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第15話 大爆発

魔物のランクはA~Dの4つに、Sランク冒険者以外では討伐不可能という意味のSランクを加えた合計5つの区分があります。

しかし、魔大陸では専用の区分であるEランクがあります。

この区分の意味はエンプレス《Empress》、異世界の言語で女帝を意味します。

魔大陸で活動するすべての冒険者はEランク魔物だけは手を出してはいけません。

代表的なEランク魔物は『スライム』と『ドラゴン』です。


――ギルド所属の全冒険者に音読させる項目


 それは最初からそこに居た。 尋常じゃない数の集合体――エンプレス・スライムとその眷属達。 周囲に現れるスライムはただの尖兵に過ぎない。 その総数は一億をゆうに越えている。 これほどまでに膨大で圧倒的な戦力を有する化け物達が闊歩する世界、ゆえに人類は魔大陸の奪還を諦めた。



 ――ああ、目の前に化け物がいる。



 湖の底から現れたそれはまさに山の様に巨大な存在だといっていい。 それほどの膨大な質量が突如湖の底から現れた。 急激に浮上した影響で西風が吹き荒れる中ただ世界が暗くなるのを見上げる事しかできない。



「ぐ、くぅ……」あまりの強風に一瞬よろける。



 その巨大で全身が半透明な魔物はゆっくりと石油精製施設を飲み込んでいく。 アルタに聞かされた通り、建物を壊すことなく取り込む異様な魔物。 あれがスライムだと誰が思うだろうか。 坑井が取り込まれ燃え盛るガスフレアは消え去る。 ガス灯に供給するガスも途絶え設備から光が失われていく。



 ――ああ、アルタとゴーレム達と苦労して作り上げた設備が取り込まれていく。



 中央の城からは警戒鐘が鳴り響き、無線通信で『SOS』を送り続ける。 緊急時の天灯が空へと放たれていく。 鉱物を混ぜて七色に光るソレは周囲を巡回している武装ゴーレム達に事の重大性を告げる。 



 呆然としていてはいけない!


「アルタ! 逃げるぞ!」


 正しい判断のはずだ。


 抗うことができない相手に対する正しい判断だ。


 そう言い聞かせる。だがしかし――。


「ああ……お父様。どうして――なぜ?」


 アルタはその場で立ち尽くしうわごとのように言う、「なぜここに? いつから……」と――。


 それに答えられるものはいない。


「アル! しっかりしろ!」


「工場長……はい、逃げましょう。……地下へ、頑丈な岩塩採掘所なら入口を塞げば籠城できるはずです」


 正気を取り戻した彼女は的確に次の行動を提案した。


 純酸素のボンベに数か月分の食糧、そしてちょっとした家。


 彼女のインベントリ内にはそれなりの蓄えがある。


 彼女の手を取り二人で工場都市へと駆け出した。


 ゴーレム達はコアだけ集めればいい。


 モノは? アイツも探さないと!



 ――『カーン! カーン!』警戒鐘が鳴り響く。



 その音と光に過剰に反応した魔物は次の行動をはじめる。 総数一億を超すスライムの群体は女帝の命令に従い膨大な魔力を集中させる。 圧縮した魔力により群体全体が青白い光を放ち、眼前の城に狙いを定めた。



『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!』



 無情な魔力の奔流が工場都市中央の城に直撃し、かつての繁栄の面影があった城は物見塔を中心に蒸発した。 無慈悲な光線は東に横たわる大山脈に直撃する。 それは雄大な大山脈の表面をも蒸発させ、瞬間的に沸騰した金属蒸気を衝撃波と爆風によって周囲にまき散らす。 そして外気との温度差によって対流が発生し巨大なキノコ雲を作る。



「そんな……バカな……」


 魔法とはそれほどの熱量を持っているのか?


「ア……ガ、ゴフッ……」


 その瞬間、アルタの体は崩れ落ちた。


「アル! どうした!?」


「ア……ウ……ァ……」


 一体何が!?


『私の本体は封印を施して城に――……』いつだか話していたことを思い出す。


「まさか――今の攻撃で!!」


「だ、大丈夫……です。しか……ああ、魔力の乱れで……魂が引張ら…………」


 そこまで言いまた沈黙してしまった。


 彼女を抱えて、いや封印された本体が危険ならそれじゃあだめだ。


 彼女がいないならすべて意味がない。


 どうする? どうすればいい?


 今から城に隠されている彼女を連れて……どこへ逃げればいい?



 ――なんだ、森が光っている?



