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第5話 骨パーティー

戦場にゴーレム使いの錬金術師を出すのは全ての周辺国及び精霊協会から敵対される恐れがあります。


彼らはとても嫌われているのです。


というのは戦場のゴーレム使いはネクロマンサーと呼ばれ戦死者を媒体にゴーレムとして使役するからです。

歴史上はじめて使われたのが第二次精霊軍による魔大陸進攻時です。

当初は損耗する軍隊の穴埋めに普通のゴーレムが使われるはずでした。

書物の内容が正しいのなら最終的に十万以上の――いえ殿下が知る必要のない事ですね。

とにかくゴーレム使いの軍部登用というのは却下です。


――若き皇子の教育係 兼 魔法王国軍略家

 初日から石炭の掘削を始めたが、アルタによる仮掘り以外はあまり進んでいない。


 石炭層は何層にも重なって厚み2m程度になる。


 そして採れた石炭の比重を天秤で測ったところ比重約1.4だという事が分かった。


 たしか――かつて栄えた夕張炭鉱は石炭層の厚みが7mだったかな。


 つまり炭鉱としての魅力は夕張炭鉱の三分の一以下ってことだ。


 これと実際の埋蔵量で価値が決まるが――偶然見つかった炭鉱にそこまで期待はしない。


 とにかく数年分――10万トンぐらい取れれば十分だろう。


「破砕機の調子はどうだ?」


「はい順調です。あと少し調整が済んだら石炭を砕けます」


 アルタはいつもの水車動力の破砕機を設置している。


 この石炭を砕いて粉にして木炭と似たような感じで乾留する。


 どうしても石炭には土砂が含まれるからいつものように粉々にして比重で分離をおこなう。


 鉱物は比重2以上だから石炭との分離は鉄とは逆の方法でなんとかなるはずだ。


 そうしてほぼ自動製造工程を練りながら作業を見守っていると――。


「ねーねー工場長ーなんで歩いて脱出しないの?」


 ヘルメットが核心的な疑問を投げかけてきた。


 たしかに拠点を地道に作って移動すればいつかは脱出できるかもしれない。


 最初のひのきの棒と石より確実に強くなってるはずだ。


 あとは使い勝手の悪いストーンゴーレムを改良できればいい。


「むむ……うーん、案としてはありか……?」


「私は賛成できません。山より巨大な魔物と遭遇したり、あるいは物理無効の魔物には勝てません」


「物理無効か~それっていまいち想像できないんだよなー」


「お化けだ! お化けー!」


「お化け……」と小声で呟きながらテンションが下がっていく彷徨っているヨロイ。



 ――そんな他愛のない会話を続けながらも日暮れまで作業を続ける。




「さて、もう夕暮れだからこの石炭を焚火に使って夕飯の準備でもするか」


 暗くなる前に松明の火が灯し始める。


 それに合わせて薪と木炭と石炭を一緒に入れた焚火に火を灯す。


 ん? そう言えば石炭って石炭ストーブ以外での家庭利用って聞かないな。


 あれかスモッグガスの原因になるから普段使いとしてはあまりお勧めしないのか。


 ――ってことは!


