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幕間 遥か古代の記憶――滅亡の刻

いつまで海外工場は停止状態なんだ! さっさと別の技術者を見つけろ!!


ああん? 金を稼いでないんだから現地人に払う金なんて要らんだろ!!


クソ! アイツめ、急に消えやがって恩を仇で返すクソが――。


堅実経営とか言ってジリ貧だったクソ親父がおっちんで、やっと荒稼ぎできるって時にッ!!


まあいい、前金はたんまり貰っているんだ。


札束で叩けばいくらでも替わりは見つかる。


ん? 電話か……。


…………。


はっ? 現地デモからクーデターで政権が崩壊しただと!?


それでウチの工場が新政権に接収されただぁ!?


――終わりの始まりの社長

 魔法王国そのすべてがこの街から始まった。


 しかしかつての首都だった面影は中央にそびえ立つ城と城壁ぐらいである。


 今では繁栄を極める魔法王国の西の貿易拠点を担っている。





 ~だが、その繁栄の時は終わりを迎えようとしていた~





「はぁ……はぁ……はぁ……ッ」


 その城の中を一人の少女が駆け抜けている。


「はぁ……ッお父様!」


 そう言いながら勢いよく父のいる旧王の間へと駆け込む少女。


 そこには疲れ果てた男――この地を任されている侯爵がいた。


 彼は先ほどまで北にある魔法王国首都に赴いていた。


 そこで王国が更に飛躍する画期的な『発明』の披露会に出席していたのだ。


「おぉ、私のかわいいベルタ。もう逢えないかと思った」


「お父様苦しいです。一体――何が起きたというのですか?」


「!ッそれは……」


 少女の問いに対して何か言いそうになりながらも言いよどむ父親。


 そして父親に代わり別の人物が口を開く。


「城主様――もうあまり時間がありません」


「お師匠様……ッ!? その怪我はどうしたのですか!」


 よく見ると父親も師と仰ぐ男もボロボロであり――『ナニカ』が起きたことがわかる。


「……良く聴くのだ我が娘よ。……この国はもう終わりだ。……首都が墜ちたのだ」


「ッ!!?」


 息をのみ口を塞ぐ少女。


 幼い日に赴いた首都が――あの白く美しい塔が並ぶ城塞が――王国の誇りが堅固な壁となって何層にも連なったあの首都が墜ちた。


 それは大陸全ての要塞が攻略可能ということを意味する。


 それほどまでに巨大かつ難攻不落の都市は他には存在しないのだ。


「直にこの大陸一帯は魔物で溢れ返る――東にある二つの大陸以外は安全とは言えないだろう」


 この地よりはるか東の海を越えた先に二つの大陸がある。


 そのどちらも魔法が未発達であり小さな都市国家と未開の地が広がっている。


「でしたら今すぐにでも――!!」


「だがな……東の大山脈を今から越えるなど不可能だ――不可能なのだよ……」


「城主様、準備が整いました」


 師と仰ぐ老練な錬金術師は黙々と錬成陣を書き『ある準備』を整えていた。


「よいかベルタよ。これから言うことを良く聞きなさい」


 そう言いながらこの国で最も偉大な錬金術師は今後について説明を始める。








 城壁の上では兵士たちが右へ左へと動き回る。


 最初は首都陥落の知らせがきて大混乱に陥った。


 次に自らの主が舞い戻りすぐに城中の兵を北の城壁に集めた。


 それからは北から難民の長蛇の列が流れ続けている。


 彼らは北から押し寄せる避難民の対応と城壁をいつ閉めるのかを協議していた。


「報告です! 北からとめどなく民が流れてきます! そのせいで城塞都市内部は人で溢れ返り身動きが取れません!!」


「ええい! 城主様から直ちに門を閉めよとの命が下っているのだぞ!!」


「しかしせめてあの北の山のふもとにいる者たちは中に入れてからにするべきです!」


「何を言ってるんだ。北に山なんてあるわけないだろう――」


