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第1話 ぽよんぽよん

初代勇者により人類は橋頭堡となる“外縁都市”を手に入れました。

二代目“単独勇者”はたった一人で何十万と魔物が跋扈する魔大陸に潜ることができました。

彼の功績により魔物が異常に少ない“特定の条件”を発見することができました。

三代目“無念勇者”によりSランク以上の魔物の存在が確認されました。


四代目“簒奪勇者”は王国を裏切り王位を奪いました。

五代目“禿頭勇者”、六代目“肥満勇者”、七代目“童貞勇者”

八代目“影を這い偏在する蛇”と勇者たちによる内政と内戦が続きました。


最後に九代目“封印勇者”があらゆる秘術と儀式を封印して停滞期が訪れました。


――帝国の歴史~勇者の時代~

 

 我々はすべての産業の基礎である鉄と銅を手に入れるべく東の山脈の開発を続けた。


 しかし結果的には深刻な燃料不足に陥ってしまう。


 その問題解決のために南の石炭資源地帯を発見し、炭鉱を手中に収めた。


 順風満帆だと思っていた矢先に拠点として定めていた城塞都市が魔物に襲われているという急報を受け急ぎ都市へと舞い戻ることになった。



 そして我々がそこで見た物は――。



 ――ぽよん。 ぽよん。



「アルタさん、アレはなんだい?」


「あれは――スライムですね」



 スライム――死んだ魔物の体内にあった魔石が肉体を求めて出来た液状魔法生物。 あるいは古代の錬金術師が密かに作り上げたゴーレムに替わる兵器。 または異界の神々の使い達――その成れの果て。 様々な説が存在するが何が真実なのか現時点で知る者はいない。 唯一ハッキリしていることは核となる魔石が弱点ということだけである。



 端的に言い表すのなら『ぽよんぽよん』である。


 ゼラチン質の……巨大なゼリー?


 スライムの見た目はアメーバを起源としたドロっとした感じの魔物とは違う。


 どちらかというと某ゲームのような丸っとしたスライムだ。


 目と口を足せばまさしくアレだ。


 体積にして1立法メートルぐらいだろうか。


 仮に水と同じ比重なら約1トンになる。


 よろしい”1トンスライム”と名付けよう。


 もしかしたら異世界の単位体系はスライムが基準かもしれない。


 1スラトン、2スラトン――おお! ついにこの世界の単位基準を見つけることができた。


「――違います」


「やっぱり違うか」


「はい違います。そもそも不純物の多いスライムを基準にするのはナンセンスです」


 言われてみればそれもそうだな。



 奴らはどこから現れたのか城壁の中側に湧いてきて、瞬く間に占拠されてしまった。


 少し危険なので城壁の上からスライムを観察している。


 数は不明だが……ひふうみ……目視できる範囲でも100体以上はいそうだ。


「5000体のスケルトンに比べると何とかなりそうな気がするな」


「それなのですが……スライムはインベントリやチェストに収納できません」


「え!? そうなの?」


「はい、ですのでゴーレムとは別の魔法生物という区分でした」


 破砕機あるいはミキサーでお手軽スライム退治ができると思ったんだけどダメみたいだ。


 しょうがないからもう望遠鏡を片手に少し観察してみる。



 城壁の下で動き回るスライムは防衛用ゴーレムとの戦いでスゴイことになっている。


 それは――。


「――すごい針山だな」


「ホントですね。これがスライムの厄介なところでもあります」


 それは連弩の矢が大量に刺さってハリネズミと化しているのである。


 他には今後のために用意していたスパナやドライバーが突き刺さってるのや、いまは使っていない鉄の槍のバージョンもある。


 変わり種としては実験器具やフラスコが刺さっているのもいる。


 あ、あっちにはツルハシが突き刺さってるのもいる。


 何にしても物理的な道具や武器は全部吸収して周りに張り付いてしまうようだ。


「工場長見てください。動く岩みたいになってます」


「うわー。なんか触ったら自爆しそうだなー」


「ばくはつ! ばくはつ!」と興奮気味になるメット改めノームゴーレム。


 どうして子供は爆発が好きなんだろう?


