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第2話 釣り〇〇〇

我々はついに見つけた。 この植物こそが我々の窮状を打開してくれるだろう。 この植物はとても生長がはやく、そして大きさが均一だ。 軽く硬く丈夫なこの植物は矢の材料にもってこいだ。 とくに気を付けて育てる必要のないこの植物を庭で、屋敷で、街道で育てることにした。 ちゃんと管理すればすばらしい資産となるだろう。 やがて東西随一の弓の里と呼ばれるはずだ。


――矢竹に覆われた無人の里から見つかった日記より


 街の中で比較的まともな場所の一つが冒険者ギルドである。


 そのギルドの一角を寝室として使っている。


 鉱山より高度が低いので幾分か暖かくついついいい感じに寝れる。


 暖かいというより暑い――暑いというより暑苦しい。


 というより喉が渇くぐらい暑いわ!


「なんでこんなに暑苦し――」


「モァ……スヤァ」


 そこには最弱の魔物モノがいた。


 そう人のベッドの中に保温性抜群の毛むくじゃらが――隣で寝ていたのだ。


「って、うわぁぁぁぁ!!!?」


 なんで魔物が人のベッドに忍び込んで寝てるんですかね。


 そう言うのはお化け苦手系の妹キャラとか相場が決まってるだろう!


「モノ! 人のベッドの中に入るんじゃない!!」


 ええい、全身にモノの毛が付いて鬱陶しい。


「モゥ……ぷい」とそっぽを向いてそのまま寝だした。


 こんにゃろいつか追い出してやるからな。


 ふぅ~まあいい、おかげで目が覚めたことだし朝の野菜茶を飲みながら今日の方針を考えるか。


「工場長ー置いてかないで―」としゃべるヘルメットが言うのでいつものように装備してからギルド1階へ向かう。



 ◆ ◆ ◆



 さて昨日はレンガの生産設備を作り上げた。


 残りの主な内容は《食糧確保》と《武器の生産》となる。


 しかしそれ以外にもちょっとした問題を解決して回らないといけない。


 なにせやる事は山のようにあるからだ。


 ――という事で、『いつものギルド』の『いつもの掲示板』の前に来ている。


 そして次の遠征までに処理しておくべき大量のタスクを張り出した。



 主に食糧、武器、資源だがそれ以外にもやる事は多い。


 例えば畑に木酢液を薄めて撒くという害虫駆除とか。


 街の廃墟となった建物を壊して更地にする。そして更地を耕して畑にするという農地拡張。


 使えば摩耗する連弩の整備をする。


 他には植物からバイオエタノール作るための機材を設計するというのもある。


 さっき思いついたモノの毛から毛糸そして毛玉を作るアイデアも追加した。



 そんな感じで単純作業から無茶ぶりまで作業項目は山のようにある。


 大部分の依頼はゴーレム達に任せているので、今日は主要な二つをやる予定だ。


 名目上はギルマスという立場のはずなのに率先して依頼をこなさないといけない――ギルマスとは一体?