「ゲホゲホ……煙がひどい……水分を含んでいるせいか……ゴホ」


「工場長! 大丈夫ですか!?」


「ゴホ……ああ、大丈夫だ。煤煙(ばいえん)がこれほど出るとは――やはり知識のみだとだめだな」


「それにしては煙が凄いですね」


「煙だー霧だー」とヘルメットが言って気付いたがどうやら霧が出てきたようだ。


「最近ほんとに天気が悪いな――薄暗くなってから霧が深くなるとホントに幽霊が出そうだ……」


「ひっ……」と小さく声を上げながら『カタカタカタカタ……』と小刻みするさまよっているヨロイ。


 動く鎧がお化け苦手というのはどうなんだろう。


「工場長、冗談はやめてください」


「ああ、すまなかっ――――!?」


 関所の方から『カンカンカン』という鐘の音が鳴り響く。


 これは緊急時に鳴らすものだ。


 それはつまり――。


「工場長……関所を見てきますのでココでお待ちください」


 さっきまでユウレイにビビってたのに無理をして。


「いや、一緒に行こう。どうせ一蓮托生なのだから変わりはないさ」


 そう言いながら石炭の火を松明に移し現場へ向かった。


 先刻まで見ていた風景が霧の中に溶け込み目の前がぼやけてる。


 松明の明かりではさして遠くまで照らせない。


 何が待ち受けているわからない。


 それでも鐘の音の方へ。


 戦闘中の喧騒がする方へ近づいていく。




「ヒャッハーー!!」

「魔物は殲滅だー!!」

「ウェーイ!!」



 そうだった、世紀末風味あふれるゴーレム達が拠点を守っているのだった。


 すこし緊張がほぐれた。


 関所に近づきゴーレム達が闘っている魔物を見る。


 霧が深くて数は不明だが人のような姿。 剣や盾を持ちゆっくりとぎこちない前進をする。 だが色白のその姿から人で入事は明白。


「あれは――が、骸骨です!!」


 見ると骸骨兵が見える範囲で数十体だろうか。


 こちらは連弩によって攻撃を続けるが骨の軍勢に矢は効いていないようだ。


 そもそも連弩の運用思想は当たったら怯む――痛覚のある生物を想定した兵器だ。


 痛覚の無いゴーレムやスケルトンは想定外になる。


 それでも矢が当たり骨を砕いて倒している。


「倒せてはいるか。矢が尽きる前に倒しきれるだろうか」


「いえ倒れたのが復活しています」


 見ると割れて地面に散らばった骨がくっ付いて元に戻っている。


「それに結構な数だな。スケルトンについて何か知ってるか?」


「いいえ、ゆ、幽霊じゃないんですか?」


 と手をソワソワさせながら確認してくる女の子。


「不明か――それでも骨なら何とかなるだろ」


「そ、そうですね。しかし数は百体以上はいそうです」


 ひゃ……確かに霧のせいで全容は不明だがそのぐらいはいそうだ。


 それでも防護柵に近づく奴は槍とツルハシで、遠くの敵は矢で倒せる。


 これなら勝て――。


『カラン……カラカラ……』



 およそ戦場に似つかわしくない軽い音が耳に入ってきた。


 霧が晴れてきている――ふと鉱山の上を見上げると――。



 そこには白骨のアンデッド勢が居並ぶ。



 その赤く光る視線がこちらを見据える。


「アルタ上だ! 崖からくるぞ!!」


「――ッな! そんな……」


 奴らはあえて崖から身投げをして落下する。


 そう天然の要害を越えてきた。


 地面に激突し。


 砕け散る骨片。


 ――そして。


 数千の人骨の山から這い上がる白骨の兵団。



『カカカ……カタカタカタ……』



「くっアルタ! 前線は放棄してすぐに撤退だ!!」


「――ッわかりました。中継拠点に向かいましょう」


「全ゴーレムは武器だけもって中継拠点を目指せ!!」


 考えるのは後だ。


 今は撤退戦だ。


 できれば自給できる街まで戻って籠城戦。


 とにかく態勢を――。


「工場長! ダメです! 退路にも骸骨兵が!!」


 ――な!


 横からの強襲じゃない。


 周囲の山々から続々と降りてきている。


 最初から四方を囲んで襲ってきたという事か!


