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第7話 追いかけっこ《改稿》

ゴーレムは戦場では役に立ちません。


戦争というのは陣形の展開速度と突破力が重要でありまして、ゴーレムというのは遅くどちらかというと防衛向けであります。


しかしご存じの通りゴーレム使いは嫌われるので戦場で見かけることは滅多にありません。


――魔法王国軍略家

 資源はどのような世界だろうと偏って存在する。 その偏りが顕著なのが山脈などの地形の起伏が激しい場所だ。


 そうなると「いろんな資源が必要なエンジンを作って乗り物を作る」という脱出計画が破綻しているのだろうか?


 そんなことはない――なぜなら偏在しているのは経済的に()()()()()()規模の鉱床であってヒト一人に必要な量は探せばいくらでもある。


 資源がないと嘆いている“とある島国”は案外石油からレアメタルまで何でも採れる――ただし一億人分の需要をまかなえる量がないというだけの話だ。


 つまるところ「東の山脈には乗り物を作るぐらいの資源があるだろう」と推論しリスクを承知で森を突き進んだ。


その当て勘は見事的中して鉄鉱山を探し当てることができた。


 ところがどっこい、さらに豊富な資源がありそうな奥の山脈にはウツボのように待ち伏せするワームが行く手をさえぎっていた。


 コイツをどうにかしないと計画の修正が必要になる。


 そもそもホーンラビットにすら負け気味なのにワーム相手じゃ全滅してしまう。


「アルタ君、それでワームは避けられそうか?」


「それが……ワームの巣は注意深く地面を見ればわかりますし、小石などを投げれば顔を覗かせるのですぐに分かります――しかし数十から数百メートルおきに巣が点在しているのと踏破可能な道が少ないせいで調査は難航しそうですね」


「そんなに間隔が狭いんじゃうまく避けて資源を見つけても開発できないってことか……」


 これでは意味がない。


 なにかいい案があればいいが――今は思いつかないな。


「よし、調査は打ち切りにして、水路を鉄鉱山まで作ろう」


「そうですね。下手に刺激をしないほうがいいと思います」


 ここから鉄鉱山までかなり緩やかな傾斜になっている。


 樹木が厄介だが、それ以外は特に障害はない。


 素人集団だが土木工事をしながら戻るとしよう。


「それじゃあゴーレム達――刺激しないためにも静かにゆっくりと掘り進めるぞ」


「よっしゃー!」「どりゃ!」「おりゃぁぁぁぁぁぁ!」と雄叫びをあげながら掘り始めるゴーレム達。


「静かにって言ったよな!?」


 景気よく銀色に輝くスコップを地面に突き刺し、水路を掘っていくが――ブシュ!


「――ブシュ?」


「ギャアア!」と叫び声と共にワームが地面から這い出てきた。


先ほどの腹を下したワームと同種のようだ。


 どうやら地面の下で睡眠中の所を刺して起こしてしまったようだ。


「グギャァ?」


ギョロリとこちらを見る。


 待て、刺し起こしたのは後ろのゴーレムだぞ――そこを間違えるな。


「キャァ!」とアルタが驚いた声をあげた瞬間――。


「グ……グギャアア!!」


 怒りをあらわにしたワームが襲い掛かる。


「に、逃げるぞ!」


「あ、あわわわわ……」


 二人して全速力で鉱山を目指し逃げ続ける。


「はぁはぁ、もしかして虫とかニガテ?」


「無理、無理です。ヌルっとしているのはダメです」


 おお、鉄の美少女にも弱点があるんだな。


 巨大なワームは地面をえぐりながら「グギャァァァァ!」と咆哮し、行く手をさえぎる樹木をなぎ倒す。


 森の木々のおかげでなんとか捕まらないが、振り切れるほどでもない。


 追撃者は決して諦めずにどこまでも地面をえぐりながら追ってくる。


「わき腹が痛い……く、まだ追ってくるか――しつこいぞ!」


「大丈夫ですか?」


 さすがはゴーレム――その疲労しない体はうらやましいぞ。


「無念、もう足が……そうだ、岩を落としてみたらどうだ?」


「あ! インベントリ! 岩落とし!」


 思い出したかのようにインベントリ内の岩石を魔物の頭上から落とす。


「グゲ!? ……グギャアア!!」


「むしろ怒った!?」


 岩石を掘り進めるワームは分厚い皮膚に守られている。


 ちょっとした物理攻撃はきかないようだ。


「掴まってください。鉄鉱山に着けばゴーレムで囲んで倒せるかもしれません」


 アルタに引っ張られながら逃げ続ける。


 ゴーレムは基本的に走れないので水辺に置いてきてしまった。


 あとは鉱山で作業している十体ほどと合流して対処するしかない。


 だが、もう足が動かない――万事休すか……。


「ひぃひぃ……ん、あれ?」


「グギャ……グギャ……」とワームも息を切らし始めている。


「どうやら体力はないようですね」


 そもそもこの魔物は巣穴に隠れて捕食するタイプであり持久力はない、はず。


 そのおかげなのか足も思ってたよりも遅くて捕まらずに済んでいる。


 というより歩きのほうが速いんじゃないか?


