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第14話 熱電対温度計

そうだな知識と技術の違いが分かるか?


知識ってのはリモコンの使い方が分かることだ。

知っていれば俺にだって教えられる。


技術ってのはリモコンをゼロから作ることだ。

それはいろんな業界の技術者という連中にしかわからない。


解るか? 材質から製造方法まで全部知っているなんて無理だ。

もしそれができる奴がいたら――そいつは狂人の部類だ。

きっと俺たちでは理解できない感性と頭脳の持ち主に違いない。


俺たちにできるとしたら精々ボードゲームのルールを教えることぐらいだ。


――知識と技術

 

 いえーい!


 なんとハチミツが手に入った!!


 はぁ~甘くてウマウマや~。


 それに魚もおいしい。 最高だ!


 野菜は……まあねぇ……。




「ふぅ~ご馳走様……ちょっと涙が出てきた」


 さて感傷に浸っていては時間だけが過ぎてしまう。


 食事も済んだことだし残りの開発をチャッチャと終わらせるべきだろう。


「工場長! 石炭加工で問題が起きています!」


 そう言いながら生産現場で監督をしているアイアンゴーレムがやってきた。


「さっそく問題がやってきたな」


 どうやら炭鉱の加工プロセスで問題があったようだ。




 石炭は掘削した後に《浮遊選鉱》という工程を経て石炭と土砂を分離する。


 これは石炭が疎水性で土砂が親水性という性質を利用している。


 すばらしいことにこの工程で細かすぎる粉末状の石炭も回収することができた。


 ところがそのままコークス炉に投入してもガスと一緒にあっちこっちに飛んでいってしまう。


 銅管パイプがあっちへこっちへ繋がったごちゃごちゃ設計なんだから仕方がない。


 そう言うわけで加工時の粉末が山の様に溜まっている。


 まったく用途を考えていなかった。


 これをどうにかしなければいけない。


「浮遊選鉱の次の工程で乾燥させるために熱風に晒す。この時に粉末を1カ所に集めて自動で圧縮できるようにしよう」


 掘り出した石炭は水分が多いので一度乾燥させなければいけない。


 そこで熱風をブロスから送って水分を飛ばす。


 この時に粉末を一緒にパイプを通して隣の設備に送る。


 この設備に粉が溜まるようにする。


 そしたらお次はローラーで粉を固める。


 ちょうど小麦粉をローラーで一塊にするのと同じだ。


 できた塊を粗破砕で小石ぐらいにする。


 後は他の石炭と一緒で問題ないだろう。


「なるほど新しい設備を建てればいいのですね」


「そういうことだ」


 よーし、これで扱いやすくなるだろう。



 ◆ ◆ ◆



 アルタには粉末の再加工設備を作ってもらっている。


 その間に《電気計測器》の設計を済ませてしまう。


 中学理科の実験で使った『謎の電流計』はまるでオモチャみたいな簡単な造りだった。


 オモチャみたいって事は中身がそこまで複雑じゃないという事になる。


 それじゃあ電気計測器をどうやって作るのか?




 では考えてみよう――。


 電池を繋げると、《謎の反応》が起きて、針が動き、電圧が○○Vになる。


 オーケーつまり《謎の反応》が判ればいいってことだ。


 電子部品というのは原理が簡単な部品であり、電化製品というのはその部品の集合体だ。


 だから一つ一つ要素を分解して考えればいい。


 言ってしまえば基本となる原理さえ覚えていれば後は推論と組み合わせ少々の発想の転換で作れたりする。



 例えば――。


 抵抗ってのは電気が流れた時に足を引っ張って流れを悪くするための部品だ。


 他にはコイルってのは電気が流れたときに《でんじほう》を放ってくれる部品だ。


 それから磁石ってのは磁力に反発するかくっ付くかする《ツンデレ》だ。


 そうなると《謎の反応》というのは――。


 測定器に電流が流れた時にコイルに磁力が発生する。


 この磁力で近くにある磁石が反発する。


 反発した磁石には針が付いている。


 電流が一定なら針が一定の値を示して、その場で動かなくなる。


 電流が止まるとバネで元に一に戻る。



 つまり電気と機械のコラボレーションや!



