幕間 ファーストコンタクト
お昼のニュースです。
先月から行方不明の***** ******さんの件に関して続報です。
先月深夜に暴れまわっていると近所の住人から通報がありました。
そこに駆け付けた警察官に対して意味不明な言動と共に暴行に及びその場で現行犯逮捕されました。
その後自宅を捜査したところ行方不明になっている***** ******さんの個人情報を大量に所持していることがわかりました。
警察では***** ******さん行方不明事件との関連があるのか、洗い出しを急いでいます。
次のニュースです。
先日発生した労働デモからドミノ的に起きたクーデター事件に関して続報です。
強制接収したわが国の工場に関して正当性を示す資料として――。
その資料によると現政権との癒着が――。
この件に関して鳥頭首相は――――。
――ある日のどこかの世界のニュース
憂鬱だ、ああ憂鬱だ、ここどこだ?
気が付いたら石畳みの部屋。
誰もいない。
持ち物はスマホと財布。
あとはマグネシウムを少々。
そもそもここはどこだ?
大きな建物ぽいからレジャーランドの施設?
まあいい。
周囲を散策していればそのうち誰か遭うだろう。
◆ ◆ ◆
建物というよりお城だと認識し窓から外を見る。
その景色から日本ではないと気が付いた。
何だあれは――あんな山脈は見たことがない。
まさかどこか海外に来てしまったのだろうか?
不安になり早歩きで――そして駆け足になり城内を移動する。
そしてついに動く気配に気づく。
人影を見つけて近づくと――。
「!”#$%&」
何だあれは?
何なんだ一体!?
動く木の人形?
しかも掃除をしている。
とにかく見つからないように外へ出よう。
気が付いたら異世界でした――こんな小説みたいなことが実際に起きたら100歩譲ればすんなり受け入れてもいいかもしれない。
けどそういう時は王様とか水先案内人がいて手取り足取り教えてくれるもんじゃないのかな?
「ホントここどこだよ?」
今は見張り塔というのだろうか――石造りの円形の塔の上にいる。
とにかく何が起きたのか知りたくて周囲を見渡している。
どうやらここは城塞都市のようだ。
完全に壁に囲まれている。
そしてどう見ても廃墟だ――つまり滅亡している。
人の気配というか動きがない。
遠くには巨大な山脈が長々と連なっている。
後は城壁の外は見渡す限り大森林となっている。
山脈とは反対側には大湖だろうか――海ではなさそうだ。
とにかく自然味溢れるすばらしいところにいる。
……どうする?
こういう時はどうするのが一番いいのだろうか?
『ガサガサ』そんな感じの物音がした。
――ッ!?
しまった!?
こんな目立つ塔のてっぺんをウロウロしていたら見つけてくださいと言ってるようなものだ。
振り向きざまに握りこぶしを作り臨戦態勢になる。
物音がした方を向くと――。
……ウネウネ。
土かな?
おお、ファンタジーな土くれのモンスターだ。
そんな気がする。
ウネウネしながらも恐る恐るこっちを見ている。
どうする?
どうすればいい?
まずはコミュニケーションをとってみるか。
ファーストコンタクトをミスったら終わりだ。
しかし言語も文化も専門じゃない。
仕方がないから思い付きを実践するのみ。
まずはコマンド『手を振る』をしてみる。
知性があるならば程度の差はあれ身振りで理解できる。
無反応あるいは威嚇してきたら『逃げる!』のコマンドを実行だ。
――ん?
おお!!
土くれから手みたいなのが生えてきて手を振り返してきた!
――ちょっと感動。
よし、次だ――言葉による挨拶。
言う言葉は『こんにちは』または『はじめまして』。
いや違うな、どちらも発音が難しい。
ならば…………『ハロー』だ。 古典こそ最良手。
「は、はろー」
…………。
…………。
「…………!”#$%&’()=」
ダメだー。 全然わっかんねー。
挫折だ。 無理だ。
ここから発音わかんない言語を理解して意思疎通するとかムリゲーだよ。
わかりやすい挫折のポーズをしていると、肩にそっと手を掛けてくれる土くれ。
「もしかして励ましてくれるのか?」
知性があるだけじゃなくいい奴かもしれない。
そう思っていたら突然、土くれが発光しだした。
――そして。
「はろ~」と謎の岩石生命体が発音した。
◆ ◆ ◆
――それから数時間。
『ハロ~』と発音した謎の砂人と会話を試みた結果わかったことがある。
異世界ではお約束の《言語理解》のスキルをなんと持っていたのだ。
そう先ほどファーストコンタクトをとった土くれがスキル持ちだった。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。えーと――」
ジェスチャーで自身の体を指さして「名前は――」と言ったところで遮られた。
「名前・ダメ!・真名・知る・危険・呪い・大変?」と土くれが理解できた言語で答えてくれる。
えーと、言いたいことは何となくわかる。
つまるところ本名を知ると、相手に呪いを掛けることができるのだろう。
この考えは古代の原始的な価値観かと言うとそうでもない。
たしか江戸時代までは広く信じられていたらしい。
それこそ小説では陰陽師の呪いから西遊記のヒョウタン。
最近なら温泉の魔女が名前を奪うとかが有名かな。
さてそういった迷信は信じない方だが、ここは異世界でファンタジーゴーレムが忠告したのなら真摯に受け止めるべきだ。
そして、いま重要なのは相手の信頼を勝ち取ることだ。
せっかく忠告してくれたのに迷信だと無下にする、それで信用を勝ち取れるのだろうか?
