石6個そして素体が6体分必要になるからだ。


 仮にスケルトンの魔石5千個全部をカルにすると計3万個の魔石と3万体分の素体が必要ということになる。


 さらに物理的に場所をとるので数を増やし続けるとそれだけで工場が満員だ。


 扱いにくさ満点だがそれでも腕の器用さと頭の良さは他と比べて別格の性能だ。


 一度高電圧でカル化させるとアイアンに戻せないようだから慎重に数を増やしていこう。


 そう思いながら食事をつづけた。




 ◆ ◆ ◆




 さて食事の後は頭の体操だ。


 短期間に色々作り過ぎたからちょっと整理しよう。


 我々の現状はまずこの都市と資源地帯から外に出られない。


 即死級の魔物がいるとわかってしまったら、これ以上の探索はしたくないというのが本音だ。


 ――次に脱出の方針は相変わらず飛行船でも作って空から逃げるだ。


 というより地上を移動するというのは考えられない。


 当然船なんて論外だ。


 飛行船で魔物の索敵&攻撃範囲外だと思われる高高度上空を浮かぶか。


 航空ジェット機作って音速で逃げるか。


 天元突破してロケット作って衛星軌道まで飛んでからどこかに不時着するか。


 ……ダメだな後ろの二つは着陸地点が安全だと判明しない限りリスクがありすぎる。


 まあでも岩塩採掘所にスライムの魔石が落ちていたという事は、例のスライムは水が無いと基本的に体を維持できない、と推論を立てられる。


 つまり水のなさそうな砂漠地帯や凍り付く北極を通ればほとんど出会うことはないだろう。


 そうなると周辺の地理を知るためにもやはり飛行船だな。



 長期の計画に変更はないとして短期的な計画も考えないといけない。


 つまり自衛能力の増強とエンジン開発のための関連技術の設計、そして訪れるだろう冬への備えだ。



 液体空気から始まった一連の開発で――


 液体酸素から鉱山と高炉の能力向上。


 液体窒素で空気銃。


 アルゴンでニキシー管。


 あとついでにトリ肉の冷凍保存。


 ――と色々開発してきた。



 最初は一石三鳥と思っていたのに三鳥どころじゃなくなってる気がする。


 まあ、それだけ冷凍技術はすごいってことだな。



 ――――


 ――



 アルタと合流して朝のミーティングを始める。


「――という事で冷凍技術はひと段落着いたので次の開発に移ろうと思う」


「ふふ、そろそろ次の無茶ぶりが来る頃だと思っていたところです」と楽しそうな様子のスライム。


「無茶ではない。ちょっとアンモニアを合成するだけだ」


「アンモニアですか?」


 エンジンを開発するにはまだまだ関連技術が抜けている。


 その設計と計算が出来るまで優先順位の高い開発を同時に進めるほうがいいだろう。


「なぜアンモニアが必要かというと火薬の原料である硝酸をアンモニアから作れるからだ」


 硝酸や硝石は火薬兵器が誕生した近世以降は重要資源としてとにかく世界中から集めて回った。


 だが一度戦争が起きると満足に輸入することができない。


 そこで外から運べないなら国内から採ればいいじゃないという発想になった。


 当時から雨で流されない床下などに微生物パワーで硝石がとれることは知られていた。


 そこで誕生したのが歴史上ブラック・オブ・ブラックをほしいままにする暗黒の職業・硝石採取人だ。


 あまりにも不人気だったため荒くれ者が就く職業と言われている。


 その仕事内容は地獄の中の地獄のような地獄っぷりである。


 まず彼らは王命の許可証をぶら下げて無断で便所や床下さらには家畜小屋の土を掘り返して硝石を集めまわった。


 しかも数年経てばまた硝石がとれるから定期的に押し入りうんこ強盗を繰り返したという。


 そんでもって長年仕事をしていると掘り返した土の味から硝石の有無が分かる糞尿ソムリエと化していた。


 オエーー!!!!