「さてとそこのヘルメットよ。食糧確保と矢の生産どちらから攻略するべきだろうか?」


 ヘルメットの額の部分にそのまま居付いたゴーレムコアが「うーん」と悩むような音を出した。


 そして「どっちもー」と言う。


 両方一気にやれと言うのか。まあいいけど。



 食糧は主に川魚の予定だ。


 そして矢の製造は中央の川から正統派水車で生産する。


 どちらにしても川辺での作業が主なものになる。


 始まりの街には大きな川が中央の城を避けるように流れている。


 この川は運河として活用していたらしく川沿いにいろいろな建物がある。


 このギルドもその一つで、船に乗った冒険者は広い範囲を移動して倒した魔物の素材をトン単位で運んできたのだろう。


 中央の城と言えばこの世界に来た時の《召喚の間》があったところだ。


 アルタと初めて会った場所でもある。


 今思うと懐かしいね。


 おっと思考が脱線してしまった。


 何にしても川で魚を釣る。


 そうと決まればさっそくアルタと一緒に釣りに出掛けよう。


 たぶんそろそろ中央の城から戻ってくるころ――。


 その時『カチャリ』という音がしたので視線をそちらにやる。


 噂をすればなんとやら――アルタが戻ってきたようだ。


「工場長、戻りました。今日は何をしますか?」


「まずはそこに座ってくれ。ん? その人形はどうしたんだい?」




 アルタは手に犬のような猫のような謎の人形を持っていた。


「これは召喚の間に落ちていました」


「ああ、なるほど」


 召喚の間には古代人たちの召喚の儀式で『ナニカ』が召喚される。


 その『ナニカ』というのは人だったり物だったり小さな昆虫だったりするらしい。


 今の所の実績は――


 ニンゲン 1

 昆虫   1

 ガラクタ 3


 この数千年でこれだけだ。


 試行錯誤していた時代の召喚の儀式は不安定でタイムラグが軽く千年単位で発生したのが原因だと思われる。


 幸か不幸か人間が来るとは限らないのがこの召喚ガチャ。


 だから都合のいい召喚は生きているうちに来ないだろうと考えている。




「おほん、気を取り直して今日の予定について打ち合わせだ」


 そう言ってギルドに適当に作ってみたテーブルに座ることを促した。


「ふふっ、それではリーダー今日は何の依頼を受けるのですか?」


 完全にノリノリな青銅の女騎士殿。


「ああ、今日は食糧確保と矢の生産を両方やる予定だ」


「それでしたら――」




 その時、唐突に頭に装備したヘルメットが「釣りデートだー」と爆弾発言をしやがった。




 ――そしてその時、ギルド内の時間が止まった。




 ここまで止まってしまうと迂闊にリアクションができないという変な状態になってしまった。


 どうすればいいんだ?


 そう思いつつもふとアルタと目が合う――たぶん目が合っている。


 無表情で何を考えているのかわから――。


 いや赤く輝くゴーレムコアがピンク色の輝きだした!


 そして時間が動き出したのか体をくねらせ始めるアルタさん!!


 くねらせるたびに『ギギギ』とか『ガシャンガシャン』とか『カランカラン』と鳴り響き、「あのあの……ああっとええと……」とブツブツ言いはじめた。



 ――なんだこの可愛いヨロイは。



 オーケー落ち着こう。……ふぅ~深呼吸だ。


 こういう時はさっさと釣りに行こうと言って互いに落ち着くべきだ。



 ………………あれ?




 今までの人生でデートに誘うなんて一度もしたことないぞ。


 いや違う、これはデートではない。


 そう、いつもの作業だ――依頼をこなすだけだ。


「え、えっとそれじゃあ。つ、つ釣りに行こうか」


 完全に青い少年状態だ。


 人生のほぼすべてをモノづくりに捧げた弊害か!