 そう考えると電圧計は電流計とほとんど一緒になる。


 違いは――。


 『抵抗を並列に接続したときに並列接続の計算式から電圧を求める』


 ――ぐらいのしかない。


 オーケーできそうだ。


 後は実際に作るだけだね。


「工場長、微粉石炭の加工施設が動きました。次はどうしましょうか?」


「よし、それじゃあ測定器を作ろう」



 ◆ ◆ ◆



 結局のところ原理が分かって構造が分かっていたら後は組み立てるだけなので、何ら苦も無く完成させることができた。


 いえーい楽勝だったぜ。


 ……もちろんただの強がりだ。


 実際は水銀抵抗が機能する温度0℃を再現するために全面氷張りの氷室を作ったり――。


 ウェストン標準電池が20℃で1.018Vの起電力だから100個用意して101.8Vを作ったり――。


 そもそも99個なら100.8Vでより100Vに近いんじゃね? ってなったり――。


 二つの使用温度が0℃と20℃と違い過ぎるから二つの温度域の部屋を隣に用意したり――。


 まあごちゃごちゃと地味な作業と大胆な改善案の連続だった。


 これだけでプロフェッショナルなドラマができるんじゃないかってぐらい濃い作業の連続だった。


 そして毎度毎度0℃の氷室で測定するなんてナンセンス!


 そこで測定器と標準装置そしてオームの法則を駆使して標準抵抗と同じ抵抗値の炭素抵抗を開発した。


 そしたら次にそれを10個用意して10オームそれから1000個分である1kオームと抵抗値を上げていった。


 あとは水銀抵抗を普通の抵抗に換えていって出来上がり。


 水銀の時代は終わりだ!


 ふ~疲れた~。



「だがこれはまだ序盤でしかない」


「次はたしか熱電対というのを作るのですね」


「そうやっと熱電対の時代だ」


 これで近代的な温度測定ができるようになる。


「さて、熱電対の材料は種類によりまちまちだがニッケル、クロム、金、プラチナあたりの組み合わせて作る」


「では錬金術の出番ですね。お任せてください」とドヤっと言ってきた。



 熱電対――異なる材質の金属線を二つ用意し、両端を接続することで閉じた回路を作る。 この回路の両端に温度差ができると電圧が発生する。 この現象を利用して電圧を測定することで間接的に対象の温度を測ることができる。 この時、確実な基準点と測定点で温度差を作り出すために基準接点を0℃にしないといけない。 つまり氷に漬けるのである。 しかし実際の工業用で常に基準接点を氷漬けにすることは困難であり、補償導線で距離を伸ばして専用の計測器で測定する。



