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第10話 石油でガス溶接

1.ギルド登録時に魔力測定の魔道具にて保有魔力を計る。

2.異常値を検出したら直ちに上司及び帝国に報告する。

補足:魔物生態学よりドラゴンは高魔力体を好むことが分かっている。

よって報告を怠った場合は街がドラゴンに襲われると思うように。


――ギルド受付・対応マニュアル補記

 長射程魔法攻撃という今までにないタイプの魔物を倒した。


 ピクリとも動かないことからもう大丈夫だろう。


 だからこれから近くに向かい。


 いわゆる素材をはぎ取るという作業をしようと考えている。


「き、気を付けてくださいね。一緒に行きたいのですが、もしかしたら魔力の残滓が暴発するかもしれないので……ごにょごにょ」


「ああ、大丈夫だから待っててね」


 魔法に弱い系のアルタにもしものことがあったら危険なので、お留守番してもらうことにした。


 これからやる事は簡単だ。


 自爆で割れた甲羅をはぎ取る。


 いい感じに硬そうな皮をはぎ取る。


 魔石をはぎ取る。


 少々キツイ作業になりそうだが今後使える素材かもしれないから我慢だ。


 そう考えながら塹壕を踏み越えたら――。



『グガァァッ!!』と咆哮をあげながら起き上がった。



 倒したと思った亀の魔物が息を吹き返したのだ。



「な!? いかん! ゴーレム部隊、全力撤退――!!」


「撤退! 撤退!」


「やあアル! ただいま」


「やはり工場長も塹壕から先に出るのは禁止です!」


 オーノーついにアルタに外出禁止令がだされてしまった。




 ――ヒュ。




 うん?


 なんか黒い影が飛んでいったような?


『グァァアアアアアアアア!!』


 別の荒々しい叫び。


 その体の芯にまで響く感じからも今までの魔物とは別格だということが分かる。


 恐る恐る塹壕から顔を出すと――。


 赤黒いウロコ――。


 鉄板なんぞ容易に切り裂く鋭利なかぎ爪――。


 空から飛来した翼竜――。


「…………ドラゴンだ」




 その後は一方的な狩りだった。


 ドラゴンにとってはとても美味しいのだろう。


 例えるならばカニのような物だろうか。


 とにかくこちらに目もくれず食事が始まった。


「うげーこれはモザイクが必要だ……」



 ――――


 ――



 その後はドラゴンの生態調査という体で食事を観察し、お腹を満たして寝るのを観察し、空を飛んで山脈の方へ帰っていくのを見送った。


 その時、望遠鏡越しに目が合ったのだが、その目には野生というより知性を感じた。


「ドラゴン対策は後で考えるとして、今後のために対カメ用のトーチカとテルミット部隊を配備しよう」


「確かにタイミングを合わせれば一撃で誘爆させられるので次からは倒しやすくなると思います」


 そうして後の時間は兵器の製造と部隊を隠しておくタコツボ塹壕とポンツーンを設置した。



 ――翌朝。



 二度目の警戒鐘が鳴り響く。


「工場長! 亀の魔物が現れましたー!」


「はえぇーよ!!!」


 すぐに二匹目の亀が現れた。


 だが、すでに岸側にテルミット砲撃部隊を塹隠匿して配置している。


 油井の周辺も葦のような雑草でカモフラージュしたポンツーンにも部隊を置いてある。


 やる事は簡単だ。


 近づくと同時に奇襲攻撃、そして誘爆を起こす。



 そして――。



『グァァアアアアアアアア!!』



 ………………。


 ………………。



 何ということでしょう。


 カメの肉に味を占めたドラゴンがまたしてもやってきてペロリと食べていくじゃありませんか。


 その時、望遠鏡越しに目が合い、やっぱりそこに知性を感じた。


 つまり、『甲羅を壊せばあとは処理してやろう』そう言っているような気がした。


 というより満腹だから見逃してやろうかもしれない。



「おとぎ話なんかじゃドラゴンに街を焼かれて、騎士が倒すってのが定番なんだけどな……」


「そうですね。こちらを警戒する仕草からテルミット砲を脅威と感じているのかもしれません。そして知性が高いので横から獲物を攫う方が効率がいいと理解しているのでしょうね」


 なるほど――普通に考えたら頭のいい魔物は危険な兵器と対峙して都市を破壊するより都市の周辺に陣取って利用するよな。



 こうしてドラゴンとの謎の共生関係がはじまった。


 相手がこちらの武器を警戒している間は襲われる心配はないだろう。




 ◆ ◆ ◆




 ドラゴン対策は保留することになり、代わりに生産拠点の強化を優先することにした。


 研究所はすでにゴムの製造ラインと化している。


 そして出来上がったゴムを使い携行ロケット砲を量産していく。


 でっかい大砲を棒の先っぽに付けた石火矢と見た目が似ている。


 新しい槍と多連装ロケット砲を神輿のように担ぐ異様な集団。


 それら兵器類を担いでゴーレムの隊商が各生産設備へと向かっていく。


 さて、ここで新しい問題に直面した。


 ――それはロケット製造にアルミを大量に使用することだ。


 つまりテルミット溶接に回せるアルミが無くなってしまった。


 オーノー。



 ――――


 ――



「――という事でガス溶接機を開発する」


「わーい」と言う労働用のゴーレム達を集めてこれからの方針を説明する。


 アルタは少々ロケットの原料分離とアルミの抽出と――つまりいつものパンク状態だ。


 そのために先ずは材料集めをしておく。


 ガス溶接ができるようになればテルミット溶接の必要性は無くなるからね。


「まずはガス溶接に必要なガス――LPガスと酸素ガスこの2つのボンベを作る」


 と言ってもLPガスはもう溜まってるからボンベに詰めるだけだ。


 これは圧縮ポンプで十分だ。


「工場長―! どうやって酸素を集めるんですかー?」


 酸素は大気中に2割ほど含まれている。


 しかし欲しいのは純酸素だから、窒素や二酸化炭素から分離しないといけない。


「純酸素を作るためにとある鉱物を採ってきてもらう」


「ヒャッハー掘削だー!!」「おー!!!」


 掘削大好きゴーレム達が雄たけびを上げる。


 ほんとに好きだねー鉱物掘削、一体誰に似たんだろう?