答えはノーだ。
――――
――
――ということで互いに適当な偽名での自己紹介をすませた。
そしてこの土くれは自らを『アルタ』と名乗った。
アルタが言うには言語理解というスキルは一を知れば万を理解する超言語翻訳スキルではないらしい。
つまり膨大な対話を繰り返すことにより順次理解していく、というスキルだ。
だからスムーズな対話が出来るまでそれはもう会話を続けるしかなかった。
しかし、人の体というのは正直者だからいつまでもお喋りを許してはくれなかった。
つまり『ぐ~~』と気持ちのいいぐらい大きな腹の虫が鳴き対話は唐突に終わりを告げたのだ。
しまった――食糧について何も考えていなかった。
「食べ物・探すの・手伝います」と賢き砂人が言ってくれた。
「そいつは助かるよ!」
話によるとこの城には食糧はないらしい。
そういうことで城の外に出ることになった。
土くれのアルタの案内で城内を右へ左へ移動していると、どこからともなく木や石そして砂の人形たちが合流してきた。
「アルタ君、この人形たちは何なんだ?」
「……ゴーレム? 私が・作った・安全かな?」
「!“-#$」
何を言ってるのか判らないが「わーい」とか「やっほー」って言ってる気がする。
安全ならまあいいや。
その後はずっと食糧集めに奔走することになった。
うれしいことに古代人たちが育てていた作物が野生化して残っていた。
たぶん周囲を囲む城壁が外来種の侵食を防いでいたのだろう。
けれど虫にかじられて、見た目は最悪だ。
あとはどう見ても雑草あるいはゴボウのようなのだが食べられそうな気がする。
だんだん日が暮れてきている。
最初より寒さが増している。
そうだたき火をしないと――。
わざわざ木を擦って摩擦熱が自然発火点を越えるまで試行錯誤する。
なんてやる気のなくなることをしないためにある物を使う。
あっちの世界から持ってきた数少ない物の一つ《メタルマッチ》だ。
これはアウトドアで使う金属製の火打石みたいなものになる。
見た目はただの金属の棒で材質はマグネシウム。
――あれは今でも忘れない大震災の日。
オール電化だった我が家は長期間の停電で満足に火を点ける事すらできないという苦い経験をした。
あれは本当に最低最悪。
そこでいついかなる時も火が起こせるようにマッチかライターを持ち歩くことにした。
ところが海外出張のときに使う航空機はマッチ・ライター持ち込み禁止となっていた。
色々調べた結果このメタルマッチは持ち込み制限の対象外だということがわかった。
そんなこんなで過去の改善活動が巡り巡って現在のサバイバル活動に生きたわけだ。
落ちていた木枝と枯葉そして財布の中にあった謎の紙。
手に入れた野菜を木の棒に串刺しにしてゆっくり焼く。
――――。
……まあ、まずいね。
いきなりサバイバル生活――むしろ原始人だな。
アルタはお供のゴーレムを連れて、いつの間にかどこかへ行ってしまった。
薄暗くなった廃墟に一人きりだ。
…………。
――パチッパチッ。
果たして元の世界に帰ることはできるのだろうか?
…………。
帰りたいのか?
謎のストーカーからの追撃を避けながらテロと暴力が支配する海外へ技術支援……。
あるいは田舎に引っ越して謎のストーカーから逃げながらセカンドライフ……。
うんん??
…………。
よし、いったん止めよう。
帰るとか帰らないとかは《衣食住》の確保と《文明社会へ復帰》してからだ。
まずは事情に詳しそうなアルタから出来る限り情報を手に入れなければいけない。
だからとにかく会話するしかない。
ちょうど戻ってきたようだ。
どうやって捕まえたのか手には川魚を持っている。
ゴーレム達も燃料となる薪を抱えている。
とてもありがたいことだ。
まずは情報だ。
全てはそれからだ。
第三章15話、16話を改稿しました。




