第16話 改善活動は重要だ
ん? なんでワナを設置して安全に魔物を倒さないのかって?
それはな――奴らもバカじゃない。
はじめは良くてもそのうち理解して効かなくなる。
それにワナで倒せるようなら俺たちみたいなのは必要ないだろ?
がっはっはっはっはっは!!
――大酒飲みの冒険者
「工場長、屋根の改修終わりました」
そうアルタに言われて工場を見るとノコギリのような斜めの屋根になっている。
ノコギリ屋根工場――電灯が普及する前の産業革命期に採用されて、紡績業界の工場で広く普及した建築様式である。 本来は三角形の短辺には大きな窓が取り付けられ、薄暗い工場の奥まで明るくなるように設計されている。 古い建築様式だと思われがちであるが最新のエンジン工場でも製造ガス排出を目的に採用されていたりする。
――つまりギザギザの先端に集まるようにしてから水素ガスを外に排出するってことだ。
「いいね。外側ができたのなら次は内部だ」
「モーター周りですね」
「ああ、そのためにもちょっと危険な廃棄物処分場に行って《電力ヒューズ》を作る」
◆ ◆ ◆
浮遊選鉱などで発生した廃棄物は一カ所に集められている。
すでに数十トンもの山となって放置状態だ。
この毒性廃棄物は現在社会の厄介ものではあるが――それはあっちの話。
そもそも物資が枯渇どころか全く無いという事はこの廃棄物ですら宝の山だったりする。
そんな資源の山が放置されているのは低コストで分離する方法が無いからである。
ようするに有害な重金属である《鉛》などをお手軽に分離できないから困ってるのだ。
だがしかしかし、我々は持っているのだよ――お手軽分離方法を!
「という事でアルタ大先生よろしくお願いします」
「はい任せてください」
そう言いながら驚異の分離能力《錬金術》を用いて有害物質を元素レベルで再構築していく。
つまり時間以外ほぼノーコストで廃棄物を処理して材料が手に入った。
「問題は手に入った金属が何なのかわからないことだ」
これからやる事は『水兵リーベ謎の表』の名の下に実験と当て勘で材料を埋めていく作業。
やる事は簡単で同じ形状のブロックを作り秤で計って比重差を求める。
水につける。 燃やす。 硫酸かける。
などなど条件を変えて変化を見るという地味な作業をする。
オーケーはじめよう。
◆ ◆ ◆
――鉄鉱山の南の森、その奥地。
新規のゴーレム部隊が奥へ奥へと分け入って周辺の調査をしていた。
装備を整え、武器である矢はまだまだ大量である。
槍だけの時より奥へ進み、数日が経ち、ついに目的の鉱物を発見した。
ゴーレム達は工場長が探し求めていたソレを携えて帰路につく。
だが森の茂みに敵意ある別の集団が待ち受けていた――。
◆ ◆ ◆
なんとかそれなりの周期表が完成した。
そしてここからが本題。
これから作るのは《電力ヒューズ》になる。
つまりショートして過電流が流れたら切れてくれる安全装置だ。
そのために300℃以下という比較的低温で溶ける鉛や錫などを混ぜる。
これでモーターが焼ける前にヒューズが焼き切れるはずだ。
「よーしそれじゃあ――」
「できました!」
「はやっ! いい仕事するねーアルタさん」
「ええ、最初から計画を聞いていましたので――」
「どうだ凄いだろー」となぜかヘルメットがドヤる。
あれか、親自慢をしたいお年頃なのか?
「まあいい、それじゃあヒューズのテストをする」
やる事は簡単。
高回転のモーターをあえてショートさせてヒューズが飛ぶのか確認するだけだ。
それが終わったら次は銅板がへこまないように人力クレーンも改善する。
あとは電解槽の修理をして一通りの改善活動は終わりだ。
それじゃあ始めよう。
◆ ◆ ◆
――南の森。
突然の襲撃者との戦闘でゴーレムの3割が戦闘不能に陥った――全滅である。
戦闘から離脱したゴーレム達は一目散にその場から離れていく。
ゴーレムの目的は戦闘に勝つことではなく目的の鉱物を自らの主に届けることだからだ。
2割を殿として残し後のゴーレムは近くの拠点を目指して逃走した――。
◆ ◆ ◆
銅の電解精錬は順調に再稼働した。
爆発の原因と思われる問題は解決したので持てる限りの物資を持ち銅鉱山を出発することにした。
「それなりに武器も揃ったし――だからモノとはここでお別れだ」
「モゥ、モァ!」と言った後――――ベッタリとくっついて離れない。
うわっ!? うっとうしい!!
