第5話 通信網
魔王様、お願いの儀がございます。
どうか、どうか雷魔法の使用を制限してください。
我ら一族はこの魔法が離れた所で起きても気分を害するものが多くほとほと困っております。
どうか、どうか我ら一族にご慈悲を!!
――鳥人族は電波に弱い
遠くの誰かとコンタクトをとるというのは神話の世界で神々のみができる御業だった。
だからこそ人々は遠くの他者と連絡が取れることに一種の憧れがあった。
だがその用途は戦争と不可分なほど密接だった。
古く原始的な方法は狼煙と呼ばる煙と、太鼓による音が通信の手段として用いられた。
主に緊急事態や襲撃の合図などに使われた。
そこから次のステージに進んだのは近世の終わり近づいてからだ。
腕木通信という旗振り通信みたいなのがナポレオンと共に台頭して、ナポレオンを捕まえるのに貢献した。
これはバケツリレー方式の通信だが文字を送れる画期的な通信法だった。
しかし常に人員を配置しなければいけないので裕福かつよく戦争をする国以外では発展しなかった。
これから開発しようとしているのはこれらをすべて過去の遺産へと追いやった夢の技術。
そして歴史上はじめて戦争以外の目的で社会に普及した通信手段。
そう電話の開発だ。
「電話と言ってもまともなのを作るのは時間がかかる。そこでまずはより簡単な有線機から徐々に作っていく」
「はい! 通信って何ですか?」
「そこからかよ! ……まあいい、ここにモノの毛から作った紐がある」
「モフン」とドヤ顔を決める魔物――お前は本当に魔物か?
「紙で作ったコップと紐を結ぶと糸電話という通信装置ができる。これの電気版をこれから開発します。おーけー?」
「あ~あ~」「あひゃひゃ」と糸電話で遊ぶゴーレム。
説明を理解しているのか疑問が残るが、それでも糸電話でやりたいことは分かってくれたかな。
「モア? モア?」とモノが両手に紙コップを持って試す。
だがだらりと糸が垂れ下がっているので意味がない。
「工場長、これではダメなのー?」
「糸電話だと糸がピンと張っていないと音が伝わらないんだ。だから音が電気で伝わる物をこれから作る」
これからとても文明的な発明品を人類の英知ともいえる物を開発する。
そのために必要な道具はとても繊細なものだ。
そうこのサバイバルナイフ的な刃物で作り上げる!
このナイフでペリペリっとマイカを薄く剥ぐ。
「いいか、このマイカフィルムにコイルの輪っかをくっ付ける」
「も~も~」
「あ~あ~音聞こえなーい」
「まだ永久磁石が付いて無いからな」
このコイルの輪っかの真ん中に永久磁石をつければ完成だ。
いわゆるダイナミックマイクと呼ばれるものだ。
原理は簡単で物理的な振動をフレミングの謎の法則で電気の信号に変えているだけだ。
そしてこの電気の振動を信号として使う。
――という事で紙コップの底をマイクに変えて、今度はエナメル線でつなぐ。
「モォ~~~~」
《モォ…………》
今度は鳴き声がそのまま耳に届いてハイテンションになるモノ。
「モッ! モッ! モッ!」
「ワッ! ワッ! ワッ!」
お気に召したのか遊び始めた。
これが面白いのに理科の実験ですら滅多に見かけないスピーカー電話だ。
スピーカーとマイクは同じ原理を使っているので、同じものを二つ用意すれば電話ができてしまう。
イエーイ!
有線通信装置ができた!
