第3話 液体酸素爆薬
勇者殺しのスライムが怖くないのかって?
そりゃ怖えさ、けどなその神話の魔物は水が無いと生きられないってのも有名だからな。
気を付ければまず遭遇しない。 それで魔大陸の冒険者は水辺に近づかないんだよ。
ま、そのせいで大所帯だと魔大陸に挑戦できないんだけどな。
――パーティーメンバーは少なめに
ディーゼルエンジンの生みの親、ルドルフ・ディーゼルには師匠がいた。 ドイツ人の科学者で冷凍機の開発者でもあり、圧縮発火器をディーゼルに紹介したその人――カール・フォン・リンデ教授だ。 彼は持ち前の冷凍技術で当時のドイツの悩みの種を見事解決した。
その悩みとは――19世紀末から20世紀のドイツでは帝国主義政策の名の下にイギリスと激しく対立していた。 その影響で硝石という爆薬の原料が不足して鉱山の稼働率が酷く落ちていた。 硝石というのは偏在性の鉱物でその資源地帯を巡って戦争になるほどの戦略物資だった。 つまりこの時代が硝石を必要としない爆薬を求めたということだ。
そこでリンデ教授が自らの専門分野の知識を基に開発したのが《液体酸素爆薬》になる。 原理は単純で炭素Cと酸素Oをいい感じに混ぜる。 そして化学反応を確実なものにするために金属粉末を混合する。 あとは鉱山で爆発させるだけだ。
この爆薬は技術力さえあれば安価な原料だけで構成されているので産業火薬が不足した時の代替手段としてよく使われた。 最終的に1950年代まで各国で使用されていたが、世界大戦後に物流が安定したら衰退して使わなくなったという。
「――という事で液体酸素を大量に生産できるという事は木炭の粉と金属粉で爆薬を作ることができる」
「なるほど、それではさっそく配備して現場で使用すればよろしいですか?」
「いや、その前に爆破実験をして製造法を確立してからだ」
「確かにそうですね――ただ工場長様は作業しないでくださいね」と保護者にクギをさされた。
「わかってるよ。液体酸素は基本的に保管ができないから現場で作らないといけない。つまり最初からゴーレムに全部任せるつもりだ」
「そうですか。ふふ、それなら安心できます」
そんな感じのやりとりをしてから空き地で実験を始めた。
「それじゃあ実際に爆発をするぞ」
「工場長様は絶対に近づいてはいけませんからね」もはや過保護である。
そう言いながらアルが後ろからぷにぷにの腕を回してハグしてきた。
うん、逃げられない。
「あー、アイアン任せた!」
「ハッ! お任せください!」
ハッキリと答えてから空き地に穴をあけて爆発の準備を始める。
といっても爆破実験は危険なのでトーチカという鉄筋コンクリートの防御陣地で作業を眺めるだけだ。
中学あるいは高校化学が嫌いになる謎の計算の一つにモル計算というのがある。
アボガドロ定数という聞いただけで眠くなる単語――数学で習った10の何乗という桁違いの単位をメンドクサイからモルとして扱うアレだ。
とにかくモル計算は重要なんだけど化学分野以外ではまず見ることはない。
だから何が重要なのか具体性に欠けるのでテスト後にはすぐに忘れる。
むしろ習ったことすら忘れる。
そんなモルモルを使って液体酸素爆薬の粉末炭素と液体酸素の割合と必要な重さを計算する。
――エイヤッて感じで計算する。
これで理論上は爆発反応を起こせばきれいに二酸化炭素ができる。
イエーイ!
