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第4話 石油の貯蔵

いいかこの世界に飛ばされた奴らは大抵《言語理解》かそれに近いスキルを身に着けている。

だから気付かないがこの世界は地域によって単位や進数がかなり違う。

ちなみにここら辺は二十進命数法でヤードポンドに近い単位だ。

89メートルなら――。

「Syvoghalvfemsindstyve、yd!」

こんな感じだ。

これでこの辺の奴らは89メートルと理解する。


――深入りしてはいけない世界

 

 ここに水時計という時を刻む装置がある。 その装置は『ししおどし』によって少しずつ歯車が回転することで時計の針を動かす。 それなりに改良と改善を進めた結果、1分経つと『かぽーん』となるようになった。

 けれどこんなのはおおよそ1分。 あるいは1分だったらいいな~、でしかない。 そしてこのいい加減な精度で満足し始めている。



 ――『かぽーん』



「よし、石油の出る量はいくつだ?」


「はい、おおよそ1分間に1.1リットルですね」


「よーし、そうなると産出量は1.1リットル/分だから日当たりに換算すると……1590リットル/日になるな」


 たしか被災地に水を供給するトラックが約1万リットルだったはずだ。


 そうなるとトラック並みの大きさで10日分の備蓄になる。


 ちょっと少ないな。


 うーん原油タンクの規模がどの程度必要になるのか?


