第6話 スモールハウス ビフォーアフター
むかしむかしオークの三兄弟がいました。
貧欲な三男は藁で家を作りました。しかし藁を使い切りすぐに人間たちに見つかり燃やされました。
陽気な次男はオークの木で家を作りました。しかし森が禿げてこれも人間たちに見つかり燃やされました。
熱血な長男はレンガで家を作りました。この家を作るために人間たちを捕まえて岩山を削りました。
その家は“魔王城”と呼ばれ私達を守ってくれています。めでたしめでたし。
――魔王国のおとぎ話
スケルトンの襲撃から何時間経っただろうか?
もう空が明るくなってきたよ……。
あれだけ居た魔物の群れはそのすべてが破砕機で砕かれた。
あとにはカルシウム5トン分の山が残った――総勢5千体のスケルトンに襲われたってことだ。
「工場長、終わりました」
そして掘削作業に満足した相棒が佇んでいる。
「お疲れ。ふぁ……眠いからちょっと休憩するよ」
「……工場長、誠に申し上げにくいのですが、小屋はボロボロです……」
「おおぅ……けど寝ることはできるかな……もうフラフラ……」
「スケルトンの第二波が来る可能性もありますので、休息は山の上の中継拠点でお願いします」
「おぉ……ノォ……」
つまり仕事終わりの完徹後に軽く登山してから穴だらけのボロ小屋で寝ろと。
マジですか……。
アルタさんそれはちょっと鬼すぎませんか?
ブラック企業ですらそんなことはしないよ。
え? 一番安全な城塞都市まで帰らないだけマシだって?
いやいやいや……いやいや。
うん、そうだね。
それから足を踏み外さないようにアルタに手を引っ張ってもらいながらどうにかこうにか登山をした。
軽い徹夜ーズハイテンションになってアルタに対していろいろ言った気がするがあまり覚えていない。
森を抜けて拠点に着くとそのまま深い深い眠りに落ちた……。
◆ ◆ ◆
目が覚めるとそこは見覚えのない部屋の中だった。
「おはよーございます」
「おはようメット。どのぐらい寝てた?」
「今日寝てー今日起きましたよー」
そこまで時間は経ってないようだ。
確認のために外に出るとアルタがいた。
「おはようアルタさん」
「――ッ! お、おはようございます工場長。その、お体は大丈夫ですか?」
「ああ、おかげですっきりしたよ」
なんだろうアルタがさっきから挙動がおかしい気がする。
なんだかぎこちなく、クネクネと……。
まさか……今朝の徹夜ーズハイと高山の酸欠でフラフラしてるときになにか言ってしまったか。
セクハラ発言とかしてないよね。
「そ、それよりこの新しい家はどうしたんだい」
「はい、今後のことも考えて新しく作り直しました」
――なんということでしょう!
あのボロボロだった木のスモールハウスが、匠の技により立派なセーフティハウスに様変わりしました。
外側は赤レンガの頑丈な壁になり、中は温かみのあるパイン材のログハウス風仕立て、もちろん壁のレンガとパイン材の間には鉄と鉛板を忍ばせた対襲撃仕様。 屋根は木タールを染み込ませた木材と青銅合金を重ねたまさに鉄壁の守り。 窓は小さく鉄格子が嵌められ、ドアは開放感が全くない重厚で武骨な造りです。 屋根の上に逃れられるようにハシゴは室内に作られています。 屋根に場違いなフタがありますね。 これは潜水艦の例のフタみたいなガッチリした物になっています。 インベントリに入るように基礎は作らずに厚さ50㎝のコンクリートの土台の上に建てるという荒業はトレーラーで移動することが前提のスモールハウスの系譜と言えますね。
――母親の子を守りたいという愛情が質量となって表現された重量級の家です。
これなら子豚も狼から守れるでしょう。
「すごーい! めり込んでるー!」
「よし、今後立て籠もることも考えてハンマーやツルハシを壁に飾るのもいいかもしれないな」
「それはいい考えですね。しかし……炭鉱開発もあるので内装は後日でもよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない。それより現状と今後について打ち合わせをしよう」
「はい、それではまず最初に――」
――打ち合わせで主に決めたことはまずカルシウム――人骨をどうするか?
夜通し破砕機を動かしてカルシウム5トン分に変えることができた。
やまだね。やま。
リン酸カルシウムは畑の肥料として優秀だと思われる。
しかし科学至上主義とは言え元人骨を再利用する気はない。
あらゆる面でSAN値が下がり気味なのに食事にまで直葬要素を入れろと?
答えは却下だ!