 北の森が輝きだし、数千のレイスが木々の合間を縫うように現れる。 無謀にもレイスの軍勢は女帝に対して攻撃を始めた。 理不尽な魔力の光線とその衝撃はレイスに対する敵対行動と映ったのだ。 生も死も恐怖という感情の無いレイスは相手がいかに強大な格上だろうと恐れずに攻撃を開始する。



「そうだ……今のうちに城へ……」



 女帝とその眷属達はレイスに対して反撃するために魔力を収縮させる。 一体一つは保有するスキル、そして億のスライムが保有する億のスキル群。 女帝はそのすべてをつなげ留めて、あたかも一個体の能力として振るう。 一のスライムが、全のスライムを統べる。 数万もの魔法障壁を重ねて展開することですべての攻撃魔法を無効化する。 ――青白く輝く群体スライムの御岳は幾重もの触手を表面に作り、そこから魔力の光弾を浴びせる。



 ――薙ぎ払う魔光の火柱。



 人が扱う魔力の御業と違い、純粋な魔力の放出。 それは北の森全域に撒布するように放たれレイスを消滅させる。 着弾した光弾は無数の火柱を作り出し、その熱量により周囲の森は自然発火する。 それは北の森を焦土と化すに十分な熱量である。



 ――レイス消滅。



 北の森から反撃が無くなり、森が焦土と化す。 西の湖に住まうすべての水生魔物も脅威に対して水中から攻撃あるいは逃げようとするが――瞬間すべての水が『消失』した。 億のスキルを持つ群体は《インベントリ》すら有している。 大湖水が無くなり無力になる水生魔物、その群体にとって敵対者にかける情けはなく、這いずる水生魔物に洗礼の光弾を与える。 そして追い討ちをかけるが如く取り除いた水を、数百億トンの質量を、頭上から叩きつける。



 ――無慈悲の大海嘯。



 西部大湖は土石を伴う激流によりすべてが洗い流される。 それにより大湖の水生生物と魔物は全て洗い流され絶命する。 あとには濁った湖と濁流と化した川だけが残った。



 ――西部水生生物 絶滅。



 後ろは振り返らない。


 音だけでも想定外の虐殺が起きていることが分かる。


「……はぁはぁ……やっと城門までこれた……」


 ここに定住だと?


 冗談じゃない!


 ここは人が住む場所じゃない。


 ただの地獄だ。 地獄の中の地獄だ。


 コアだけを取り出したアルタを抱えて城門に滑り込む。


 そして急いで有線電話をとる。


「壁上にゴーレムはいるか!」


『ハッ! ご命令を!』


 よし、ここからゴーレムに命令して工場の全機能を停止させて――。


「ア……こうじょ……にげ……て」


「!? アルタ大丈夫か! 今から救出に向かって――」


「いえ、封印は……外に出ら……、ガッ……置いて……にげ………………さよう……ら……」


 また、無言になる彼女。



 ――何を言ってるんだ!?



 考えろ――考えるんだ!


 今から彼女を救い出してどこへ逃げる。


 地下は……いやあれほどの熱量、容易に地殻が消し飛んで終わりだ。


 走って東か南だろう。


 それなら――。




 その時、『ゴガアァァァァァァッ!!』という無数の咆哮が聞こえた。




 東の山脈に住まう数千のドラゴンの飛来。 自らの縄張りを文字通り蒸発させた相手に――。 空を覆う天空の覇者が暴虐な帝王に戦いを挑んだ。 それは夕闇の空を覆い闇の到来を告げる。 その強靭な顎を広げ脆弱な魔物を一瞬で屠るブレスを放つ。 それは原始の魔法と呼ばれる火球である。



 ――身を焦がす大火球。





 北から無数にやってくるドラゴンの群れ。


 大爆発がいくつも起きているが、山に大砲を撃つようなものだ。


 ビクともしていない。


 また山が蒸発するかもしれない。


 それなら逃げるなら南の炭鉱だろう。


 城壁に供えられた有線機からゴーレムに指示を出す。


「すべてのゴーレムは作業を中断し――」




 選択肢は多くない。


 この場合はアルタを置いて逃げるのが正解だ。


 そして炭鉱の奥深くに隠れてやり過ごす。



 ああ、人は困難に直面したときに何をするかで、人の魂の価値が決まるという。



 知的な工場長と呼ばれたかったが諦めよう。




 女の子をひとり置いて逃げる《腰抜け》。




















 あるいは世界で一番バカな工場長かだ。



「――完全武装したうえで西側城門に集合せよ!!」


『ハッ! 了解しました! 手信号とモールス信号を送れ! 全体集合!』


「ありったけのロケット砲を集めるんだ! あのクソッタレなスライム野郎をぶっ潰すぞ!!!」


『サーイエッサー!!』



 暴虐な竜が飛び交い炎と光弾が交差する戦場。


 闇夜を切り裂く灼熱のドラゴンの群れ。


 そして、またしても強大な魔力の圧縮がおこり青白い光に輝きだす群体スライム。


 そこへ一糸乱れぬ行進を開始する軍隊ゴーレム。



 それを見ながら思う。



 ――勝負は一度きりだ。


普段は読みやすさと開発内容に集中させるために描写量を落としているのですが、開発回じゃないのでいろいろ書いてしまいました。


16話は夕方ぐらいに投稿予定です。

いろいろ爆発したので五章は終わり次の六章 窒素の時代に移ります。

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