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第16話 ジャイアントキリング

夢を見ていました。 夢の中のあの人は…………え!?

これは何? 一体何が起こってるの?

誰か……誰か教えて!!


――驚愕する先読みの巫女

 工場長の号令によりすべての作業は止まり、西へと移動を開始するゴーレム達。 そして決して絶やしてはいけない高炉の火が消える。 溶鉱炉とボイラーの、工場都市のすべての光は失われゴーレムの赤く輝くコアが西へと移動していく。



「グガアァァァァァァッ!!」



 咆哮と共に放たれるエンプレス・ドラゴンの最大級のブレス。 無防備な都市なら一瞬にして焼土へと変える一撃。 しかしドラゴンのブレスは百万の魔法障壁により阻まれ、表層の数万枚を割るだけだった。 保有する魔力量が文字通り桁違いであり、魔法で突破することは不可能に近い。



 ――死を厭わぬ突撃。



 間髪入れず下級眷属であるワイバーンが特攻する。 捨て身の攻撃は――、物理攻撃は――、魔法障壁では防ぐことができず、肉壁する数百のワイバーンの爪がスライムを切り裂く。 しかし物理攻撃も液体のスライムには効果的ではなく――さらに物理的に破壊が困難なコアを壊すことができない。 また突撃により数十メートルは突き進むがそこで力尽き取り込まれる。 やはり数百メートル奥に鎮座する女帝のコアには届かない。



『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァッ――!』



 またしても膨大な魔力が溢れだし青白く輝く女帝。 空を飛び交う飛竜をすべて落とすために新たな命令を出す。 群体スライムは体を変化させて、まるで塔の様な突起をいくつも形成し攻撃態勢を整える。 そして闇夜を覆うドラゴンの群れに死を与える。



 ――天を穿ち断絶する死の光源。



 数百万の個体の魔力を消費して、何十もの魔力の光線が放射線状に夜空を切り裂く。 天を覆うドラゴンは逃げ惑うが――触れたモノのウロコは蒸発し、骨肉を切断していく。 死の光線は確実にドラゴンを仕留めて、その亡骸が地に落ちる。 瞬く間に数を減らし、数千を越えた飛竜はわずか数十しか残らなかった。 そして――。



 ――追跡する魔力の塊。



 追い討ちをかけるように無数の魔力の光弾が生き残りを屠らんと襲い掛かる。 一体、……二体、……三体と高密度の光弾がどこまでも追いかけてすべてのドラゴンを蒸発させた。


 あとには魔大陸に君臨するスライムだけが残った。



 ――女帝ドラゴン蒸発。





 工場都市、西の門。


『準備が整いました!』


「ヨシ! 全弾目標に照準を合わせろ!」


 3千を超えるゴーレムの軍勢。


 壁上に配置したすべての連装ロケット砲に携帯ロケット。


 デカい的だ。 外すことはない。


「ダメ……にげ……て……」


「アルタ、そこで待っていてくれ」


 ああ、判る。


 あのスライムはこちらにやっと気づいた。


 だけど遅いんだよ。



 未だ存在する敵対者に気付くエンプレス・スライム。 眷属達を屠り続けて永い眠りから覚ましたか弱い軍勢。 どれほど消費しようと尽きることのない膨大な魔力。 浪費ともいえる魔法の行使により魔力障壁をさらに数百万展開し攻撃魔法に備える。 そのうえで都市もろとも吹き飛ばすために更なる魔力の凝縮を命令した。



『工場長! ご命令を!』


「まだだ! そのまま待機!」



 ――そして青白い光を放つ。



「今だ! 全弾放て!」


 その号令によりすべてのロケット砲が火を噴く。


 数百、否、千に達するロケット砲の火線が目標へ、


 数キロ先にあるあのスライムへ、その真下にある取り込まれた石油精製所へ向かう。




 魔法ではないロケット弾は耐魔法障壁をすり抜けスライムの体にめり込む。 そして、テルミット反応によるガス噴射を推進力にそのまま体内を直進する。 酸素を自前で供給し化学反応で熱が発生する。 この熱によって練りこまれたゴムを蒸発させる。 その時に発生した膨大なガスの熱膨張が推進力となって前へ前へと進んでいく。