 ――つまるところ熱電対から計測器までを一つにまとめた謎の熱電対温度計を開発するってことだ。


 まあ、何とかなるだろう。


「それではニッケルを手に入れるにはどうすればいいかな?」


「鉄鉱石を掘削!」

「違うよ。銅鉱石を掘削!」

「そんなわけないだろ。辰砂を掘削!」

「ハッ! 石炭の掘削であります!」


 とそれぞれ知っている鉱物 + 掘削という感じで答えていく。


 うちのゴーレム達はずいぶん毒されてきてるな。


 アルタお母さんにいたっては『あらあら、うふふ』とか言ってトンチンカンゴーレムを愛で始めてるし。


「残念、掘削するのは蛇紋岩だ」


「そっちかー」と残念がるジェスチャーを始めるゴーレムズ。


 ニッケル鉱石というのは主に蛇紋岩に脈状に形成する薄い緑がかった鉱物だ。


 産出量が少なすぎるから《錬金術》という最強の分離スキルで取り出す。


 というよりもう取り出してある。


「さてお次はクロムだ。クロムを取り出すにはどうすればいいかな?」


「じゃもんがん!」と即座に答えるゴーレム達。



「……君たちは覚えた単語をとにかく使いたい小学生か?」



 ふ~やれやれ。













「正解だーーーー!!!」と叫びながらズビシっと指をさす。


 そしてゴーレムが「やったー」と大はしゃぎして、アルタさんはこのやりとりを見守っている。


 さてクロム鉄鉱という鉱物は蛇紋岩の内部で塊状鉱床として産出する鉱物だ。


 同じく産出量が少ないからやっぱり錬金術送りだ。


 つまり取り出してある。


「さて最後に金とプラチナを手に入れるにはどうすればいいかな?」


「蛇紋岩――――!!!!」


「……残念不正解、正解は陽極泥だ」


「だ、騙された……」とガッカリするゴーレム達その後はやっぱり知ってる鉱物を連呼する始末。


「うふふ、銅の電解精錬の時にできるアレですね」と助け舟を出すアルタさん。


「イエス、その通り。答えは陽極泥になる」


 陽極泥は試験勉強的には銀や金などの金属という事になるが、実際にはプラチナ、パラジウム、セレンなどのレアメタルも含まれる。


 オーケーつまり材料はそろっている。


 後は異なる二つの金属を合体させて最強にすればいい。


「それじゃあこの即席対応表の熱電対を作っていってもらえる」


 そう言って熱電対に必要な二つの金属表を渡した。


「はい、わかりました。任せてください」そう言って対応表を見ながら錬成していく。



 ◆ ◆ ◆



 結局、あれから丸一日開発と検証に時間がとられた。


 楽勝とはいかないがなんとか熱電対を作ることができた。


 もっとも苦労したのは熱電対の温度電圧表を作る事だった。


 なにせ温度によって電圧が変わるという熱電対の性質は厄介だ。


 それはつまり0~1000℃まで順番に調べなければいけない。


 水銀温度計によって300℃ぐらいまでなら何とかなった。


 それ以降は、例えば銅の溶ける温度である1000℃とかとても大雑把になる。


 それに熱電対は溶鉱炉の中に放り込んでいい物ではない。


 そんなことをしたら溶けてなくなってしまう。


 だから外側の耐熱レンガに薄壁ギリギリになる小さな穴を作って、そこに熱電対を入れて間接的に周囲温度を測る。


 若干の誤差はあるので何度も実験を繰り返すことで炉内温度測定のノウハウを蓄積していった。


「つ、疲れた……」


「お疲れ様です工場長。それでも温度管理がやっとできるようになりましたね」


「ああ、やっとだ」


「工場長は少し休んでいてください。こちらで次の準備をしておきます」


 お言葉に甘えて休むとしよう。


 この後することと言ったら夏だ海だ熱電対祭りだ。


 そういう感じでそこらじゅうに熱電対を取り付けまくる。


 まあ、なんとかなるだろう。


 鉄が手に入り、銅が手に入り、燃料問題も解決した。


 次の開発は何がいいだろう?



 例えば蒸気機関つまりスチームパンクっていうのもいいかもしれない。



 固形燃料になるから乗り物のエンジンとしては頼りない。


 だが、工業産業の発展には必要不可欠だ。


 これでやっと、なんちゃって水車の謎動力5馬力とおさらばできる。


 だがその前に解決しないといけないことがある。


 今回の実験で分かったことだが――。



 紙が無いと実験結果の記録が不可能に近い!



 そう、紙だ。 紙が無いんだ!!



 地面に書く、木板に書く、石板に書く。


 何にしても限界に近い。


 これから化学物質を大量に生成して燃料とかいろいろ研究しなきゃいけないんだぞ。


 必要最低限の開発は終わったことだし、更なる飛躍のためにも紙の量産をしよう。


 そしたら次に満を持して蒸気てのがいいかもしれない。


 そのためには――ん?


 アルタが何かの準備をしている。


 次の準備と言っていたが――次ってなんだ?


 おお、アレは懐かしの謎の儀式。


 …………いやまてよ。――う、頭が。


 なんか嫌な予感がする。



「あ、アルタさん。ちょっと――」



 その時、唐突に背後から爆発音が鳴り響いた。 ああ、やっぱりこうなってしまったかと思ってしまった。 そういえば今日の食事はまだとっていないなんてことを考えながらも爆発音がした方を向くことにした。


 どうやら坑道で爆発事故が起きたようだ。


ウッド{ ▯}「おや、時報かな?」


ストン「 ▯」「(あ、復活した)そうだね。この章も終わりが近いね」


ウッド{ ▯}「それにしても詰め込み過ぎじゃない?」


ストン「 ▯」「う~ん。とりあえず製造工程でも載せておく?」


製造工程


粗・石炭(浮遊選鉱) → 石炭 + 土砂


石炭(乾燥) → 石炭 + 微粉石炭


微粉石炭(圧縮) → DAPS炭(石炭)


石炭(乾留) → 固体:コークス + 気体:コークス炉ガス + 液体:コールタール


コールタール(蒸留) → フェノール + その他有機化合物(未登場)


コークス炉ガス(燃焼) → カリウム + カルシウム + マグネシウム + 排水 + ゲルマニウム + バナジウム

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