「はい! ええ、行きましょう。ふふふ……今日は釣りですね」


 もはや完全に弓矢の生産は忘れて釣りをすることになった。






 ◆ ◆ ◆






 ギルドのすぐ隣に川が流れてるから荷入れ船着き場に釣り道具を持ってやってきたのだが――。


「工場長―川がまっかっかー」


 ヘルメットが言う通り中央の川が赤々と淀んでいる。




「……さすがに釣りという感じではありませんね」


 すんごいショボーンとするアルタさん。


「ああ、そうだな――まずは原因を調べよう」


 余りの光景に呆然と立ち尽くしてしまったが原因を調べることにした。



 川に色が付く可能性はいくつかある。


 例えば、『赤い塗料が流出した。赤ワインのタンクが破裂した』などの何かに染まるパターンだ。


 それ以外には鉄やアルミニウムなどの金属が溶け出した化学反応系。


 あとは藻が大繁殖して一面緑色になるというような生物系。


 ――という事で先ずは赤水をすくい取って調べる。話はそれからだ。



 ◆ ◆ ◆



 オーケーとりあえずこれまでにやったこと。


 まずは錬金術でレンズを作成。


 そしてこのレンズを使って顕微鏡を作り上げた。


 錬金術の良いところはとても小さくて高性能なレンズを錬成できることだ。


 直径1mm程度のガラス球を作り顕微鏡倍率は数百倍の物ができた。


 残念ながら精度の高い測定器が無いから厳密な倍率はわからない。


 さて懐かしき文明の香りが漂う顕微鏡をのぞいた結果――この赤い水の正体が分かった。


「これはプランクトンだな」


「プランクトン――そんな微生物というのが存在するのですね」


「そうかアルタさんはこういうのは初めてなんだね。覗いてみる?」


 騎士風錬金術師がとても興味津々に顕微鏡をのぞいている。


 どうやらうまく見えれるらしく――とてもはしゃいでいる。


 さて赤い原因は微生物それもミドリムシの一種で細胞内の赤い色素によるもののようだ。


 ではそれが大量発生した原因は?


 ここからは推測だが東の大山脈には豊富な鉱物――つまりミネラルが大量にある。


 このミネラルが川に流れてプランクトンが過剰に増加したんだと思われる。


 この現象が開発によって引き起こされたのかわからない。


「心象的にはここの川魚を食べたくないので釣りはやめよう」


「ええ。そうですね。工場長の健康が大切です。食糧はこのまえ手に入れた果物と多少蓄えている魚で対応しましょう」


「足りない分は現地で探すか」


「……それでは……その……この後どうしましょうか?」


「ああ~そうだな。のんびりする日はまた今度にして今日は連弩用の矢を自動で作る機械を開発しよう」


「わかりました。設備作りは任せてください!」


 むしろ張り切ってないか?



 矢の生産に適しているのは矢竹という植物である。


 だがそんな都合のいい植物は見つからなかった。


 矢の柄の部分――シャフトを木を削って大量生産しないといけない。


 どうやって作るか考えた結果、昔懐かしい《えんぴつ》方式で製造することにする。


 《えんぴつ》というのは木の板に溝を掘って、芯を入れて、接着剤でサンドイッチにして、最後に上下両方から刃物で削る。


 そうやって六角形の《えんぴつ》ができあがる。


 だが弓矢に鉛筆の芯も強力な接着剤もいらない。


 再現するのは最後の工程である『木の板を上下両サイドから刃物で削ってシャフトを作る』ここだけだ。


 あの六角形を再現するためにV字の溝ができる刃物を等間隔に配置すればいいだろう。


 六角形の矢なんて見たこと無いけど連弩の消耗品に職人的なこだわりは必要ない。


 要は大量に飛ばして当てればいいのだ。


「ふふ、結局いつもの開発になりましたね」


「まあそうだね。のんびりデーはまた今度にするか」



「…………別に一緒に開発できるのなら休みが無くても……」



「ん? なんか言った?」


「いいえ、次は矢じりの量産装置ですね。製造は任せてください」


「ああ、それじゃあ矢じりは鉄板を加工するからてこの原理で――」



 ◆ ◆ ◆



 翌日にはゴーレムだけで矢の量産ができるようになった。


 食糧は不安があるが一月分は確保できた。


 正統派水車動力による矢の量産体制もできた。


 あとはレンガができるまで時間があるから残りのタスクを処理してく。



 なのだが――天からH2Oが降り注いでいる。



「工場長、雨ですね」


「うん、雨だね」


 そう雨が降りだしてしまったのだ。


 いや、おかげで赤い川は流されて元に戻りそうだけれど。


 雨天に外で作業するつもりはない。


「雨が上がるまでやる事がなくなってしまった」


「それでは一緒に――ガーデニングをしますか?」


「それもよさそうだな。手伝うよ」



 結局雨は5日降り続けた。


 その間、アルタと一緒に室内作業を黙々と、たまに駄弁りながら続けた。


ウッド{ ▯}「なんかラブコメの波動が出始めたぞ」


ストン「 ▯」「作者がヒロイン欠乏症に陥ったせいだね。しょうがないね」


ウッド{ ▯}「だったら最初からヒロインいっぱい出せばいいのに」


ストン「 ▯」「需要があれが増えるんじゃない?」


ウッド{ ▯}「…………」

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