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第5話 都市計画は大事

ダンジョン攻略のために《マッピング》スキル保有者を求めています。

【未経験者歓迎!】

【体力不要!】

【スキルを使う簡単なお仕事です!!】

【年齢性別不問】


――とある冒険者チームの募集要項

 

 異世界の朝は早い。


 ≪♪~まずは体の伸びから、サンハイ、イチ、ニイ、サン、シ~≫


 新しい日課である朝の腰痛防止体操をおこなう。


 背伸び――屈伸――体を回す。


 工場現場では見慣れた光景である朝の大事な儀式だ。


 もっともこの4か月ほどは完全に忘れていた。


 それどころじゃなかったからだ。


 久しぶりに朝の体操をすると予想以上に体が硬くなっている。


 普段使う筋肉以外はこうも衰えるものだろうか?


 いや、衰えるからこそ体が資本と言われる現場ではこういった体操をするんだろうな。


 先日の腰ピキによって改めて体を大切にする重要性を認識したのだ。



 それにしてもアルタ特製の謎の塗り薬はほんとに効き目が凄い。


 おかげで一日で痛みが引いてくれた。


 これはもう《ポーション》と名付けていいんじゃないだろうか――塗り薬だけど。


 そういえばポーションは何となく飲み薬のイメージがある。


 しかし腸から吸収して傷口が治るって普通に考えてありえないな。


 それよりも患部に塗ったあとのほうが問題だ。


 ガーゼや包帯みたいなのが無いから絶対安静で動けなくなるのが少しツライ。


 木綿という都合のいい植物がいまだに見つかってないので代替品を探すか作るかした方がいいかもしれない。


 例えばトイレットペーパーみたいに紙で包帯の代わりをするっていうのも案としてはありだ。


 小学生の定番ネタ、ミイラごっこをまさか異世界に来てまでやらなければいけないとは――情けない。


 そんなことを考えながら体操をしていたら、硬くなっていた体がほぐれてきた。


「よし、音楽止めていいよ」


 そう言うと小型のノームゴーレムが奏でた音楽が止んだ。


「あってた? あってた?」


「ああ、音楽は合ってたよ」


「わーい」


 朝のラジオ体操がしたくて蓄音機を開発しようと思い立ち、そのためには楽器を製作しようと思い、アルタにいろいろと相談をした。


 すると、『ゴーレムなら望みの音が出せますよ』とあっけらかんとした答えが返ってきた。


 『え!? ウソだ! ほんとに?』と疑問を呈していたら、『そもそも口も喉もありませんので音は自由に出せますよ』と言ってきた。


 そう、ゴーレムには口がない。


 目もない、耳もない、肌も無ければ、鼻も舌もない。


 あまりに無いない尽くしなので深くは考えてこなかった。


 ではなぜしゃべれるのか?

