第16話 急報《一部改稿》
『兄者! 輸送問題を解決するために鉄道を作るべきだ! オラオラオラ!!』
『馬鹿か弟者! なんで鉄を作るために鉄を消費するんだよ! クソがぁ!!』
『暴力は止めて二人とも落ち着いてください。実は私の故郷である遠い異国の地では――』
『お前は黙ってろ!』
『てめーはすっこんでろ!』
――双子のドワーフ炭鉱責任者と異世界人
爆発事故の調査と言ってもおおよそ爆発の原因は判っている。
石炭の主成分は主に炭素であり、酸素と水素を内包している。
乾留するとこれらの化合物がガスとして出てくる。
つまり貯蔵槽には発熱した石炭があり、乾留が起きて可燃爆発性のガスが発生――充満した。
それだけでは爆発しない。
疑似的に炭化室と同じ状態になったようなものだからだ。
投入口の扉が開いた時に酸素が混ざり、発熱した石炭が火種となり爆発した。
これで大体の爆発プロセスが成り立つ。
では次に『なぜ石炭が発熱していたか?』だ。
そこで新しい実験として複数の石炭を加熱して自然冷却するのかを調べている。
内容は単純で密閉した容器の中に加熱した石炭を入れて放置している。
あとは外から温度計を使って経緯を見守っている。
そうして数十時間は経過した。
「この石炭が犯人か……」
「石炭というよりも圧縮ローラーで加工した粉末石炭が問題ですね」
普通の石炭は熱風による乾燥で多少は熱を持つが、容器で密閉すると酸素が供給されないので徐々に温度が下がっている。
しかしこの圧縮した石炭は蓄熱して温度が低下しなかったのだ。
「ローラー圧縮した石炭が発熱し続けて、周りの石炭を乾留し可燃ガスが充満したということか」
「はい、そのようですね。ただし工場を一時停止しなければ問題にならなかった可能性が高いです」
つまり坑道ガス爆発で全工程を停止したから起きた事故になる。
コークス炉が動き続けていたら起きなかった。
これは工場の事故でよくあることだ。
工場爆発事故――人為的なミスから設備の老朽化まで原因は多岐にわたる。 しかし爆発事故は常に稼働することが前提の工場が緊急停止したとき、あるいは保守点検のために一時停止したときにガスが一か所に溜まって起きることが多い。 これは止まらない事が前提の近代工場における死角である。
例えば日本の製鉄所に併設されているコークス炉でも修繕のために数日間石炭を放置した結果一酸化炭素ガスが充満し、再稼働して酸素が混入した直後に爆発事故が起きている。 言っていることは簡単であるが実際に事故を防止するには電子制御・各種センサー・プログラミングと他業種の先端技術が発展するまで待つ必要があった。
――今回の爆発によって多少の損害はあった。
しかし深刻な被害と言うほどではない。
なにせ生産の初期段階だからだ。
むしろ順調に毎日掘って毎日コークス炉に投入していたら気付くことはなかった。
もし気付かずに大規模工場を稼働していたら取り返しがつかない事態にもなりえた。
全工場緊急停止したらその瞬間にあらゆる設備が爆発していたかもしれない。
……おぉ考えただけでも恐ろしいぞ。
だがこれら恐ろしい未来を回避するための手段はある。
多少の爆発でへこむほど技術者という人種はやわではない。
問題が解ったら次は改善だ。
「それじゃあ改善作業に入る」
「ええ、任せてください」
◆ ◆ ◆
まずは爆発事故を起こした貯蓄槽の改善作業だ。
「保管倉庫には熱電対温度計を設置する」
「水銀ではないのですね」と疑問に思うアルタ。
「爆発が起きた場所に水銀は設置したくないからね」
「なるほど、たしかに有毒な物質は使いたくないですね」
他にはゴーレム達が毎日温度を測定する――そしてそれができるように測定器も改良した。
ガスが溜まるのなら換気をすればいいじゃないという案も出た。
しかし検討した末に設置しないという結論になった。
ガスを排出できるということはどこかの隙間から酸素が供給される可能性が高い。
発熱した石炭に常に酸素を供給すると自然発火の危険性がある。
このような事態を防ぐために本来なら不活性化ガスである窒素ガスで満たすという手がある。
しかし今の技術力では窒素は手に入らない。
そこで次善の策として倉庫の2階に貯水タンクを設置することにした。
つまりスプリンクラーである。
異常時には放水して消火するのが一番だろう。
「はい工場長! チェストで保管はダメなのー?」とメットが質問してきた。
異世界らしいすばらしい案ではある。
けどその案には問題がある。
「このまま生産量が増えていくと千から一万トン単位の可燃性資源を扱うことになる。それだとアルタがチェストを永遠に作り続けるはめになるよ」
「ああ~」と納得のメット。
「さすがに身動きが取れなくなるのは辛いですね」
そろそろチェストに何でもツッコめば解決!