 この地は北に大草原が、東に大山脈が、西に運河が、南に大街道が存在する。


「ちがうアレは山じゃない……魔物だ……」


 まるで山のような巨大な何かがゆっくりと近づいてくる。


 あまりに巨大であまりにゆっくりと移動するので風景と錯覚していた。


 そして足元の避難民を飲み込みながら南下してきているのだった。


「いますぐ……今すぐ門を閉じろ!!」


「跳ね橋も上げるんだ!! 早くしろー!!」


「……もう今さらどうにもならんだろぅ」


 避難民を無視して落とし格子を下ろし、門を閉じ、跳ね橋を上げる。


 そうして阿鼻叫喚の北門と化す。


 だが誰もその行為を非難はしない。


 実際にソレを見た者たちにとって門が閉じることの安心感の方が重要だったのだ。








「ついに来たか……」


「お父様アレは……一体……」


 先ほどまで恐るべき計画を聞かされていたがどこか遠い世界の出来事のように聞いていた。


 だが実際に目の前に真っ黒な恐怖の象徴が迫り来ていた。


 師匠は言う。


「よいなこれからお前の体を封印する。そして魂をこのアルファ・コアに移す」


 それはつい先日完成した不死の研究成果であった。


 一つは時の止まった結晶の中に封印する術式――『刻の結晶』


 もう一つは魂を器に入れ永久に生きる術式――『魂の器』


 時の止まった結晶に封印すれば若さを保つことができる。


 ゴーレムのコアと同じそれに魂を移せばどのような環境でも動き回ることができる。


 そうすることによりこの未曽有の危機を逃れたのち封印を解き元の体に戻る。


 だがそれは生きていけるだけの準備が整わなければ永遠に体に戻れないことを意味する。


「そんな――私一人では不可能です」


「お前ひとりだけではない。この城の最も信頼のおける者たちも共に封印して来る日に共に力を合わせて脱出するのだ」


 勇敢な騎士、聡明な僧侶、熟練の職人、身の回りの世話をする従者たちなど。


 単純な労働力はゴーレムに任せるとしてもそれ以外にもあらゆる困難に対処するためのプロたちを貴族街に集めていた。


「た、大変です城主様! 南部の辺境伯が突如独立を宣言し南門から続々と侵入してきています!!」


「なに!?」


「南部の貴族街の惨状はひどく……現在精鋭の騎士団が応戦しております!」


 首都崩壊の知らせは各方面にすぐに伝達していた。


 その結果かねてより機会をうかがっていた勢力が一斉に蜂起したのだ。


 人魔統合という無理が未曽有の危機に分裂という結果を与えたのだ。


 そしてそれは計画の破綻を意味する。


「ッ――わかった私も出るぞ」


「お父様!!」


「あとは任せた……」


 そう言い、娘を残して賊討伐の指揮に出る。


「すまない我が弟子よ。我々の時間もあとわずか……お前ひとりだけを残すことを許しておくれ」


 父も師匠も先ほどよりやつれて青ざめていた。


 惨劇の現場で致命傷を負いもはや寿命が尽きかけていたのだ。


「いや……そんな」


 王国最高の錬金術師――その最後の錬金術が始まった。


 そして少女の足元から結晶化が始まる。




「あれは何だ!!!!」


 ちょうどそのとき遥か上空、雲よりも高い絶望が到来した。


 東の山脈と比肩するほどの巨大な山が――黒い壁となって北門を崩すことなく飲み込む。


 音を立てずにゆっくりとすべてを飲み込むソレに南部の反乱軍がついに気が付く。


「どういうことだ!?? 引け引けーー! 話が違うぞ――」


 だが遅かった――ソレはすぐそこまで押し寄せて……飲み込んだ。


 巨大な質量の移動により風が吹き荒れる中、我が子を守りたい男は絶望と対峙する。


「――ッここから先には行かせるものかーー!!」


 だがその決意はむなしく漆黒に吸い込まれる。


「お父様!!」


 すでに父も飲み、黒い闇が目の前にまで迫る。