 ――答え、魔法の力で望む音波を出してるから。


 オーケー魔法に対してはノータッチだ。


 こちとら技術者だ原理を考えるな利用法を考えるのだ。


 と、いうことで即興の腰痛体操音楽をノームに覚えてもらった。


 即興と言ってもまずはうろ覚えの音楽フレーズを『タンタッタ、タッタ~』という感じでノームの前で歌って、それをそっくりそのままノームが返してくる。


 それを気合で音楽に変えるという無理難題。


 結局アルタが助け舟を出してくれて音の調整をしてくれた。


 そう、アルタも楽器の音を出せるのだ。


 こうして朝の腰痛体操という新しい日課が出来た。



 ◆ ◆ ◆



 岩塩という調味料が手に入ってから、少しだけ味が良くなった朝食を楽しんだ。


 早々に朝食を済ませてからギルドに向かう。


 そしてこれからギルドで次の方針を決める。


「あ、工場長――その少々お待ちください。すぐに終わりますので」


 そう言ってアルタはギルドの受付カウンターに座り長蛇の列となったゴーレムの修理作業をしている。


「流石に20ヘクタールの農地を耕すとゴーレムの列も長くなるな」


「はい、ですのでテーブルで座って待っていてください」


 あの行列を捌ききるまで現在の問題点を考えるとしよう。




 我々の長期的なミッションはこの地からの脱出になる。


 そのための乗り物を作ろうというのがやりたいことだ。


 いろいろがんばった結果、最近の問題は各資源拠点の生産量が把握できていないことになる。


 これは《紙》という記録媒体そして結果を伝える伝達手段が無いことが原因だ。


 だいたいお邪魔物のせいだ。


 そこで浮上したのが都市改造計画という無茶無謀。


 資源をすべて一カ所に集めれば把握しやすいだろうという解決案だな。


 この計画を進めるには都市建設のための地図から工場の配置図とか……あと恐ろしいほどの書類を整理していかないといけない。


 今修理をしているアルタの真後ろに木板が高く積まれている。


 倒れたら人が死ぬレベルの板のタワーだ。


 もう少しコンパクトにスマートにしたいから、ここでも《紙》を束ねた資料が欲しいね。


 この都市計画の最大の懸念事項は地下空間になる。


 そのためにスライム退治と地下の把握をミッションとして課しているが――。


 マッピングというのは大変だ。


 木板を持って行って記録するのも、後で集計するのも骨が折れる。


 難癖をつけるならこれも《紙》があればなんとかなる。


 ウソだ――あの現代文明ですら地面に埋まっている全パイプの把握なんてできていない。


 紙があってもこれだけは解決しない。


 そこで土木工学の先人達のすばらしい英知――地面に文字を書くという方法でこの難問を乗り越えるつもりだ。


 配管工事の前後にアスファルトにチョークで書かれているあの『謎の文字』を都市全域に書いてやる。


 地下に潜って三点測量なんておバカな事をするより、地上にナスカの地上絵を描くという壮大なおバカな事をする方が何倍もマシだということだ。


 まあ、最後には紙の地図が欲しいけどね。


 あと他には研究の記録に紙でしょ。


 それから実験の記録に紙、それからそれから――。


 オーケーつまり次のステップに進むためにも紙が欲しいのだ。



 製紙工場を建設して紙を作る。


 ペーパーレスなんていう時代遅れから脱却して、ペーパーモストの現代に進もうじゃないか。


 ――ということでまずは紙の仕様を決めなければならない。


 紙っていうのは和紙と洋紙があってこの二つには歴史と因縁と、あといろいろある。


 今回採用するのは大量生産に適している洋紙だ。


 和紙の手すきなんて高度な職人技は不器用なゴーレムにはできない。


 次に考えるのは『紙質のレベル』だ。


 これについてはまったくいらない。


 資本主義社会なら紙の質にこだわるエンドユーザー様の求める水準が必要になる。


 だがここには一億二千万のモンスタークレーマーは存在しない。


 必要最低限の『図面が書ける』、『記録できる』、『指示が伝わる』このぐらいだ。



 具体的な製造プロセスも今のうちに考えておこう。


 紙を作るには植物の繊維が必要だ。 けど植物――というより樹木を大量に伐採して繊維は有り余っている。 次に化学的な製法にとある薬品が必要になる。 その原料は塩だ。 都合がいいことに地下の探索時に岩塩が手に入った。 この岩塩を製塩して《塩》を手に入れてある。 さて塩というのは化学的に『塩化ナトリウム』という。 つまり《塩素》と《ナトリウム》の化合物だ。 この塩化ナトリウムを例によって電気分解して《水酸化ナトリウム》を手に入れる。 またの名を苛性ソーダというこの薬品を木材と混ぜて蒸気でふやかすと紙の原料となる《パルプ》が手に入る。 このパルプを例によって謎の製造装置でローラ―とかで押しつぶしながらロールペーパーを作る。 このロールを裁断していけば紙の出来上がり。


 ――ようするに塩を電気分解して『謎の薬品』を手に入れる。


 それを木材にぶっかけて『パルプ』を手に入れる。


 後は『紙を作る機械』でなんとか洋紙ができる。



 ◆ ◆ ◆



「工場長、ゴーレム達のメンテナンスが終わりました」


 あーでもないこーでもない、と考え事をしていたらアルタが呼びに来てくれた。


 やりたいことは決まった――紙の生産だ。


 こういう時は開口一番、先手を取るに限る。


「アルえも~ん、生産力が日当たり1トン級の製紙工場が欲しいな~」


「アルえはい? 紙ですか――そうですね。……紙の工場となると水が必要ですね。それでは運河近くに建設しに行きましょう」


 生産力1トン/日級の製紙工場をコンビニ行ってくる感覚で建設しようとするアルタさんステキです。


 ――って惚れ惚れしてる場合じゃない。


「まずは紙の生産に必要な《薬品》の精製から始めるので、小型の実験装置を作ろう」


「ふふ、実験装置ですね任せてください」


いつもの工場長


アルタ「工場長は体調がよくないので軽口を言わずちゃんと言うことを聞くように」


助手ゴーレム達「はーい」


ノーム「調子悪いんだ」

ストン「人間って調子が悪いとテンションが下がるんだよ」

ノーム「へー」



工場長「まずは小麦を採ってきてもらう」


ノーム(掘削かな?)


工場長「それを粉状にする」


ノーム(破砕かな?)


工場長「水と硫酸を入れて加熱する」


ノーム(よかったいつもの工場長だ)

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