第12話 永久磁石 《エターナル フォース マグネット》
魔物には強さによるランク分けがあります。
D:一般人で討伐可能
C:冒険者一人で討伐可能
B:冒険者パーティーで討伐可能
A:複数のレイドで討伐可能
S:Sランク冒険者以外討伐不可能
これとは別に魔大陸専用のランクがあります。
――冒険者ギルドの手引き
磁石の材料探しのついでに軌条の必要資源量を机上で計算した。
そしたら狭軌ですら狂気的な鉄消費量だということがわかった。
オーケーこの問題は鉄の生産量を増やせば解決する。
鉄を増やすには鉱山の掘削量を増やすか取りこぼしを減らすかの二択になる。
掘削量は火力掘削の燃やせる表面積に依存する――つまり増やせない。
そこで取りこぼしの回収――つまり砂鉄を永久磁石で取り出す《磁力選鉱》が解決策になる。
今進めている『永久磁石作ろうぜ』プロジェクトを進めればいいってことだ。
いえーい、話がつながった!
そうなるとこれから進めるプロジェクトは――。
とりあえず『永久磁石作ろうぜ』。
調子に乗って『銅の電解精錬しようぜ』。
もっと鉄が欲しいな『磁力選鉱しようぜ』。
――の三本になる。
うん、全部『エンジン作って脱出しよう』計画に必要な事……だと思う。
最近、開発が楽しくて脱出を忘れてる気もするが気のせいだ――気のせいのはずだ。
◆ ◆ ◆
各鉱山で物資と燃料を集めて、またしても銅鉱山に戻ってきた。
隊商として各地を移動している間に銅鉱山では銅含有量の多い地層に当たったらしい。
それにより普通の溶鉱炉の処理能力より多い黄銅鉱が積みあがっている。
そこでアルタ重工業による一回り大きい溶鉱炉の稼働を始めた。
さてと作業場を磁石製造用に改築してこれから作業に入る。
石灰岩の地層からたま~に手に入る毒で重い石《炭酸バリウム》が手に入った――これってかなりラッキー!
無かったら別の鉱物を探して掘削するだけの話だが探索時間を節約できてよかった。
「わーい特等席~」とヘルメット助手を装着する。
「いいな~」と助手ゴーレム達がヘルメットになりたそうにコチラをうかがっている。
「ならなくていいからヘルメットは一つで十分――アルタ君この子らなんとかして」
キャラバンでは邪魔だったから外していたが――どうやらゴーレム達のマイブームはヘルメットの位置らしい。
「いい子だから工場長の邪魔をしない」とアイアンマザーがなだめて助手に戻ってくれた。
「それでは永久磁石の料理講座を始める。ではアルタ君、例の材料を――」
「はい工場長、こちらに用意してあります」
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――それでは工場で1日クッキングの時間です。
まずそろえるのは《炭酸バリウム》の粉そして《酸化鉄》の粉になります。
下ごしらえとして事前に砕くことをお勧めします。
この粉々にした原料をほどよく配合してから炉に流し込み仮焼結します。
温度は大体1300℃程度ですが、温度計が無いので適当です。
はい――フイゴからの爆風で炉が赤々と燃えていますね。
この炉に材料を投入して溶かします。
無理そうなら錬金術でなんとかしましょう。
高温で溶けて冷やしていくと結晶が成長します。
これで磁力の向きがバラバラな多結晶の合金ができます。
バラバラなのでもちろん磁力はありません。
冷やした合金を粉砕ミルで砕き再度――粉にします。
この時には水中粉砕するといいでしょう。
大体1~2マイクロメートル程度まで粉砕すれば多結晶体は粉々になり《単結晶》になるはずです。
もちろんメンドクサイので錬金術の《分解工程》で粉にします。
技術力が無いというのは罪で詰みですね。
この粉に電磁石で磁力を与えながらプレスします。
今あるモーターでとにかく磁力を与えます。
水車しか動力がないので磁力に限界はありますが頑張りましょう。
そうすると単結晶が磁力に引っ張られて向きが一定になります。
ここです! このときにプレスする!!
