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第7話 アイアンゴーレム

鋼の肉体、強力な腕力、不滅の魂。


けどお高いんでしょ?


――鉄のゴーレム

 ぐっすりと寝たおかげで、とても気持ちのいい朝を迎えた。


 そしていつものように朝食を済ませる。


 次に野菜茶を飲みながら今日の方針を考えることにした。


 まず炭鉱関係は骨のせいで中止だ――こっちはアルタ達が対応している。


 そこで後のために水銀温度計を作ることにした。


 必要なのは水銀とガラスになる。


 その水銀はこの間採れた辰砂から手に入る。


 よろしいまずは水銀の生産からはじめよう。


「それでは辰砂から水銀を得るためにまずやることは何かな?」


「粉砕!」としゃべるメットが言う。


「その通り粉だ――粉々にしてから熱して水銀を取り出す」


 辰砂をそのまま熱してもいいが、それだと熱が鉱物の内部に届くまで時間がかかる。


 だからまずは粉砕して粉にする。


 そのための道具は一通りそろっている。


 なにせ本物の錬金術師様の実験道具が大量に置いてあるのだから。





「こ~ろ~こ~ろ~」


 そう言いながら助手ゴーレム達が辰砂を砕いていく。


「ゆっくりでいいから慎重にな……シュー」


 破砕機を使えば楽なんだけど、いろいろな装置に水銀が付着すると困るので作業場で慎重に砕いている。


 ハンマーを使うと生来の不器用性から飛び散るのでココは先人の知恵をお借りして江戸時代的道具を活用する。


 時代劇とかでヒゲを生やした医者がコロコロしている道具――薬研による粉末化だ。


 あとは“すり鉢”みたいなのもある。


 流石と言うべきか錬金道具はいろいろと揃っている。


「シュー……さて硫化水銀の粉末が手に入ったら次にすることは?」


「はい、燃やします」


「ちょっと違うが――まあそんなところだ。この粉を熱して水銀を蒸発させる」


 辰砂というのは約600℃で熱すると水銀蒸気というガスが発生する。


 気体になった水銀だ。


 この蒸気を理科の実験でおなじみ『水上置換』すると水に溶けない水銀が冷やされて分離して取り出せる。


 これで水銀が手に入る。


 実験でおなじみの三角フラスコみたいな容器に辰砂を入れる。


 そして火を点け下から炙り辰砂を熱する。


「よし、フシュ―、これを続けて、フシュ―、水銀をできるだけ、フシュ―、…………」


 水銀というのはとにかくあらゆる物質と化合する性質がある。


 その毒性はまさに『危険』の一言に尽きる。


 つまり水銀作業には防毒マスクが必須になる。


 だが都合のいいゴムのマスクなんて持っていない。


 この問題を解決するために前もって銅のフルフェイスのマスクを作り上げた。 視界を確保するために長方形の薄いマイカプレートをはめ込み、新鮮な空気を供給するために頭頂から銅管が天井まで伸びている。 そして天井から外に伸びて――フイゴによって銅管を通り常に新鮮な空気が供給される。 『シューシュー』と新鮮な空気が供給され、首元の隙間から外に出ていく。 なんちゃって与圧により有害なガスから肺を守っているのだ。 もちろんただの銅管では固定されて動けないのでグルグル巻きにした特別製だ。 ちょうど巻線のバネの方が真直ぐな鋼材より曲げに対して柔軟なのと同じように、螺旋状の銅管が緩やかに曲がりながら天井に伸びている。