 ――テルミット反応式膨張ガス噴出推進ロケット弾。



 攻撃魔法でないと気付いた女帝はインベントリを展開して高速で突き抜ける火矢を収納しようとする。 だがすでに全弾発射しており、体内を直進するロケットを捕らえることはできなかった。 そしてロケット弾が取り込まれた石油精製施設に届いた。



「……今さらもう遅い。終わりだ」



 弾頭に積まれた金属が激しく化学反応を起こして熱量3000℃の高温により周囲のすべてを焼き払う。 その炎は――酸素が無くても燃え続けて、水や土でも消せない灼熱の炎は、鉄をも溶かす高温で貯蔵タンクを容易に溶かす。



 ――テルミット焼夷弾。



 熱を加えることですぐに分解する石油。 それは爆発的な化学反応を起こす物質の塊である。 テルミット反応による高熱で爆発的な化学反応が起き、それが周囲へと連鎖的に広がる。 無数のロケット弾が直撃した貯蔵タンク群はそのすべてで同時多発的な化学反応を誘発する。






 そのとき確かに世界が揺れた気がした。


 爆音も轟音も衝撃波も来ないその揺れに――あまりにも違和感がある感覚に気持ちが悪くなる。


「う、おぇ……」


 何が起きたのか、見上げるとそこには――。


 禍々しいと形容するのが正しい、巨大な赤黒い球体が存在した。



 石油施設の大規模な爆発が直上の高密度の魔力を触発して、制御不可能な魔力の奔流を生み出していた。 暴走した魔力の膨張は石油の化学反応により増し続ける止まる事のない熱量により増長する。 それを女帝と眷属達が展開する障壁の結界という力業で押さえつける。 それが赤黒い太陽のように不安を掻き立てる光景を生み出していた。



「ここは危険だ。全ゴーレム退避せよ! 都市の地下へ!」



 アルタのコアを持って3千のゴーレムと共に地下を目指し城門をすぎる。 そして門番に対して『すべてのゴーレムが通ったら門を閉じろ!』そう言った直後にそれは起きた。




『ギャアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』




 激流渦巻く魔力と爆熱の嵐によりスライムは内側から、直下で燃え盛る黒い水や溶剤を取り込んだスライム達が外側から削り取られ――ついに女帝のコアも魔力の激流に飲み込まれた。



 ――女帝スライム沈黙。



 女帝による統制を失った群体スライムは、軍隊でも群体でもないただの個体に戻る。 集団としての強みを失ったスライムに、もはや純粋なエネルギーを抑えることができなかった。


 ――そして圧縮した爆圧が解き放たれる。



「があぁぁぁぁっ!!」



 まず灼熱の熱線が――、そして間髪入れずに衝撃波が都市を襲う。 それにより壁上に居たゴーレムはすべて地面にたたきつけられ、都市の内側の壁際に居た工場長も衝撃に倒れる。



 そして意識を失う――。


















「――――――――ぶっ――はっーーーー!」


 目を覚ますと見知らぬ天井……ではなく暗闇。


 静寂が辺りを包んでいる。



 ――息が苦しい。



 顔に違和感が――口から土の味がする。


 ちがう。


 これは地面に顔から突っ込んでいるんだ。


 仰向けになり空を見ると輝く星々が見える。



 ――耳鳴りが激しい。



 一体どれほどこの場所に放置されていたんだろう?


 今までならありえない。



 もしかして――彼女とゴーレム達は……もう。


 輝きを増す星々。


 いや、流れ星?



 耳鳴りがおさまって『…………――――ヒュルルルルルルゥゥゥゥ』という音を認識する。


 地面に何かが衝突する衝撃音が鳴りやまない。



 ――まさか!?



 時間が経っていない!?