「採ってきてもらうのはバリウムだ。つまり毒重石とか重晶石とかを探してきてくれ」


「りょうかーい!」


 これで酸素が手に入る。



 バリウム金属というのは燃やすと酸化する。 ちょうど炭素を燃やすと二酸化炭素となって酸化するのと同じだ。 空気中で大体500~600℃で熱すると《過酸化バリウム》になる。 そこから更に700℃で熱すると今度は酸素が分離して純酸素を得ることができる。



 ――だから空気中で燃やして酸化バリウムを作る。


 次に真空容器内で燃やせば酸素が手に入る。


 この方法は電気分解など酸素を大量に生産する方法、が確立する前の一般的な分離方法だ。


 すでにゴムがあるので小型の真空ポンプを動かせるようになっている。


 粗い真空程度なら作れるってもんよ。


 真空が出来るのなら加圧も何とかなる。


 圧縮ポンプもこれで出来る。


 おーけーガスボンベの開発を始めよう。




 ◆ ◆ ◆




 ガス溶接に初めて触れたのはいつだったろうか? たしか15,6ぐらいだ。 その後、溶接の技能講習で、丸2日も座学で拘束されながら知っている実技をチョロっとやった記憶がある。


 ――手順は今でも覚えている。


 1.ボンベに異常がないか点検。


 ――ボンベを固定して圧力計とかの取り付け時にゴミが付かないように気を付ける。 そしてゴムのホースで…………おっと、ゴムホースを作らねば。


 2.保護具の装着。


 ――難燃性の皮手袋が無いな。 カメの残りから皮をはぎ取ればいいかな? いやいや遮光メガネすらないぞ!


 3.バルブを開けて圧力計の確認。 そして圧力調整器で一定圧力にする。


 ――まあ、ゴムパッキンがあれば各部の接合は何とかなるだろう。


 4.ガス漏れがないか確認。


 ――現場の知恵として石鹸水をたらして泡が発生しないかを見る。 ちょうどノリで石鹸を作ってあった。 イエーイ。


 5.燃料ガス弁を開けて点火。


 ――おっと着火装置がねーや。 この前の火花発生器でいいか。


 6.酸素弁を開けて酸素供給。


 ――バルブをうまく動かして炎を青白く約10ミリぐらいに収束させる。


 7.溶接が終わったら酸素弁、燃料弁の順番に閉じる。


 8.お片付け。



 案外覚えているものだな。


 色々足りないけどほとんど何とかなる部類のものだ。


 それでも遮光メガネだけは何とか作らないといけない。



 ――――――


 ――――



「――という事でコバルトを手に入れた」


「頑張って見つけましたー」


 ゴーレム達に今までの選鉱工程で出た廃棄物からコバルトを見つけてもらった。


 とはいえ数百トン単位のスラグから特定の鉱物だけを分離するには時間がかかる。


 だから手元には数kg分しかない。


 たしかコバルトの名前の由来はドイツの鉱夫達が発祥だったはず。


 コーボルトという妖精が鉱夫を困らせるという言い伝えが由来だとかなんとか。


 そのとき掘り当てたのがコバルトであり、その酸化物は青く美しい顔料になったのでちゃっかり工芸品として活用していた。


 この妖精コーボルトはなぜかゲームとかでワンコ系獣人のモンスター・コボルトになってしまった。


 そして倒してもコバルトが手に入らないという不具合が発生する。


 ということでアルタに『コボルトっている?』と聞いてみたらそんな種族は知らないと答えが返ってきた。


 まあ、コバルトの逸話があって初めて成立する固有名詞だからそんなものか。


 けど、犬の獣人はいるって言っていた。


 いつか会ってみたいね。



 ――閑話休題。



 さて、酸化コバルトとガラスをいい感じに混ぜると青いコバルトガラスができあがる。


 この青色が目にヤバイ紫外線的なのを吸収してくれる。


 ガス溶接は光が弱いので多少薄くてもいい。


 ただし、アーク溶接は薄い青じゃ意味がない。


 その場合だと物凄く濃い青、青色のプレートと呼ぶぐらいの青――そのぐらいの遮光ガラスが必要だ。


「よし、コバルトメガネの出来上がりだ」


「青ーい!」


 なんにしてもイエーイ!


 これで溶接ができる!




 ◆ ◆ ◆




 試験場の一角で『ジューー』とガスが噴出する音が響く。


 溶接機開発は多少苦戦したが途中で手の空いたアルタが手伝ってくれたので上手いことできた。


 特にLPガスをポンプで加圧して液化できたのは大きい。


 それにしても――。


「遮光メガネをしていても、しかしやはりというべきか遠くから眺める事しかできない」


「ガス漏れ等の安全性がまだ確認できていませんので当分は遠くから指導するだけにしてくださいね」


 そう心配性のアルタにクギをさされてしまった。


 ちなみに革製品の作り方が分からないので、どちらにせよ現場での作業には参加できないな。


 うーん、久しぶりに溶接ができると思ったのに――。


 まあ、それでもテルミットに頼らない溶接ができるようになった。


 これでゴム、溶接とできたから次は――潤滑油を製造しよう。


 そうすれば大規模な冷却装置を作れて、アルタ姫を玉座から解放できる。


 よし、やったるぞー。


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