音の質は悪いが贅沢は言えない。
それでもこれで短い距離の通信はいいだろう。
魔物がいる世界で有線長距離通信は無理がある。
だから基本的には都市内部でのやり取りに使うとしよう。
ここから発展させるにはアンプというか増幅回路という謎の回路が必要になる。
それにはまだ時間がかかるし後回しでいいだろう。
◆ ◆ ◆
有線による通信の実験と配線計画を立てていたら彼女が見に来てくれた。
なぜかドヤ顔のモノと会話を始める。
「あ~あ~」
《あ~あ~》
「も~も~」
《も~も~》
「あらあら、うふふ」
《あらあら、うふふ》
「これが無線になるんですか?」とアルタさん。
「いや、こっちは有線でしかつかえない。というより無線を飛ばすための回路が必要なんだけど、そっちはちょっと時間がかかりそうなんだ」
無線による送受信にはダイオードという電気が一方通行になる部品が必要だ。
古くは鉱石がダイオードとして使われていたがアレは独特な腕前というか鉱石をグリグリしたりしなかったりする才能が必要だ。
ゴーレムには荷が重い。
そうなると由緒正しい真空管ダイオードが必須になる。
だが名前の通り真空にする装置が無いと作れない。
今ある真空ポンプは荒引ポンプであり真空度はかなり低い。
より高性能な真空ポンプにはそれに見合ったゴムがないといけない。
つまりちょっと待って状態ということだ。
「――という事で代わりにモールス信号で通信がきるようアルミをとってくるよ!」
「鉱山まで行くのですか、でしたら――」
「いんやちょっとそこの川岸で粘土をとってくるだけだ」
「……そうですか。ではレイスに気を付けてくださいね」
なんか声のトーンが下がった気がするけど気のせいかな?
まあいいや、それよりも久しぶりの資源採掘だ!
◆ ◆ ◆
翌日になり、今度は西の湿地帯手前の川岸に来た。
久しぶりの掘削の時間だ。
つい先日、石油の掘削をした気もするが、ああいうのはドリルのロマン意外に魅力が無いという致命的な問題がある――つまりノーカンだ。
人々が掘削に魅力を感じるのはそこにロマンがあるからだ。
さて、今回のロマンの標的は《金剛砂》になる。
この金剛砂というのは低湿地に堆積しやすい。
というのも岩石が風化して残った物が――この砂だからだ。
「この前の漂流中に川岸がキラキラしているのに気が付いた。これは金あるいは宝石の輝きだとね」
「ここを掘ればいいのですかー?」
「ああ、とりあえず土砂を掘り返して比重選鉱装置で鉱石だけを集める」
このキラキラの主な成分は宝石であるガーネットと同じアルミナ系の鉱物だ。
とても硬いので研磨剤として使われている。
モノづくり界では必需品であるサンドペーパーの材料だったりする。
ボーキサイトは雨の多い熱帯地域で長い年月風化して出来上がる。
だから熱帯雨林の地域や地殻変動で移動した元熱帯だった土地で手に入る。
アレが日本列島で採れないのは――つまり土地が若すぎるせいだ。
逆に言うとさらに風化するとあのボーキサイトになってくれるかもしれない。
ざっと数千万年後ぐらいに……。
まあ、そんなに待てないからシャベルで掘り返して全部錬金送りにしてやる。
「じゃんじゃん粘土を掘り起こしてくれ!」
「いえっさー!」
よし、これで金剛砂が大量に手に入る。
けれど欲しいのはアルミニウムだ。
例えばボーキサイトの採算ラインの品位は30%と言われている。
この砂のアルミの品位は良くて数%だろう。
砂を分離してアルミナ鉱物だけをより集めても10%程度がいいところだ。
商業ベースで考えると全くの無駄だ。
しかしお手軽錬金術だと一瞬で純度100%のアルミになる。
そう、近代的思考の採算性を度外視すれば案外アルミは手に入るものだ。
◆ ◆ ◆
さらに数日のうちに土砂をトン単位で掘り返して、比重選鉱装置で99%を捨てる。
そんなことを繰り返して数トン分のアルミナ鉱物の山を築き上げた。
この金剛砂の山はガーネットやサファイヤや輝石というアルミが含まれた鉱物だ。
「つまりこの砂からアルミを錬金術で取り出せばよろしいのですね」
「ああ、今後の事も考えてアルミを数トンは作り置きしておきたいんだ」
「なるほど、わかりました。ふふ、久しぶりの資源錬成ですね」