 辺りを見渡すと今まさにゴーレム達が起き上がる所だった。


 全身を鞭打って必死に起き上がり、上空から降る炎の雨のから逃げる。



 ――あれは燃えたスライムだ。



 危険を回避するために屋根のある城門へと移動する。


「はぁはぁ……ゴーレム! このままではすべてが燃える! 消火を! 直ちに消火活動を始める!」


「ハッ! 全体予備のパーツと交換! その後、直ちに消火せよ!」


「間違えるなよ! 水で化学反応するタイプもある! その場合は水より石灰や土を撒け!」


 一連の指示を出してから石油施設跡地を見る。


 西部は闇の中で赤々と燃え、雲をも赤く染める。


 坑井からは石油が噴出し、火柱となっている。


 全てが盛大に吹き飛んだ。


 そう、すべてが……。



 ――だが大丈夫だ。


 二月で作り上げた設備は彼女がいればまた作れる。


 心が折れるほどではない。


 彼女……。


 アルタは?


 彼女はどこだ!?



 ――ずる、ずるり。



 石油で燃えなかったスライムの一体が這いずっている。


 そしてコチラに気付いたのか突如襲い掛かってきた。


「コーーーー!!」


「うわっ!」


 ウソだろ!?


 抵抗むなしく、為すすべなくスライムに取り込まれる。


 そして、今度こそ本当に意識を失う――。




















 ◆ ◆ ◆

















「……うーん」


 目が覚めるとギルドにある見知った天井が見える。



 …………。



 一瞬ボーっとしてしまったが、急速に頭が回転し始める。


 ガバッと跳ね起きてから叫ぶ。


「アルタは無事か!!」


「はい、呼びましたか?」


 いつもの彼女の声。


 それだけで安心した。


 ふと、声のした方に目を向けるとそこには――。



 ――ぽよん、ぽよん。



 そこには絶世の美少女風スライム娘がいた!



「ふふ、おはようございます。工場長様」



 ――フーアーユー!?



「さて、起きたことですし――工場長様!」


「はひっ!?」


 まるで『ガタッ』と言わんばかりに身を乗り出すスライムさん。


「私は怒っています!」


 そう言いながら抱き着いてきた推定アルタさん。



 それはもうポヨンポヨンが、タプンタプンの、ムッチムッチで……おふぅ。



「もう危険な事はさせませんから、ぎゅーです。ぎゅーでっす!」


 おお、今まで触れることができなかった重金属が瑞々しいを越える水のような肌で触れてくる。



 待て待て待て……。



 この混沌とした状況を収める為にも秩序だった論理展開が必要だ。




 落ち着け……おちつけ……。




 これからやらなければいけないことは山とある。


 まず工場の再建だ。 とにかく火事の影響と再建計画を――。



 ――ぽよんぽよん。



 えーとそうだ畑は無事だろうか? 場合によっては食糧計画の見直し――。



 ――たぷんたぷん。



 我らが戦友大隊ゴーレム達の安否確認と周辺の調査もしなければ――。



 ――むちむち。



 ふぅ……紡績工場を作ろう。目のやり場に困るし――。



「ぎゅーーーー、工場長様をぎゅ~~~~」



 アルタん幼児退行してないよね!?


 大丈夫かな!?


 ああ、けど抵抗せずにもう少しこのままで、と思ってしまう。


 そうだ!


 今日を祝日にしよう!!


 休息日だ!!





 ――そうと決まれば、よし寝よう。おやすみ。















 第五章 完


 ――次章 窒素の時代へ続く。



実績

《ジャイアントキリング》



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― 新着の感想 ―
[一言] いっぱい食べる君が好き(殺意のロケット弾) 空路を遮りかねないドラゴンを処理してくれたと考えると禍福は糾える縄の如しという感じですねー
[一言] 第五章完結お疲れ様です。次章はついに窒素の時代ですか。実際高温高圧を扱えて外敵が多い環境なら窒素は大量生産したい要素ですね。
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