 これは実際の需要は見えてこないからわからない。


 とりあえず1年分ぐらいの備蓄を前提にすればいいか。


 いつもの複雑かつ難解な計算をすると――。


 当て勘で直径18m、高さ3mぐらいだと……約763立法メートルになる。


 リットル換算で76万3千リットル分になるな。


 このぐらいの規模で480日か。


 計算書を見ながらサラサラっと設計をすると…………こんな感じか。


「アル、貯蔵タンクの規模はこんな感じでどう?」


「見せてください……これは、18メートル!? あ、けど内径と水位監視の装置類を加味すると備蓄1年分ですか」


 そう呟きながら図面と計算書を見比べていく。


 そして――。


「そうですね。実物大の大きさを地面に書いていきますね。ゴーレム達!」


 そう言いながらゴーレム達と石灰の粉でラインを引いていく。


 このとりあえず地面に書くというのは地下道攻略以降の流行りだったりする。


 つまりマイブームだ。


 カラカラ音を立てながらライン引きで原油タンクの建設予定地に実寸大の図面を引いていく。


「おお、地面に書くと大きさが分かるな!」


「そうですね。この規模なら――原油タンクは問題ないと思います」


 アルのお墨付きなら問題ないな。


「それじゃあさっそく建設を始めよう」


 大量の鉄を消費するニョキニョキタイムだ。




 ◆ ◆ ◆




 鉄板を含めた建築資材はできる限り用意していた。


 そのおかげでたったの1日で建設が終わった。


 目の前には巨大な鋼鉄の建物がそびえている。


 規模的にはホフマン式レンガ窯や大型化した高炉などと同等だ。


 それでも全体が鋼鉄製でこの規模となるとはこれが初めてだ。


 側面には鋼鉄の階段が螺旋状に備え付けられており、そこから屋根へと上がれる。


「実は屋根ないんだけどね」


「はい、設計通り屋根はタンクの底に置いてあります。これでよろしかったのですよね?」


「ああ、これが本来の形だから問題ない」


 原油タンクってのは遠目から形状を知っている人は多い。


 けれど内部構造を知っている人はすくないものだ。


 その最大の特徴は石油の上に屋根が浮いていることだ。


 これを浮き屋根という。


 この屋根を浮かすためにいつものポンツーンが外縁部分に取り付けられている。


「石油はいろいろな物質が混ざっているから常温で気化する。だから下手に屋根を作るとガスが溜まって爆発する恐れがあるんだ」


「つまり外気と接する面積を極力減らすために屋根を浮かべるのですね」


「そゆこと。あとは実際に原油を流して浮くことを祈るだけだな」


 浮屋根のすばらしいところはたとえ火災が起きても外周部のわずかな隙間が燃えるだけだ。


 面積が少ないってことは消火が容易になるというメリットがあったりする。


 まあ、火災を起こさないに越したことはないんだけどな。




 少しして原油の生産が始まった。


 生産開始の目印は分かりやすい。


 やぐらから炎が吹き上げている。


 油田のあるいは産油国の象徴であるガスフレアだ。


 なぜそのような事をするのかというと爆発事故を防止する役割がある。


 可燃性のガスがその辺を漂っているなんて考えただけでゾッとするっとする。


 資源として再利用する方法も何年も検討されてきた。


 しかし、こういった天然ガスには金属を腐食させる成分が含まれている。


 そのせいでタンクに貯蔵するのに膨大なコストがかかり現実的じゃなかったりする。


 だから当時から盛大に燃やすのがこの業界での慣例みたいなものだ。


 近年は温暖化対策として地中に送り返すことで原油の生産性を向上させているとかなんとか。


 なお取り出す炭素量は増えるから温暖化対策になってないとか言って話いけない。



 それよりもこのガスフレアが夜中も燃え続けることの方が問題だ。


 というのも魔物を刺激しないかちょっと心配だ。


 どうしたものか……。


「工場長、少々問題が発生しています」


「ん? 何があった?」


「それが――」


 聞くとどうやら原油の粘性が高すぎて貯蔵タンクまで流れてくれないようだ。


 原油というのは結局のところ油の一種だ。


 熱せればドロドロの液体も多少はサラサラになってくれるはずだ。


「――という事で熱を加えれば改善するかもしれないな」


「熱ですか、そうなると都合のいい熱源が……あ」


「そうだな……あ」


 あっといいながら見た先には――都合のいいガスフレアが燃えていた。


「アレでしょうか」


「アレですな」


 という事で無駄に捨てていたガスフレアでパイプを温めることにする。


 直火焼きにすると火災の原因になるので耐火レンガで覆った区画を作る。


 そのレンガ槽の内側に水を張って下からガスフレアの火で炙る。


 石油業界というのは減産が難しいと言われている。


 その原因は海底油田を止めると海水によってパイプの途中が冷えて原油が固まるからだという。


 だから常に原油を取り出し続けないといけない。


 要するに冬に水道管が凍結して破裂するのと一緒だ。


 そうなると原油が止まらないというのは蛇口からほんの少しだけ水を流し続けるのと同じってことだ。



 ――――


 ――



 ガスフレアで水が温水になる。


 それによって間接的に暖められて原油の流れがよくなった。


 タンクには徐々に貯まり始めた。


 タンク内部に置いてあった浮き屋根が少しだけ浮いたのが確認できた。


 もっとも危険ということもあり大部分の作業はゴーレム任せになっている。


 一番懸念があったのが浮き屋根が浮く時だった。


 なにせちょっとでも斜めになると原油が屋根の上にあふれて原油の底に沈んでしまうからだ。


「生産は問題なさそうだな」


「そうですね。しかしタンク内で冷えてまた粘性が悪くなるのはどうにかしたいですね」


「うーんたしか旧来はレンガでタンクを覆って熱が逃げないようにしていた気がする」


 たしか新潟の石油跡地がそんな印象的なレンガタンクだったはず。


「なるほど、では今からレンガで全体を覆ってみますね」


「ああ、そうしてくれ。レンガで覆うのは蒸留塔に送るまででいいや。その後の各原料は粘性が違うからそこまでする必要はないはず」


「なるほど、わかりました」



 それから直径18メートルもあるタンクをレンガで覆った。


 辺りには硫黄の臭いとアスファルトだろうかそんな臭いが混じった独特な場所になっている。


 今は二つ目の坑井予定地で掘削が始まったところだ。


 掘削リグは一つの掘削が終わるとやぐらから切り離して次の掘削にはいる。


 この第二の井戸はメインに何かトラブルが発生したときのための予備である。


 掘削作業はゴーレム達でなんとかなるのは実証済みだ。


 だからこの間に別の作業をすることができる。


「それではある程度原油が溜まるまで時間があるので今のうちに蒸留塔の建設をしますね」


「ああ、わかった」




 さて、設備設計が終わると建設はお任せになる。


 ――という事は時間ができたということだ。


 オーケーこの間にちょっと通信機を作ってしまおう。




ウッド{ ▯}「ねーねー1.1リットルとか微妙じゃない?」


ストン「 ▯」「原油取引単位である1バレルが159リットルなので日産10バレルという意味になるよ」


ウッド{ ▯}「ならなんでバレルを使わないの?」


ストン「 ▯」「作者曰く工場長はヤードポンド法撲滅委員会のメンバーだからだって」


ウッド{ ▯}「ちなみにSyvoghalvfemsindstyveの元ネタは?」


ストン「 ▯」「デンマークのSyv(7),og(+),halv(0.5),fem(5),sinds(*),tyve(20)……」

→7+(-0.5+5)×20=97


ウッド{ ▯}「……異世界人と出会ったら旧数字単位撲滅委員会とか始めそうだね」

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