そう言われて見れば、たしかに最近は設備の建築ばかりで空いた時間は研究所で何かの実験をしている。
資源や鉱物の錬成は久しぶりな気がする。
本当はアルミもゴーレムで製造できればいいんだけど。
アルミは『電気の缶詰』と形容されるぐらい電気を消費しないと作れない。
資源も電力もそれにアルミの製法に必須の原料もない。
時間がかかりすぎるので当分は錬金術頼みだな。
――1時間後。
「さあ、アルミを大量に錬成しました。これで何をするのですか? さあ、教えてください!」
石油施設が一区切りついたのか、こっちに興味津々のお嬢さん。
「ああ、このアルミの粉末を使ってコヒーラ現象というちょっと謎の原理で電波を検知するんだよ」
「コヒーラですか?」
コヒーラ検波器――19世紀末にほぼ絶縁状態の金属粉末が高周波によって通電状態になる謎の怪奇現象を発見した。 当時の技術者たちは謎の解明――には興味を示さず原理を利用する方法を模索した。 それはかねてから需要のあった無線通信の開発だ。
当時は有線通信から無線通信へと発展させるためにいろいろと試行錯誤をしていた。
それこそ地面に電気が流れるのなら地面通信ができるんじゃないかと本気で研究をしていたぐらいだ。
そんな手探り状態のときにコヒーラの怪現象は光明となった。
高周波で通電してちょっとした振動で絶縁に戻る。
「そのためにコヒーラ検波器はガラス管に入ったアルミの粉と通電を解除するデコヒーラという振動装置で出来ている」
「デコヒーラ……常に振動を与えるのですか?」
「いや、通電したときにコイルで磁石が反応するリレースイッチを動かすんだ」
電流が流れたらコイルが磁力を発生させて磁石が動くという単純な部品で『カチッ』と鳴らして振動を与える。
これで検波装置の出来上がり。
この原理の良いところは高周波つまり火花を散らすレベルでオーケーというところだ。
だから送信機側は火花を電気的に発生させる『火花送信機』を作ればいい。
自然現象の火花である雷というのは電磁波を発する。
遠くで雷が鳴るとラジオにノイズが入る。
同じように人工的に火花を発生させるチャッカマンも電波を発する。
電磁波っていうのは作るだけなら案外簡単だ。
後はこれを使い電波を送信して、コヒーラ検波器で受信する。
あとは送信と受信の感度の問題だから謎のアンテナで反応しやすくする。
火花送信機で『バチッバチバチッ』と流せば、受信機で『カチッカチカチッ』と反応する。
これをトン、ツーに変換するとモールス信号になる。
オーケー試作機をさっさと作ってしまおう。
――――
――
「――これでトン、そしてツーというモールス通信ができる」
「ツーツー、トン、まーまー、これって面白いですね。あらあら」
そう言いながらトントンとキーを叩く。
コヒーラも反応してリレーがカチャカチャ鳴る。
このリレーをもう一つ用意して針とつないでいる。
作動中は紙が常に回転してトンツーに反応して紙に記録していく。
この紙に印字された線を見れば信号を読み取れる。
通信技術が始まった当時は近距離は有線で連絡し、長距離は無線を飛ばした。
現代社会はそれとは逆で近距離で無線通信をおこない、長距離は大容量光通信でやり取りをおこなう。
この逆転現象が起きるにはまだまだ技術力が必要だ。
それでもこれで都市内は電話が通じて各拠点とはモールスでやり取りができる。
だが問題がないわけではない。
むしろ重大な問題がある。
早くゴムを作らないと都市のいたる所になんちゃってエナメル線の電線網ができてしまう。
最低でもゴムで覆わないと怖くてしょうがない。
よろしい。お次は石油の精製だ。
ウッド{ ▯}「えーと、糸電話風スピーカー電話にマイカの有効利用、金剛砂のアルミからコヒーラでリレー回路でなんちゃって三六式無線だよねこれ」
ストン「 ▯」「詰め込み過ぎッて言いたいんだろ。そうだよもともと有線と無線の2話だったのを長ったらしいから1話に圧縮したんだよ!」
ウッド{ ▯}「うわー。それに火花送信機ってほとんど説明してないじゃん」
ストン「 ▯」「これは実際に作って飛ばすと法律違反で捕まるから細かい内容は全部カットしたからしょうがないね」
ウッド{ ▯}「うーん……しょうがないね」