 それでも諦めずに追ってくるのはヘイトを溜めたせいだろうか?


 いや、そもそも刺し起こしたのはゴーレムだぞ――冤罪だ!




 ◆ ◆ ◆




「ぜぇぜぇ……なんとか鉱山まで着いた……。だがどうやって倒そう?」


「そうですね。まずは手を放してもらえますか」


 そういえばずっと手を引っ張ってもらったんだった。


「すまん」といい手を離すと、少しグーパーしてから「作業中のゴーレム達! 武器を持って迎撃準備!」といつもの調子でテキパキと指示を出す。


 アルタの号令で鉱山の居残り組が鉄ヤリやツルハシそして松明をもって集まってきた。


バキバキバキと木々を押し倒しながら森からワームが現れる。


「ふぅ……来たぞ!」


「グギャ……グギャ……」と息絶え絶えのワームだが体当たり一撃で有刺鉄線を破壊する。


 ゴーレム達が四方を取り囲んでヤリとツルハシで刺すが致命傷にならない。


 とにかく分厚い皮膚を突破できない。


 落ち着いて頭部を見ると――どうやら頭部にある目に刺さったようだ。


 ――そりゃあ怒り心頭だな。


「有刺鉄線も鉄の槍も全然効かないか」


「体力がないのが唯一の救いですね」


 そうなると持久戦――不眠不休のゴーレムアタックで倒すしかないか。


 そこへ「ファイヤー!」と言いながら松明を持ったウッドゴーレムが突撃する。


 だが火を物ともせず一撃でゴーレムを吹き飛ばす。


「あーれー」と言いながらウッドゴーレムは炭焼窯に激突する。


製炭途中で激突したことから炭窯の火がウッドゴーレムに移る。


「わっわっわっ」と言いながら木酢液のバケツを上からかけて消火する。


「――うげ、木酢液の臭いがきつすぎる」


 木酢液の原液、すっぱいとも焦げ臭い――臭いが漂う。


「グ? ゲギャ!?」とワームがのけぞったと思ったら一目散に森へと去っていった。


「あ、逃げ出した――そういえば木酢液には虫除け動物除けの効果があるんだっけ……おぇ」


「はぁ~気持ち悪かった……」と安心したのかその場にぺたん座りする錬金術師。


「いや、まだ油断はできない――ゴーレム達! その木酢液をもってワームを追い出すんだ」


「りょうかいー」と言いながら木酢液を料理用のナベや皿ですくってワームを追いかけていく。


ん? よく見ると炭焼き窯から火の手が上がっている。


「しまった! 酸素が入ってスゴイ燃えてる!!」


「わっ!?、インベントリ――土砂!!」


インベントリにしまっていた土砂を流して事なきを得た。


これじゃあ最初の木炭は使えそうもないな。

 まあいい――なんかどっと疲れたのでへたばる。


「……ふぅ、やっと一息つける」


 なんだかんだ言って廃墟や鉱山以外だと気が休まらない。


 そして魔物が本気を出せば有刺鉄線すら無力だと痛感した。


「そうですね。あとは中断した水路を――」


「嗚呼アァァァァァァ!」と森から叫び声がする。


「今度は一体何なんだ!?」


 なんとワームが抉ったくぼみに水が流れ出してきた。


 そして中腹で作業中だったゴーレム達がウォータースライダーでも楽しむかのように滑りながらこっちへ来る。


「アァァァ――ヒャッホー!」


 そう言いながら滑ってくるゴーレム達――いや体を置いてきてコアだけが帰ってきた。


 置いてきたゴーレム達は最初の命令に従い水路工事を続けた。 水門も何も作らずに池とワームが抉ったくぼみの境目を破壊して一気に水が流れ込んだ。 そのときの衝撃でゴーレム達のコアが取れてここまで流れてきた――という説明を何とか聞き出せた。


「あ~つまり水路工事はほぼ出来たのかな?」


「ええ、そのようですね」肩をすくめながらそう答える錬金術師。


 あとは水量調整用の水門の建設それから水が地面に浸みこまないように整えれば完成か。


 なんと数週間かかるだろう土木工事が一日で終わってしまった。


 うーん、ラッキー!


ウッド{ ▯}「木酢液くせぇ!」


ストン「 ▯」「落ち着け、僕らには鼻が無いんだぞ!!」


ウッド{ ▯}「そっそうか!!!」

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