そういうお手軽問題解決の段階を越えて来る。
現にアルタの作業内容が設備の改善とスケルトンコアから新規ゴーレムを作るので手いっぱいだったりする。
そして今あるチェストはほぼすべて出来上がったコークスの入れ物と化している。
これを鉄鉱山に送って高炉の燃料輸送に使う。
そのせいで中間資源である石炭の保管に使う余裕がない。
いわゆる魔道具を量産する方法があればいいんだけど――そっちは専門外だ。
だがそれでも問題はない。
そもそもチェストがない世界ではそれが普通だ。
物量と輸送問題は現実と同じ手段で解決すればいい。
例えば蒸気鉄道とか――蒸気トラックとか。
そして大規模な物流センター。
いいね!
スチームパンクの世界を一から作るなんてワクワクするじゃないか!
それにはもっと技術力を上げて手札となるテクノロジーを増やしていくしかない。
こんな感じで応急処置ではあるが細かな問題の対策をいくつも検討して改善していった。
そして炭鉱開発の一番の問題を解決する必要が出てきた。
◆ ◆ ◆
「コークス炉の引っ越しですか?」
「ああそうだ。石炭の選鉱から炉までの工程には爆発する要因が潜んでいる。だから引火性の石炭層から都市の内側に移転を考えている」
「なるほど確かにその方がリスク管理をしやすいですね」
もともとコークス炉をここに立てたのは実証試験のためだ。
実験の度に街まで戻っていたら時間がかかる。
だからここで稼働させることにした。
「そしてその時には鉄鉱山、銅鉱山含めて散らばっているすべての溶鉱炉もこの始まりの街いや《工場都市》に集中させる」
「工場都市ですか……。あの滅んだ都市が――生まれ変わるのですね」
あの都市で育ったアルタに「嫌か?」と尋ねてみた。
自らの街が重工業の鉄とサビの工場群になるのだから意思を確認しておかないといけない。
「むしろ変わったほうがいいです。廃墟を愛でるほど私たちには余裕がありませんから」
その通りだと思った。
順調に開発が進んでいるが別に我々に余裕が出来たわけではない。
今は効率を重視してできる事を進めるのみだ。
その新しい計画とは――。
資源地点は採掘に集中する。
鉱物の精練と金属の加工は都市で行う。
化学工場も決められた区画で行う。
まあ大雑把に言うと区画分けしてうまく開発していこうってことだ。
そして各拠点を隊商がつなぐ。
つまり複数の隊商が輸送に従事して、供給網を構築するのがいいだろう。
ちょうどアイアンゴーレムという指揮ができるゴーレムもいる。
鉄道ができるまで人力輸送で対応するということだ。
あとは――。
その時、外から『カンカンカーン』という鐘の音が鳴り響いた。
「あれはゴーレム達か?」
「そのようですね――アレは都市防衛のために残した防衛用のゴーレムですね」
そう言いながら四次元インベントリから望遠鏡を出して確認する錬金術師。
待って、いつの間にそんないい物を作ってたの?
ちょっと欲しいな。
「工場長―! 大変ですー!」
「なにがあったんだ?」
「街が魔物に襲われましたー」
「なんだって!?」
これから工場都市を作ろうという矢先に建設予定地が魔物に襲われただと!
「冗談じゃないぞ!」
「こ、工場長! すぐに戻る準備を始めます!」
アルタも相当焦っているようだ。
ここでの開発はちょうどひと段落したところだ。
こっちは問題ないだろう。
だから久しぶりに戻ることになる。
そう《始まりの街》へ約一ヵ月ぶりに帰るのだ。
石炭の時代 完。
次回 紙の時代
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