だから過去の英霊として丁重に埋葬することにした。
これに関してはアルタも賛同してくれた。
――次に魔石について。
カルシウムゴーレムは魔石を核として動いていた。
ところがそのゴーレムコアは応用が利かないようだ。
アルタが習得している不老不死計画としてのゴーレムコアと違うってことだ。
正統派ゴーレム用のコアであり、数百の命令パターンから決められた行動をする――それだけだ。
しかもマスター不在なのでこちらの命令は受け付けない。
それでもいい点はある。
再加工すればこっちのゴーレムのコアとして使える。
つまり5千体分の労働力が確保できたってことになる。
これは朗報だ。
問題は5千体の労働ゴーレムが作業したら修理だけでアルタがパンクする。
という事で錬金術の実験用に使うことにした。
あの軍隊としての戦術パターンをどうにかヒャッハーゴーレムに上書きできれば優れた戦士になる。
いいね――希望が持てる。
――最後に拠点の再強化について話し合った。
でた案は遠征部隊を二手に分けることだ。
一つは山界の“中継拠点その2”でお留守番する部隊。
不本意ではあるがスケルトン第二波を考慮してお留守番部隊と一緒に立て籠もることになった。
もう一つは下界の“炭鉱”で山城築城部隊。
この部隊は今回の反省から炭鉱周辺の山をすべてを文字通り山城にする部隊だ。
魔物は山だろうが谷だろうが越えてくる。
今回はスケルトンだったが、前に遭ったクモの魔物だって越えて来ることはできる。
だから周囲の山々をすべて拠点化することにした。
山城と言っても立派な石垣の城を作るわけではない。
森の木々や地形を活用して防護柵で陣を作る。
山頂に矢倉を建てて見張りを置く。
その程度だ。
それでも不意打ちからの包囲は避けられるだろう。
◆ ◆ ◆
打ち合わせが終わり、アルタは拠点の強化のために下山した。
さて今回の教訓は慢心してはいけないという事になる。
拠点を作りながら南下あるいは北上すればいつか人のいる場所に着く。
そんな淡い期待は打ち砕かれてしまった。
人体の骨の重さは全部で10~15kgと言われている。
質量的には我らがゴーレム軍団の方がはるかに上だ。
だから攻撃は軽く何とか耐えることができた。
しかしその身軽さから山登りも山下りも軽く行える。
そんな魔物は果たして特殊な存在なのだろうか?
答えはノーだ。
似たような魔物――身軽でそれも大群で襲ってくる魔物は他にもいるだろう。
ならば地上をおっかなびっくり歩いて渡るのは諦めたほうがいい。
教訓以外にも情報もあった。
あのスケルトンの装備からアルタさんが生きていた時代よりも大分後の時代のものだということがわかった。
王国は滅亡しても人類は生き残っていたのだ。
同時に死者以外はここまで来れないという事もわかった。
軍隊ですらここまで来れないという事か?
日が傾き地平線の彼方へと落ちていく。
森を撫でるそよ風が肌寒く感じる。
深みの増した空では見知らぬ惑星達が自己主張をはじめている。
山脈から見える景色はきれいなのにそこに蠢く魔物達は凶悪なのばかりだ。
ゲームや小説ならザコ敵の群れでしかないのにどうしてこんなにも脱出の邪魔をするのか。
ああ、ダメだ。
ネガティブな事を考えだしているぞ。
これはつまり――。
「ヒマー」
なんとヘルメットが心の声を代わりに言ってくれた。
「まあ、拠点化が終わるまでここで待機だからな」
しかしヒマなのは本当だ。
簡単な軽作業は全てゴーレムができるようにしている。
例えば目の前では踏み車をゴーレムが回している。
そして刃物を回転させて鉛筆削りじゃなかった矢の量産をしている。
こういった消耗品の補充や生産はゴーレム任せにしている。
つまり片手間で出来る仕事というのは基本的に存在しない。
そうなるように設計してるし、この組織はそう作り上げている。
逆に言うと想定外の事態が起きるとやる事がなくなってしまうのだ。
そう計画経済が破綻したら仕事がなくなるそんな感じ。
よろしい――やる事が無いのなら作ればいい。
炭鉱以外のプロジェクトを考えよう。
――――――
――――
――
無理やり捻りだせばプロジェクトは案外出てくるものだ。
プロジェクトその1『辰砂から水銀から温度計』。
通称”からから”このプロジェクトで念願の温度計を作ってしまう。
水銀温度計は大体300℃程度なら計れる。
これは後に控える難題『頑張って燃料作ろうぜ』の無駄に意味不明な化学反応を制御するのに欠かせない。
実験器具はこの拠点に置いてあるから水銀ぐらいは何とか出来るだろう。
プロジェクトその2 『電気を普及するためにオームの法則……』
…………Zzz……。
……ッハ!? まさか寝ていたのか?
まあオームの法則は名前を聞くだけで眠くなるからしょうがない。
「あといくつか思いついたがとりあえずこの二つを順番に進めていく」
「やったー新鮮な開発だー」
「だがその前に睡眠だ。開発は明日からな」
「ぶーぶー」
ヘルメットをチェストに入れてこれで静かに眠れる。
明日からいつもの開発だ。
ウッド{ ▯}「ねーねーウッド」
ストン「 ▯」「なんだい?」
ウッド{ ▯}「この作品ツッコミキャラがいないから二人の暴走を誰も止めないよ」
ストン「 ▯」「ハハッ! 今さらだよ。環境が激変しても止まらないさ」
ウッド{ ;◎}「うわ~~」




