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第2話 深冷式空気分離――酸素工場

えーそれでは魔法の歴史をおさらいします。

まず魔物が扱う原始魔法というのがあり、人々はそこから魔術を学んだといわれています。

そしてそこから派生した魔術の各流派というのは魔素と呼ばれる要素へのアプローチの仕方だと考えられています。


――原始魔法

 北の森では火災が続いている。 秋の乾燥した空気により松の木はよく燃え、人の手が入っていない無秩序な倒木がそれをさらに加速させる。 吹き荒れる黒煙は季節の変わり目に訪れる北風に乗り工場まで包み込む。



「げほ、げほっ……く~もうマスクとゴーグルなしじゃ出歩けないな」


「オーライ! オーライ!」


 ゴーレム達が西の跡地から魔石を運び出す。


 スライムの抜け殻は流出した石油と一緒に焼却処分している。


 西と北から黒煙が流れて工場都市は非常に居心地が悪くなっている。


「それで魔石はどのぐらい集まったんだ?」


「いま1時間に100kgほど掘削できてまーす」


 もはや魔石が掘削作業になってしまった。


「大物でーす!」


 見ると巨大な魔石の結晶が運び込まれてきた。


「これは――伝説の『魔晶石』かもしれませんね」と現地の錬金術師にしかわからないことを言い始めるアルタ。


「うーん、親玉のコアってことか?」


 最新の錬金術に触れることができないので魔石は研究所送りになった。


 研究所の設備は常に拡張し続けて混沌としてきている。


 だが今回はそれがいい方向に傾いた。


 ゴムとか細かい資材がかなり置いてある。



 いつものギルドに戻り、いつもの様に机に散らばった資料をまとめて次の計画を立てていく。


 アルタもいつもの様に――って受付に居なかった。


 ゴーレム達がパーツ交換式に代わり修理する必要がなくなったからだ。


 そして「ガタッ」と隣に椅子を置いて座るうちのスライム娘。


 ワザとらしく体を寄せてきて密着させながら器用に書類整理をする。



 なんなんだ、この可愛い生物は。



 ダメだ集中できないけど頑張って集中するんだ。


「工場長様、こちらの資料の確認をお願いします」


「ああ、わかった」


 この匂いはパインオイル配合型スライムだと……。


 ああ、いいニオイ。



 パインオイル――やる気がでない、落ち込んでいる心をリフレッシュさせ元気づけたり前へ進む力を与えてくれる。 そんな森の香り。



 ふぅ……ちょっとリラックスした。


 とにかく頑張ろう。




 ◆ ◆ ◆




 混乱した各資源地帯も作業が再開して何とか再建プランの道筋をつけることができた。


 そして新しい作業リストを掲示板に貼って、これからの方針の共有化を計る。



 張り出された項目は――。


 『鉄の生産』と書かれた大項目とそれに連なる作業リスト。 主に鉄鉱山の採掘量アップから高炉の修復そして最終的には石油設備の再稼働までここに入っている。


 『武器の生産』と書かれた大項目とそれに連なる作業リスト。 加工機械の組み換えと大量生産までおおよそ書かれている。


 『植物の生産』と書かれた大項目とそれに連なる作業リスト。 しかしこれは鉄と石油が復活してからになる。 だから具体的な計画は書かれていない。


 ――と、こんな感じだ。



 一石三鳥という本来なら失敗が約束されたアイデアを実行に移すべく行動を開始した。


「工場長様、それでは――まずは生産力をあげるために冷却工場を作るのですか?」


「そう、これから新たに深冷式空気分離装置――つまり液体酸素工場を作ってもらう」


「それはナフサ冷却と同じものを作るという事ですね」


「ああ、その通りだ。ただ前回と違い今回は空気を冷やして液体酸素、窒素、アルゴンを手に入れる」


 という事でまたしても熱力学の出番である。


 前回はナフサ蒸気を圧縮したり膨張させたりして冷却した。


 今回は本来の使い方である空気の冷却になる。


 さて、液体空気の生産には周囲の温度との断熱が必要になる。


 幸いにもホフマン式レンガ窯が無事だったおかげで断熱材は大量にあるから問題はない。


 だが液体空気を扱う場合は製造以外、例えば保管にも気を使わなければいけない。


 たとえば大きな冷凍倉庫が必要になる。


 だから工場に隣接する形で冷凍倉庫も作る必要がある。







「オーライ! オーライ!」


 建設場所は工場都市の西側の空き地。


 ゴーレム達がクレーンを操作して重い資材を運んでいく。


 このクレーンは踏み車式から蒸気クレーンに改良したものだ。


 移動はできないが物資を一括で運べるようになっている。


 そして研究所に有ったなけなしの溶接機で溶接していく。


 そして重要な部分はアルタに任せて、それ以外はゴーレムに指示を出しながら作る。