 いやいやそれよりも――。


「――まずは一体生け捕りにして対策を考えるか」


「そうですね。どうやら集団行動は無いみたいです。これなら何とかなるでしょう」




 ◆ ◆ ◆




 昔の人が『言うは易く行うは難し』と言うようにスライムの捕獲は苦労した。


 というのも――。


 捕まえようとすると逆にゴーレムが吸収されて手の生えた土みたいになる。


 檻に閉じ込めても間からヌルっとすり抜ける。


 しまいにはスキルを使って反撃をしてくる。


 ――と、困難を極めた。



 そう、なんとスライム共は《スキル》を持っていたのだ。


 それもランダムなのかイマイチ統一感がない。


 見た目はすべて一緒なのに炎を放つ奴や、移動が速い奴などバリエーションは豊富だ。


 そこで攻撃を受けると動かなくなるスライムに的を絞って捕獲することにした。


 たぶん『まるくなる』という技を使って防御力を一段階上げているのだろう。


 プルンプルンのゼラチン質が少しだけ弾力を増している。


 まあ、つまり適度に攻撃し続ければ檻から出てこないということだ。


「なんとか一体確保できたな」


「そうですね。しかし、これではすべて退治するのにかなりの時間を要します」


「うーん」


 ゼラチンというのはいわゆるゼリーの原料だ。 高分子という酸素と水素と炭素が謎のひも状に繋がった物質。 これが網目状あるいは――それこそ檻のようなイメージのモノに水がぽよんぽよんするぐらい入っている。 だから一般的には中身はほぼ水ってことになる。


 だがここは異世界で魔法ありの世界。


 本当に水なのかも疑わしい。


 では水ということを証明することから始めよう。


「――という事で化学反応の名の下にとりあえず硫酸銅でもかけてみるか」


「わかりました。すぐに用意しますね」


 懐かしの蒼きカルカンサイトは銅鉱山で手に入るヤベー奴だ。


 これを熱すると水分が蒸発して青から白に変わる。


 高校の化学実験ではお馴染みの硫酸銅(Ⅱ)ってやつになる。


 この白いヤバい粉は水に反応して青色になる。


 つまりスライムの一部を切り取ってに硫酸銅を振りかける。


 そして青になれば液体の正体はただの水だと証明できるわけだ。


 化学実験というのはこういう地味な実験の繰り返しなる。


 そして「青になりました!」とアイアンが報告してきた。


 これでこのスライムたちは謎の魔法によってぽよんぽよんしてるんじゃなくて、水でぽよんぽよんしていることになる。


 オーケー。

 

 そうなるとただのゼラチンならコイツの退治の仕方はおおよそ見当がつく。


 簡単な話――高分子と言う謎のひもを化学的にブツ切りにすればいい。


「まずは熱化学反応の名の下に火あぶりしてくれる」


「ふふ、いつもの事ですね」

「いつものー」

「ハッ! お任せください!」


 松明を使い火であぶったところ予想通り溶けてくれた。


 だが今後もスライムとの攻防を考えると火以外の弱点を見つけないといけない。


 なにせ工場というのは【火気厳禁】だ。


 大事だからもう一度言おう。


「工場は火気厳禁だ。だから火以外の弱点も見つけないといけない」


「確かにそうですね。それでは次は薬品ですか?」


「そうだね。いろいろ試してスライムを簡単に処理できる薬品を開発しよう」



 ◆ ◆ ◆



 いろいろ試していたら結構な時間が経ってしまった。


 それでも手持ちの薬品や溶剤をうまく使ってスライムを倒す武器その名も『スライムころり』を開発した。


「全軍! 進め! スライムを殲滅せよ!」


 今はアイアンを主体としたゴーレム部隊がスライムを一掃している。


 薬品は貴重だから外にいるスライムは松明と油で炙りながら倒している。


「攻撃スキル持ちのスライムはアイアンの盾で防ぎながら包囲してなんとか倒せています」


 そんな報告を聞いて安堵した。


「よかった。強力なスキル持ちがいたらどうしようかと思っていた」


「はい、そこまで強くなくてよかったです」


 今の所は1000体に膨れ上がったゴーレム達の数で押せている。


 スライムが火に弱いという古典的なモンスターでよかった。


 しかし突然湧いてきたということはどこかに巣でもあるのだろうか?


「工場長! 報告です! 地上のスライムは倒しました!」


「そいつは吉報だ!」


「ハッ! それから湧き出てきた地下への入口を発見しました!」


「地下道……?」


「そう言えば下水道があるというのは聞いたことがあるような……」


 あるんだ下水道。


 まあ古代エジプトやローマにもあったし不思議ではないな。


 そう言えば滅亡していたから何もないと断じて都市の探索は表面上しかしていなかったな。


 もしかすると地下にスライムの巣があるかもしれない。


「アイアン。スライムは地下にいそうか?」


「ハッ! まだまだいると思われます!」


「工場長、未管理の地下空間があるのなら補強工事も必要ですし、一度調べましょう」


 基礎が不明な状態で工場都市を作ることはできないな。


「よし、それじゃあ地下ダンジョンの探索だ!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 50話突破おめでとうございます! [一言] 粘菌状のヤバいタイプのスライムじゃなくて良かった なんでも飲み込んで保持してくれる液体とか、 ph指示薬とか石灰なんかの何かしら薬品飲ませてセン…
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