 ――その見た目まさしく変人である。



 それでも安全のためとはいえ――。


「シューシュー鬱陶しいわ!」


「……それでしたら作業を諦めてください」


「うわっ!? アルタさんかビックリした」


「ふふ、途中経過の報告に参りました。さっ危険そうなので現場から離れましょう」


 粉砕から加熱まで結構時間が経っていたようだ。


 ゴーレムでも煮る焼くはできるし水銀が採れるまで時間がかかる。


 その間に報告を聞くとしよう。




「それで何かあったのか?」


「はい、こちらの新しいゴーレムなのですが――」


 そう言われて見ると目の前にアイアンゴーレムがいた。 そして。


「工場長殿、ご命令を!」


「んん? なんか他のゴーレムと雰囲気が違うような」


「はい、このゴーレムはコアを二つ使っています」


「え!? そんなことできたっけ?」


 今のゴーレム達はコブシぐらいの魔石で動いている。


 そのコアで人並みの知性を与えるためにかなり無理をしている。


 そのせいで知性は子供レベルだ。


 例外はアルタの特別製のコアのみだったはず。


 なんとかこの問題を解決しようと複数の魔石を合わせる――マルチタスク的なことができないか試してみた。


 だが結果は無理だった。


 どうやら磁石の同極のように反発してうまくいかないのだ。


 ちなみに魔物から採れた魔石を未加工で組み込むと野性味が溢れるのか体当たりしだしたり狂暴になる。


 だから一度ゴーレム用に加工して一体につき一つのコアで運用している。


「はい、どうやらスケルトンゴーレム由来の魔石はそもそもの系統が違うみたいで、うまくいきました」


「それはつまり――」


「はい、私たちに足りなかった戦闘用ゴーレムができたという事です」


「それはすごいじゃないか!」


「ふふ、そうおっしゃると思い急ぎ報告しに戻ってきました」


「それじゃあ、さっそく検証だ」



 ◆ ◆ ◆



 通常の作業にはストーンゴーレムを使用している。 そして畑など一部ではウッドゴーレムを使っている。 ありふれた材料を使っている理由は素体のコストがかからないからだ。 ゴーレム達は筋肉がないので基本的に大ぶりなアクションしかできない。 それが摩耗の原因となっている。 と言っても食材をナベに入れて、水を入れて、火を点けるぐらいならできる。 細かい調理ができないのだ。


 ――つまるところ知性が子供の不器用集団という事だ。


 現場では致命的な欠点ではあるが問題ない。



 さてこのコアを二つ使ったアイアンゴーレムはどうかと言うと――。


 まず最初に事務的な話になると質疑応答がしっかりできる。


 これはゴーレムとしては画期的だ。


 次に作業になるが――釘を打つときハンマーを片手で持ち、『とりゃあぁぁ!!』と叫びながら打ち込む。


 そしてクギが根元から曲がる。


 さらにレバー操作はアッパー。


 ツルハシでの掘削時は上段の構えからの振り落とし。


 つまるところ基本動作が戦闘用のそれである。


 あまりの損耗の激しさからストーンゴーレムの素体だとすぐに全身が割れる。


 ブロンズゴーレムだと柔らかすぎて曲がる。


 よって柔軟性と剛性のある鉄を使ったアイアンゴーレム以外の選択肢がない。


 戦闘に関しては優秀――ストーンゴーレム10体 VS アイアンゴーレム1体で完封勝利するぐらいつよい。


 ちなみにストーンゴーレムの集団は剣道部1年の高校生に負けるぐらいの強さだと思われる。


 なんでも人型ゴーレムは新兵の稽古相手と相場が決まっているそうな。


 改めて思うよ――弱いね。


 つまりまとめるとこういうことだ。


 どこかの錬金術師様が死者も兵士として使えるように戦闘プログラムみたいなのを入れたゴーレムを開発した。


 そのコアをこちらのゴーレムコアと連結してそれら戦闘を使えるようにした。


 つまりすべての問題を戦闘によって解決する脳筋ゴーレムが誕生したのだ。


 現場では深刻な欠陥であるが問題ない。


「まあ戦闘方面でなら活躍してくれるだろう」


「ええ、その方がいいと思います」


「ハイ! お任せください!」


 今までにないハッキリした口調から子供ぽさはなくなっている。


 ちょうど直感で動く右脳に論理の左脳がくっ付いたようなものだろうか。


「ところで炭鉱周辺の拠点化はどうなってるの?」


「そうですね――二日後には完成すると思います」


「そうか、水銀はすぐに手に入るだろうし、温度の基準となる氷を手に入れるためにあの山に行ってくるか」


「――! それでしたら私もいっしょに行きます!」


「え? それだと炭鉱の――」


「工場長、あなたの安全の方が何よりも優先されます。温度管理と氷もわかりますが命を優先してください」


「あ、ハイ……」


 まあ今さら拠点化が数日遅れても問題にならない。


 それよりもアルタさんと山までピクニックだ。


寝言


アルタ「工場長、新しい家ができましたよ」


工場長「むにゃむや……アルタ」


アルタ「はい、何ですか?」


工場長「いつもありがと……むにゃ」


アルタ「!!? ~~~~はわ」



ウッド{ ▯}「はいストップ! そう言う好感度イベントは本編でキッチリ詳細に濃厚に――」


ストン「 ▯」「開発に関係ないからね。しょうがないね」


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