何なんだコイツは!?
「アルタさん、全然離れてくれないんだけど……どういう事だ?」
「これは……多分ですが、工場長にボディプレスしたときに力比べに勝利したと認識したのかもしれません」
「つまり《お山の大将》になったってことか……それって実害あるの?」
「――いえ、ありませんね」と断言する古代の歩く英知。
「あ、ないんだ」
害が無いなら放置でいいかもしれない。
けどアレだな、これ以上一緒にいるとなると――。
「鉱山周辺のワナを解除してマヌケモノが被害に遭わないようにした方がいいかな」
「あまりお勧めはしませんが――」と言いつつもモノを見て、その頭をナデるアルタ。
目を細めながら「モゥ~」と鳴くモノ。
その後は互いに『まあ、しかたないよね』という感じになり、マヌケモノが掛かりそうなワナだけは解除することにした。
――――――
――――
――
そんなこんなでいろいろ雑務をこなしてから銅鉱山を出発した。
そして各拠点から資源を回収するついでにワナを解除して回った。
もっとも最近は魔物の縄張りが変化したらしくワナにかかるような魔物はほとんどいなかった。
というより魔物が減ったと言った方がいいかもしれない。
そして――。
鳴り響く鉄の鐘と『開門―!!』という声を聞きながら《始まりの街》へと戻ってきた。
そして「まずはギルドに回収した資源を置いてから、問題解決のための計画を建てましょう」と建設的な錬金術師殿が提案した。
とくに異論はない。
さて各鉱山によって産出した資源を回収したとき――ちょっとした問題が発覚した。
その問題というのは鉄の生産量が増えたのだ。
鉄鉱山を簡単なモデルで表すと円錐になる。
山頂から火力掘削で燃やして割っていくという事は時間と共に中腹へと掘削範囲が移動する。
つまり燃やす面積――掘削範囲が増えるという事だ。
増えている――それのどこが問題なのか?
面積が増えるという事は燃やす木材の量が増える。
鉄鉱石の量が増えるという事は木炭の消費量が増える。
木材の消費量はバカにならない。
鉄を1トン生産するのに木炭を約1.4トンは消費する。
そして木炭を1トン生産するのに10トン以上の木材を燃やしている。
これが毎日だ――これ以外にもモーターを含めあらゆる個所で燃料を燃やし続けている。
「ようするに木の伐採速度と木炭生産速度より、鉄鉱石の掘削速度が上回っているってことか」
「はい、そうなります――ですので燃料不足が新たな問題ですね」
「新たなというより人類普遍の問題だな――」
――そのとき南の城壁で『カーン』という音が鳴り響いた。
どうやらこのまえ派遣した調査団も戻ってきたようだ。
「戻ってきたか――ギルドに行く前に調査結果を聞いておくか」
「そうですね。そうしましょう」
◆ ◆ ◆
調査部隊は5割壊滅していた。
部隊はボロボロでそれほどまでに強い魔物が徘徊していたという事だろうか。
そして――。
「成果を持ってきましたー」とやっぱりいつもの感じで報告してきた。
「ん? ――成果があっただと!? 見せてくれ!」
そう言ったらゴーレムが黒い塊をチェストから出してくれた。
そして黒い塊を受け取る。
「あってる? あってる?」とソワソワするゴーレム。
「工場長それは――」
「ああ、これは石炭だ!」
石炭はむこうの世界でも埋蔵量1兆トンと言われ石油よりはるかに偏りが少なく産出する資源だ。
だからいつか見つかるとは思っていたが――どうやら南の森で見つけることができたみたいだ。
さあ、燃料問題改善の時だ。
銅の時代 完。
次回 石炭の時代
広告欄のさらに下に評価欄がございます。
『続きが気になる』『面白かった』などと思われましたらぜひ、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
――とは言いません。
少しでも評価できると思いましたら、☆の数で正直な評価をいただけると執筆の励みになります。
またブックマーク登録や感想も、ぜひよろしくお願いします!