 さらに誰もやりたがらない仕事なのに品質が悪いから買い叩かれて農民以下の給料だと言われている。


 そんな3K職場なんてホワイトすぎるぐらい唯一無二のK――クソ職業だ。


 だから硝石採取人が来ると町中から罵詈雑言を叫ばれた。


 さらには便所の土を掘り返せないように全てを石造りにしたという。


 中世から近世は下水処理能力が退化したといわれているが案外ワザとだったりするのかもしれない。


「――様、――工場長様! それで次は火薬を作り自衛力を高めながらエンジンを作るという事でよろしいでしょうか?」


 おっといかん、中世のクソ職業に思いを馳せてしまった。


「ああ、そうなる。そこで効率的かつ工学的なアンモニア工場を建設する」


 人口ひとりだとそんな硝石採取はできないからもっと近代的な方法を採用しよう。




 人類とアンモニアの歴史はけっこう長い。


 というより切っても切れない関係だ。


 そもそもアンモニアは畑の肥料として重要だ。


 旧来は空気中の窒素を微生物が不思議なパワーで固定する。


 そのためにはとても長い時間――畑を休ませないといけないらしい。


 よくは知らない。


 それ以外には雷という大自然のパワーが無理やり化学反応を起こしてアンモニアを生成する。


 もしかしたら稲妻という漢字の語源も稲を育てる力が雷パワーにあると気付いていたのかもしれない。



 ――閑話休題。



 さて、大自然の現象を再現するために容器の中で火花を散らし――空気中の窒素と酸素の結合を発見したのはヘンリー・キャベンディッシュという化学者だ。


 湿った空気に電気火花を起こして硝酸を合成する――この方法を電弧法という。


 しかし残念な事に当時電弧法は高コストなくせに反応効率が悪くて実用化不可能な方法だった。


 結局、長い月日が経ってからノルウェーという特殊な土地の安価な水力発電以外では生産出来なかった。



 その後、より安価で大量生産に向いた方法が編み出された。


 それが石灰窒素法だ。


 なにせ原料が石灰石に石炭、空気と電力という1900年代には低コストな原料でアンモニアが作れたからだ。


 作り方も容易で石灰を燃やした生石灰とコークスを混合して、電気炉で熱してカルシウムカーバイドを作る。


 このカーバイドに空気から分離した窒素を約1200℃で反応させると石灰窒素――カルシウムシアナミドができる。


 あとはいつもの水蒸気で加熱するとアンモニアができる。


 これが世界で最初の工学的なアンモニア合成法になる。



 それでも相変わらず需要に対する供給不足から発電量が間に合わず、増産に限度があった。


 そこで誕生したのが水と石炭と空気からアンモニアを作る方法――ハーバー・ボッシュ法だ。


 反応条件は日々研究され変化しているが基本的には高圧力と高温で直接生成する。


 これは石灰窒素法のちょっと眠くなる手順と比べて断然わかりやすい。


 高圧力と言っても200気圧程度であり、高温と言っても500℃ぐらいだ。


 まあ、頑張ればできないことはない。


 この法によって『平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作れる』と言われたりする。


「――ざっと3つのアンモニア合成法からどれかを選ぶ必要がある」


「聞く限りですとハーバー・ボッシュ法が効率よさそうですが――条件を研究する期間が長くなりそうなので、化学反応のみの石灰窒素法が確実ですね」


 確かにその通りだ。


 そうなると石灰窒素法でアンモニア生産をしながらハーバー・ボッシュ法の研究をするのがいいだろう。


「それじゃあ工場の建設は任せるよ。こっちは研究所でハーバー・ボッシュ法の最適な条件を調べる」


「わかりました。それではカルを連れて行って上手く活用してください」


「ああ、それならカルを増やしたほうが効率がいいと思うんだ」


「増やすのですか……たぶんできると思いますが……」


「? 何か問題でもあるの?」


「いえ、問題はないと思います。ただ後でカルゴーレム製造に立ち会ってくださいね」


「おーけー分かった」


 ゴーレムを作るのは研究所だからどのみち向かう先は一緒だな。


 ぶっちゃけ、できもしない農業考えるよりアンモニア合成だけ考える方がいい。


こっちは得意分野だ。


 上手くいかなくても問題ない。


別に石灰窒素法だけでも十分に賄えるはずだ。


 あとは火薬を作り出してできる限り防備を備えて脱出のための開発に専念する。


 なーに冬が来れば魔物達は大人しくなるはずだ。


 その間にいろいろ開発を終えれば――さよならバイバイできる!


 たった一人だけだから食糧問題を一切考えないでいいのは幸いだ。


 ふふん、勝ったな。





 その時、スピーカーからアイアンの声が鳴り響いた。


『工場長! 南門に魔物が複数迫ってきています! 攻撃ができません! 脅威度なし!』


 攻撃ができない? なのに脅威じゃない??


 その異常事態に疑問が湧いた。


「アル! すぐに戦闘準備だ!」


「はい工場長様。しかし場合によっては逃げることも検討してくださいね」


「わかってる」


 エアガンを装備したゴーレム部隊と南門へと向かう。


「!? 南門が開いてるぞ!」


 壊されたわけじゃないが一体何が起きているんだ?


「工場長様! 門から――アレは!」


 慌てて門を見る。すると開いている門から一匹の魔物が入ってきた。




「モァ! モァ!」


 気の抜けた鳴き声を発する毛むくじゃらの魔物。


 頭にはいつだったか被せてそれ以来つけているヘルメット。


 あまりにのんびりしているから付いた名前がマヌケモノ。


「ってモノじゃないか」


 ゴーレム達にはモノは攻撃しないように、さらに脅威ではないと言いつけている。


 もちろん城門は顔パス状態だ。


 ん? でもさっき複数って言ってたよな?


 モノに続いて後ろから続々と都市内へと入って来る魔物の影。


「モゲモゲ」「モァ~~~~」「もっきゅもっきゅ」

「モモ~モモ~」「モァ……モカ!」「モ~モ~」

「モシャモシャ……モシャモシャ」


 それは5匹とか10匹ではなかった。


 もはや長い行列をなして南門から続々と工場都市内へと流れ込む魔物の群れ。


「こ、工場長様、100匹以上は…………およそ300程度でしょうか」と焦るアルタ。


 開いた口が塞がらないとはこういうのだったのか。


 いやそれよりどうやってお帰りいただこう。


「モコモコモガ、モァ、モンモソ、モクモダーーーー!!」


 モノが群衆と化した魔物達の前で何か叫んでるが一体何なんだ?


「ここが我らが安息の地。もはや食糧に困ることも冬を耐え忍ぶこともない。ラクエンダー」


「って! アル内容がわかるの!?」


「ぼんやりと言語理解のスキルが反応しますのでそこから推論してみました」


 モノがこちらにやってきて一言いう。


「モァモァ、モォシク!」

「という事でヨロシク!」


 ……あれ? 食糧大丈夫か!?


 どうしよう。





 ◆ ◆ ◆



 石灰岩の採石場でも液体酸素爆薬による大規模が行われている。 そこは計画通りに段々畑のような地形を築いていく。 だがその地下には影で蠢く者がいる。


ウッド{ ▯}「一人だから食糧問題は考えないキリ!」


ストン「 ▯」「体系化のためにも無理やり考えましょうね~」

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― 新着の感想 ―
[一言] ふえええ…食料が足りなくなるよぉ モノさん、近代人はホウレンソウの徹底は必須ですよ!(混乱) アルタさん、アイアンゴーレムを高電圧に晒すことに抵抗はないのね…
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