ゴーレム達が実験場の穴に液体酸素爆薬をセットする。
そして点火すると爆発が起き土煙が舞う。
爆竹なんかとは違う本当の爆発だ。
煙で何も見えなかったが段々と視界が晴れていく。
後にはちょっとしたクレーターができていた。
「わお、なかなかいい爆発音だ」
その後も動作と作業確認のために何度も爆発をおこなう。
そして後半では不発が目立ってきた。
「それにしても十数回に1回は不発しますね」
「まあ化学反応がいい加減で、しかも時間経過で蒸発するから仕方がない」
当時の鉱山作業でも頻発したことだが液体酸素爆薬は扱いが難しい。
衝撃で爆発したり、摩擦で爆発したり、金属がこすれて発生した火花で爆発する。
たぶん静電気でも爆発するだろう。
そんでもって常に蒸発しているから気が付いたら不発するぐらい気化していたりする。
逆に言うと不発の場合は15~30分程度放置すれば無害な炭素の粉末に戻ってくれる。
だからこそ戦時中の代替爆薬でしかない。
「オーケー実験は終了だ! アイアン鉱山で作業できそうか?」
「ハッ! 問題ありません!」
よし、これで鉱山からの産出量は今までの比にならないほど一気に上がる。
火力掘削や水力掘削という紀元前掘削法からようやくおさらばできる。
「それでは工場長様、私も高炉再建のために行ってきますね。たしか純酸素を供給する新しい高炉に改造すれば宜しいでしょうか」
「ああ、予定通りに壊れた高炉を近代化する」
◆ ◆ ◆
鉄鉱山では無数の穴をどんどんあけていく。 そして液体酸素爆薬を詰めて順番に爆発させる。 そうやって今までの何十倍にも生産力が跳ね上がった。 次の工程である産出した鉄鉱石を選鉱機械で分離していく。 そして錬金術と工場の生産力で製鉄所を修繕していき高炉に再び火が点こうとしている。
「これから高炉を再開するが、改良したのは純酸素を上から吹き付ける工程だけだ」
これをLD転炉といって純酸素を炉の上から吹き込むことで、溶けた鉄に含まれる不純物を取り除く。
高炉というのは巨大な筒に鉄鉱石とコークスと石灰を交互に入れてコークスを燃やす。
溶けた銑鉄は下から取り出すんだけど、古い時代は純酸素を用意できなかったので普通の空気を流し込んでいた。
だから反応が悪くて不純物が多く残る。
この鉄――銑鉄は脆くて割れやすく使い物にならなかった。
使えるようにするにはさらに酸素を供給して硫黄や炭素を取り除く必要があった。
ところが高炉は原料と燃料を交互に常に投入しないといけない。
つまり不純物が取り除かれるのを誰も待ってくれないってことだ。
そこで技術者たちは下に溜まった銑鉄はとりあえず取り出して、転炉という別の炉に入れてとにかく空気を供給し続けるという方法を思いついた。
それが近代製錬でおこなう銑鋼一貫製鉄所の簡単な製造工程だ。
今までも高炉、転炉両方に空気を供給してきたがこれからは純酸素を供給する。
これで反応が早まって製鉄所の生産力も上がるはずだ。
――――――
――――
――
目論み通り製鉄所の生産力が飛躍的に上昇した。
イエーイ!
最初期の日当たりの生産量は1トンだった。 それが先月には約5トンになっていた。
それがいまは30トンだ。
――30トン!
本気を出せば日当たり1000トンは処理できるだろう。
だが今度は鉄鉱山の採掘スピードと液体酸素の供給量が低いせいで日産30トンが限界だ。
うーん残念。
「鉄の生産量が増えましたので数日中には石油備蓄タンクは完成します」
「オーケーまずはタンクから次に蒸留塔――いいね予定通りだ」
「はい、任せてください」そう言ってアルタは油田の再開発に乗り出した。
さてとこの間に自衛用の武器の試験をしておくか。
虎の子のロケットはアルミの量に不安があるのでこれ以上作ることができない。
だからテルミット反応以外の武器が必要になる。
だが周囲には依然魔物が多くいるが多分そこまで強いのはいないと思っている。
なぜならあのスライムより強いのがいれば確実にあの戦いに参戦していたはずだ。
それ以前に本当に強いのならとうの昔にスライムを討伐してここら一帯のボスとして君臨してるだろう。
スライムがいたという事が逆説的ではあるが凶悪な魔物がいないという証明になっている。
……………………だったらいいな~。
とにかく一番欲しいのは近代兵器である大砲とか強力なのだ。
けど、火薬の原料が手元にないので――これから原料の生産から始めないといけない。
それには早くても石油設備が復活して数週間はかかるだろう。
だからそれまでの繋ぎとなる武器を開発しないといけない。
――と言っても目の前にある材料は鉄と実験用のゴムと空気ぐらいだ。
まあ何とかなるだろう。
オーケー始めよう。
簡単な設計をして、開店休業状態の加工ラインを組み替えていく。
そして試作品をいくつか作っていた時にそれは起きた。
『急襲! 急襲!』
魔物が居なければいいなという思いをあざ笑うかのようにもっとも聞きたくなかった警報が届いた。
その声に体がこわばる。
何かが襲ってきたんだ。
一体何が来たんだ!?
工場から出て辺りを確認すると空を見上げて指をさすゴーレムがいた。
その方向を見ると頭上で旋回する巨大な影を認識する。
「グギャアッ!!」
アレは――巨大な怪鳥だ!
ウッド{ ▯}「ところで液体酸素爆薬の具体的なモル計算の数値と雷管それから導火線の描写は?」
ストン「 ▯」「この小説は爆弾製造小説ではないのでバッサリカットしています」
ウッド{ ▯}「……しょうがないね」