 結晶が足元から始まり――体を覆い少女の全身が結晶に包もうとしている。


「よいな、お前のインベントリの中には我が研究成果が秘められている。それらを基に必ずやこの大陸を脱出するのだ」


 術式の発動を終えた後――城塞都市のすべてが闇に包まれて通り過ぎていった。


 ゴーレムコアにも結界が張られていた。


 魔物が少なくなる日までコアを守る結界が張られていた。






 ―― 数十年後


「ここは――ああ、私の体が目の前にある……」


 誰もいないそこにはゴーレム・コアが一つ、そして結晶化した少女だけしかなかった。


「まずは体を……周囲の砂と塵で……」


 錬金術を使い周囲の物質で体を構成していく。


 試行錯誤を繰り返し何日かして小さな土くれの体を動かせるようになる。


 小さなゴーレムは周囲の探索を始める。




 ――そこは人のいない城塞都市。


 ――そこは魔物が跋扈する魔の大陸。


 ――そこはすべての門が閉じた安全地帯。


「どこにも逃げ場がない……いいえ大丈夫。時間は幾らでもあるのだから錬金術を極めて体を取り戻して脱出するの」


 それからゴーレムを錬成して身近な事から始める。


「それじゃあ、あなたは墓守。お父様や皆の墓を守りなさい」


「はーい」


 研究棟にあった魔石を使い多数のゴーレムを創造しあらゆる命令を出す。


 生存者の探索――。

 周囲の調査――。

 墓の整備――。


 城に残っていた資料を読み漁り、錬金術の真理を極めんとする。


 しかしその先に脱出の――否、基本的な生存の手段すら見つからなかった。


 「ダメ――魔力が少なすぎて結晶の封印を解除することができない……」


 身体に戻れないという事は老いることすらできなという事である。


 なんとしても脱出あるいは封印を解く方法を見つけなければ永遠にさまようことになる。


 だれもいない無人の都市で――。













 ―― 百年後


「ああ、不眠不休で錬金術をどれほど極めてもこれ以上は無理」


 不死のゴーレムは自らの知りうる情報を基に足掻いたがもう手はなくなっていた。


「誰か……誰か、私を助けて……」



「――!?」


 その時、城の祭壇の間で魔力が発生する。


 急いで現場に行くとそこには一匹の蝶が舞っていた。


 それはこの世界とは別の世界から『ナニカ』を召喚する術。


 それにより行き詰っていた不死の研究を飛躍的に発展させるという神秘の法。


「この蝶には魔力がある――それなら封印を解ける! いいえ落ち着くのよ――それでは死ぬのと一緒」


 長い間考えた結果一つの結論に達する。


「いつの日か人が召喚してくるかもしれない。いつの日か魔物を倒して人が来るかもしれない」


 手に入れた魔力を持つ蝶を媒体にして『刻の結晶』をゴーレム・コアにおこなう。


 そして人が現れるまで自らを封印する。


 再度復活するその日までゴーレム達に城塞都市を守るようにいい。


 ――結晶の中で眠りについた。











 ―― 千五百年後



「ここは――」


 永い眠りから目覚めたゴーレム。


 それは近くに人がいることを意味する。


 前よりも崩壊している城に困惑するもしっかりとした足取りで人を探す。


 その先に『希望』があると信じて前に進む。




ウッド「お゛がーざーん゛!!」

ストン「お゛がーざーん゛!!」


ウッド「まあ本編では楽しそうでよかった」


ストン「ちなみにハッピーエンド予定だからいつか体は復活するらしいよ」


ウッド「体は子供! 頭脳は大人! その――」


ストン「それ以上はいけない!!」




タイトルを変更しました。


また略称として『ファクマネ』で唯一検索にかかるはずです。

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