第11.5話 地図と日記(★添付画像あり)
設定資料&サイドストーリーみたいなものです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
迷子145日目
遂に紙を作ることに成功した。
この喜びを出来たての紙に記して記録に残すことにした。
もし何かヤバいことが起きて死んでも記録だけは残すことができる。
この日記をつけるために紙とは別に鉛筆と万年筆そしてインクを作った。
鉛筆の芯の製造はコークス乾留時の副産物であるコールタールと炭を混ぜてプレス機で圧縮する。 これを焼成して粉々にしたら粘土と混ぜて棒状にしてまた焼成する。 これで鉛筆の芯ができる。 あとは木の板と接着剤で挟んで削ると鉛筆ができる。
次に万年筆は錬金術の生成コストが低いガラス万年筆というのを作ってもらった。 毛細管現象をうまく利用したこの万年筆は実は日本のガラス職人が発案したものだ。 こういった物理現象を用いる発想は敬服に値する。
最後にインク。 滲まない紙を作ったということはその紙に書きやすい、あるいは活版印刷機に適したインクというのが必要になる。 油性インクというのは染料と油とアルコール系溶剤で作る。
黒なら煤と松油とメチルアルコールという手持ちの材料で実験を繰り返した。
実はこの紙以外に少なくない量の紙が犠牲になっている。
それでも何とか書けるインクを作ることに成功した。
イエーイ!
これでやっと日記をつけることができる。
余った時間で周辺の地図を描いてみることにした。
アルタと地図と見比べたらその絵心の差に愕然としてしまった。
絵心の無さに絶望した……もうダメだ。
……明日は好き勝手に開発しよう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
迷子146日目
紙ができたのはいいが紙の材質のせいでおおよそ50年ぐらいしか保存できないと思われる。
この記録は果たして残るのだろうか?
しかしこの世界にはすばらしい技術――魔法がある。
チェストボックスに入れれば100年でも1000年でも保存できる。
イエーイ!
さて、気分転換の開発の日と決めたので何かお題を探さなければいけない。
そこで保存とか100年とか時間が出てきたのでその概念について考えてみた。
146日ってなんだ? いままで何も考えずに日を単位として使っていた。
しかし違う惑星とするのなら単位はソルの方が合っている気がする。
ソルとは【solar day】の略solであり、地球の1日24時間と他の惑星の時間差による混乱を防ぐ単位だ。
例えば金星は240日以上、木星は約10時間で一回転する。
だから金星人は240日で1日になり、木星人は10時間で1日をカウントする。
つまりその惑星の一日という概念だけどぶっちゃけ混乱する。
極端な例だったらまだいいけど、火星なんかは24時間39分ちょっとで年単位だとズレが生じてやっぱり混乱する。 だから各惑星の自転で一日を表すときはソルを使うことにするらしい。 もっとも他の惑星に人は住んでいないから、NASAとSF小説にしか出てこない概念になる。
そうなると今の146日目というのはソル146ということになる。 この二つの時間単位にどれほどの誤差があるのか不明だ。
ここまで書いといてなんだが――このままじゃやっぱり混乱するから今まで通り146日に統一しよう。
結局のところ向こうの世界とリンクしていないのなら考察するだけ無駄というものだ。
さて、時間について書くということは今日の開発のお題は『時計』になる。
軽く時計を作ってしまおうということだ。
作る時計の種類は製造コストの低い《水時計》にする。
原理は極力単純化させて、駆動方式に『ししおどし』を採用。
つまり水をチョロチョロっと容器に流して、ある一定量溜まったら『カーン』と音を立てる。
その時の遠心力でついでに時計の針を動かすというものだ。
原理はとっても簡単!
ししおどしの原理は電子工学を学んでいるときに発振回路の例として上げられる。
そのぐらい時間を刻むのに便利な機構だ。
発振回路というのは電気で一定の周期を刻む謎の回路で電子時計は大抵これで時を刻んでいる。
そしてこの機械式水時計の『水が溜まったら――』の部分を『振り子が動いたら――』に換えたのがいわゆる振り子時計だったりする。
ゼンマイや歯車の比率を入念に調整するより、水量の調整の方が楽そうという理由で完全機械式ではなくて水時計を作る。
かるーくまとめると。
開発名:機械式水時計
製品の構成:水タンク、ししおどし、歯車、針
構想:1分で一定水量に達する。
その時に、ししおどしの原理で水を排出する。
その時に、遠心力で歯車を1歯分動かす。
歯車の歯と連動した針が1分に1min分動く。
動作確認項目:チェックリスト参照
基本設計:添付図面参照
詳細設計:添付図面参照
この手の時計は中世前期の中国で発明された。 かなり歴史と伝統のある時計だ。
ただし開発コンセプトにちょっとした違いがある。
古き良き時代の開発は基本的に擦り合わせ型開発に近いものだ。 イメージとしては一つの芸術品を丹念に作り上げるようになっている。 だから古い時代の発明はそこら中に龍だったり象だったりのモチーフや王家の象徴が散りばめられている。
現在の主流はどちらかというとモジュラー開発になる。 これはパソコンのように機能別に各パーツを独立して開発する。 標準化されたインターフェースに合致するように作りこまれるので他社製品でも組み合わることができる。 利点としては開発コストを下げて早期開発を実現できることと過去の成果物を再利用できることだ。
技術者としてはモジュラー開発の方が馴染みが深い。
それに絵心なんてないから工芸品なんて作れないんだよ!
モジュラー開発的に考えるとタンクも歯車もすでに開発済みだ。
だから設計するのは全体を組み合わせた基本設計図と、ししおどしの詳細図面だけでよくなる。
まあ、今まで脳内CADを基に開発してきたから全部設計しないといけないんだけどね。
それでもいろいろな設計を図面に残せば後の開発は楽になる。
特に新規開発の度にネジの一本から設計するとかいう馬鹿げたことをしなくていいってのは嬉しい限りだ。
イエーイ! 好き勝手に開発できるー! 最高だー!!
開発始め…………開発完了!
満足したから明日から蒸気機関に必要な研究とか開発に移るとしよう。
今まで脳内でやっていたことを全部紙に書けるのがこんなにも嬉しく思える日が来るとは思はなかった。
後でアルタに感謝のプレゼントを贈ろう。
ところで不死身のゴーレムが喜ぶ物って何だろう?
――何だろう?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
周辺の地図を書いてみた。
注:縮尺、距離感は考慮せず
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アルタも書いてみました。
注:縮尺、距離感は考慮せず
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アルタの地図にちょっと注記してみた。
注:縮尺、距離感は考慮せず
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