「くっ――なら仕方がない。ウッドハウスで籠城だ!」


「わかりました。全ゴーレムは円陣防衛で集結しなさい!」


 久しぶりに全力で走った……なんとか家の中だ。


 外は岩と骨の押し合いと化している。


 このままじゃ、ジリ貧か。


「ちょっと屋根の上から全体を見渡す」


「わかりましたお気を付けください」


 そっちこそと返してハシゴを登る。


ハシゴを登り屋根の上に出ると――。


 石炭で黒ずんだ岩と薄白い白骨が円形に彩っていた。


 ――よし落ち着け。


 こちらは地形を利用した要塞籠城戦を想定していた。


 どのような魔物でも拠点化さえすれば時間を稼げる。


 その間に対策を建てるという発想だ。


 だがこの魔物達は身軽で痛覚の無い体による地形を無視した機動戦を仕掛けてきた。


 つまり彼の有名な“包囲殲滅戦”を初っ端にやられたという事だ。


 この地形に対する認識の違いがこの事態を引き起こしたってことだ。


 それにしてもこの違和感は何だ?



 ――その後の戦い方は単なる数を押し合いと化している。



 まるで戦術通りに行動した後に指揮官が不在のような……。



 …………!



 つまりアンデッドたちの首領――ネクロマンサーがいないのか!


 遥か昔に戦術を教わり模倣する不死の軍勢。


 もう一度落ち着いて見渡す。


 見渡す限り人骨の群れ。


 ――重装歩兵なし。


 ――騎兵なし。


 ――弓兵なし。


 やはり烏合の衆といった感じだ。



 骸骨兵が『カタ! カタカタ!』と音を立てながら顔を出してきた。


「うお!? ――これでもくらえ!!」


 持っていた作業用のハンマーを振るう。


 頭骨にハンマーがめり込み。


 吹き飛ぶ!


 そして『パーン!』と軽快な音が鳴り響く。


 ――ん? これは――。



 よく見るとゴーレムの円陣を乗り越えて何体か家までやってくる。


 それも青銅の女騎士様がハンマーと手に刻印した錬成陣で倒していく。


 だが多勢に無勢。


 腕を掴まれ、足を掴まれ。


 次第に全身を細白い腕がまとわりついていく。


「この、この! ひぃ~」


「ゴーレム達、アルタを救出せよ! それからアルタもこっちに上がってきてくれ」


「いえ……ですから、その」


「コアだけ投げれば問題ない」


「! ああ、なるほど」


 納得したのか自身のコアを屋根に投げる。


 ほい、キャッチ!


「工場長お怪我は?」


 そう聞きながらインベントリ経由で鎧を目の前に出す。


「いや大丈夫だ。ところでアルタさん、骸骨の中から魔石が出てきたコイツらはゴーレムなのか?」


「これは……どうしましょう工場長。この幽霊達はゴーレムです!」


 お化けじゃないとわかるとさっきまで緊張していたアルタにも少し余裕が出てきたようだ。

 


 そして敵は主不在のゴーレム。


 オーケー、それならこちらの領分だ。


 手と足が生えた歩くリン酸カルシウムを数トン分処理すればいいだけだ。



 ――ああ、楽勝だね。



「アルタさん、とりあえず破砕機用意して!」


「え!? ……ああ! ――はい、いつもの作業ですね」


 もはやこの会話だけで意思疎通できる最高の相棒。


 この数を倒すとなるとかなり時間がかかるだろう。


 千体以上は確実にいる。



 ん? アルタが動くたびに『ガラガラ』と音がする。


「アルタさん、中になにか入ってない?」


「ひっ!? ちょっと待ってください!」


 確認すると中から白骨の腕が出てきた。


 どうやら下での戦闘でくっ付いてきたようだ。


 あれ? ここに登るのにインベントリ経由だったってことは――。


「もしかしてこのカルシウムゴーレムってインベントリに収納できる?」


「…………」


 無言のままインベントリの能力を行使するアルタさん。


 ああ、その目は幽霊を怖がる女の子から鉱物を処理する業者へと変わっている。


 インベントリの限界量からすべての敵を消すことはできない。


 破砕機の性能から処理にも時間がかかる。


 だから戦いはまだ終わったわけじゃない。


 慢心がこの事態を引き起こしたんだ。


 すべて倒しきるまで油断はできない。


 それでも軽口ぐらいは許されるだろう。


「それじゃあ朝まで骨パーティーだ」


実績

《精霊軍との邂逅》

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