 冷却設備で特に大事なのは断熱になる。


 だから容器の周囲を断熱レンガあるいは断熱材で覆う。


「アル! そっちは順調か?」


「はい工場長様、新しく製造した分離器も設置が終わります」


 前回のナフサ蒸気と違うところは原料が無料の空気を使うことだ。


 原料がタダという事は蒸気機関の水と同じように一度加工しないといけないということだ。


 ――そう、タダより高い物はない。


「つまり、空気中の水分が圧縮の時に水滴化して、そのまま冷却すると氷になっちゃうんだ」


「それでは設備に悪影響があるので分離するのですね」


「その通り、だから水分を除去して質のいい圧縮空気にする必要がある」



 油水分離器――主にエアコンプレッサーなどで空気圧縮した際の水分と、ミスト化した機械潤滑油が液化したものを分離処理する装置。 これをしないとタンク内部からサビが発生して設備が壊れる要因になる。



 この調子なら明日にはできそうだ。


 やはり加工機械群が無事だったのがよかった。


 パイプの加工から圧力計までどんどん製造していく。


 これがうまくいけばマイナス200℃まで空気を冷却でき液体空気になる。


 この液体空気から酸素とアルゴンと窒素を分離する。


「工場長様、蒸留塔を使うという事は温度差を利用するのですよね」


「まさしく、この3つの沸点の違いを利用する。酸素はマイナス183℃、アルゴンはマイナス185.7℃そして窒素はマイナス195.8℃だ」


 なんと温度差わずか13℃以下!!


「うふふ、それではできた液体で本当にうまくいくのかお手並み拝見ですね」


「ああ、任せてくれ」




 ◆ ◆ ◆




 翌日には酸素工場が完成した。


 さっそく稼働させてみた。


 ボイラーは順調に動き、圧縮ターボを回転させる。


 これによりいつもの圧縮と高温――膨張と冷凍というサイクルによって液体空気を生産する。


 そして蒸留塔で分離した液体酸素と液体窒素を小型のタンクに入れる。


 液体空気は断熱容器に保管しても完全な断熱は不可能だ。


 必ず温度変化が主に取り出し口から起きる。


 つまり液体窒素なんかは容器の中で常に蒸発している状態になる。


 窒素の場合は気化したら体積が500~700倍に膨張する。


 仮に完全に密閉するとどうなるかというと――爆発する。


 だから絶対に密閉してはいけないのが液体空気だ。


 容器の蓋には圧力計付き安全弁が取り付けてあり、絶えず圧力が逃げるようになっている。


 取り出したタンクは隣接するマイナス数十℃の冷凍倉庫に保管していく。


「液体窒素は液体酸素より多くできるから、保管しきれないのは倉庫の冷却に盛大に使ってくれ」


「はーい。酸欠だー工場長様は危険だから立ち入り禁止だー」


「おーけーあとは任せた」


 いつの間にかゴーレム達も様を付けるようになった。


 そしてゴーレムの指摘の通り専用のタンクを使っていても液体空気貯蔵倉庫なんて危険だ。


 なにせ液体酸素は有機化合物と触れるだけで爆発するほど不安定な物質だ。


 だからボンベは内側を溶剤で洗い流して清潔じゃないといけない。


 ゴーレム達も油が付着していたら危険なので気を付けている。


 液体窒素は爆発はしないので安全な部類だ。


 だがそこに盲点がある。


 なにせ酸素より13℃低いマイナス195℃という事は空気中の酸素を液化できるということだ。


 つまりナベに入れて放置すると表面に液体酸素の層ができる可能性がある。


 だから時間が経てば経つほど液体窒素は爆発の危険性が増す。


 冷凍倉庫をマイナス200℃にしないのも大気中の酸素が液化するという恐怖の現象を避ける為でもある。


 それ以外にも何かの拍子に急激に窒素が膨張すると酸欠の危険性がある。


 うん、普通に危険だから滅多に近づかないでおこう。


 そんな危険物質はゴーレムによる力業でなんとか作業させた。


「工場長様、言われた通り液体酸素工場を作りました。まずは何から解決するのですか?」


「ああ、これを使って爆弾を作る。それで鉄鉱山の生産性を上げる」


「――!? 冷凍爆弾? 冷却が発熱?? うーん、あらあら?」


 アルタが悩んでしまった。かわいい。


 手分けして作業していたから詳細はまだ知らないんだったな。


「よしそれじゃあ、簡単な実験をしよう。まずはそれからだ」


 これから液体空気から爆弾を作る。


 それで問題その1である鉄の生産を解決する。


 ――さあ始めよう。


ストン「 ▯」「液体窒素を取り扱うなら酸素欠乏危険作業主任者資格が必要になるのでぜひ取ってから作業してね」


ウッド{ ▯}「一般人は絶対に扱わないけどな」

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