プレスすることによって磁力の向きを固定させます。
この向きをそろえるという工程が重要になります。
出来上がった合金をじっくり焼きます。
先ほどと同じように高温で焼結します。
完全に溶けると向きがまたバラバラになってしまいます。
ですので――このとき溶融しないように気を付けましょう。
それでは冷え固まった、こちらの合金を錬金術でお好みの形に加工します。
最後に隠し味としてもう一度、電磁石で磁力をあたえます。
どのくらいやればいいのかわからないので1日ほどこのまま放置します。
以上、1日クッキングでした。
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――という事で丸一日やってなんとか永久磁石ができた。
形は磁力選鉱に使うドーナツ型やモーターの形状に合わせた瓦のような物などいろいろだ。
といっても今は試作なので手のひらサイズしか作っていない。
とりあえず砂鉄がつくことを確認した。
「ひゃーくっついたー、さすが工場長―」とヘルメットが棒読みで言う。
「これが永久磁石ですか面白いですね。錬金術で分解してみてもいいですか?」と提案する鋼鉄のゴーレム。
けど君は鉄なんだからがドーナツ型の磁石を手に取ると――。
――すると『カンッ!』という音と共に鉄の手にくっ付いた。
普段は柔らかい《木の手》だが溶鉱炉作業時には燃えないように《鉄の手》に取り替えている。
うっかり屋さんのアルタ君の手に磁石がくっ付いてしまった。
「あら、取れませんね」と言ってお困りのアルタさん。
「ちょっと待ってすぐにとってあげるから――」
そう言って代わりに取ろうとした時、『ガンッ!』という音と共にドーナツ型の磁石がその鉄板の右胸辺りにくっ付いた。
この姿は――ああ、あれだ。
あれは小学生のころ親に買ってもらったドーナツを二つ使ってちょっと下品ないたずらをした時のアレを思い出してしまった。
「あれ、取れな」と少し焦りだす鋼鉄の錬金術師。
「もう一個あれば反発するんだよー」と微妙に間違えて覚えた助手ゴーレムがもう一つのドーナツ型の磁石を持ってくる。
「いやいやそれはちが――」
まるで当然の帰結化のように『ガンッ!』という音と共に今度は左胸にくっ付くドーナツ様。
両胸に付いた磁石を外そうと《鉄の手》を反射的に伸ばし――『ガンッ!』――離れなくなる。
そう、その姿まさしく『セクシービーム』のそれである。
……もうダメお腹痛い。
「~~~~み、見ないでください////」と今まで胸など意識してこなかった自称美少女錬金術師の魂が入ったゴーレムコアが今までになく赤く――むしろピンク? に輝くアル球。
いかん事態を収拾するためにできる事は――。
「ごほんっ……永久磁石は熱に弱いから燃やせばすぐに――」
「……来ないでください。ついてこないでください!」
そう叫びながら断崖鉄壁の錬金術師はダッシュで飛び出していった。
ハイそうですかと言うわけにもいかないからとりあえず追いかける。
向かった先は今日できたばかりの溶鉱炉。
そのまま溶鉱炉の火口に『セクシービーム』姿でジャンプして落ちていった。
「――ってアルターーー!!」
「大丈夫です。コアは熱ぐらいなら問題ありません」そう言いながら溶けた銅に沈んでいく。
そういうときは『必ず戻ってくる』みたいなセリフが良かったな。
よく考えたらゴーレムコアはこの程度の熱で壊れたりしない。
あまりのことに少々混乱してしまった。
よし、落ち着こう。
少し時間が経って――。
高炉内から『ゴポゴポ』言いながら液体金属が這い出てきた。
砂を纏ったサンドゴーレム。
鉄で動くアイアンゴーレム。
そして今まさに溶解した銅を身に纏ったブロンズゴーレムとなって帰ってきた。
アル球から錬成陣が浮かび上がり、錬金術を応用したのか銅の体が形を変えていく。
そう今までのブリキのロボみたいな姿から――赤銅の滑らかなそして女性と判るフィルムへと変化していく。
古代錬金術において錬金術記号という『シンボルマーク』を用いてあらゆる物質を表現した。 その中でも鉄のシンボルは『♂』であり、対をなす金属《銅》のシンボルは『♀』であった。 鉄は主に剣や槍などの武器として使う男の象徴であり、銅は銅像や生活の道具など平和と安定の女の象徴という歴史があったと言われている。
それが関係してるかわからないが女性が着用する銅の鎧へと変化した。
――つまり『くっころ系の性別が分かる鎧』のようなゴーレムになった。
◆ ◆ ◆
ある程度時間が経ちはしゃぐゴーレム達も大人しくなった。
「……ふ~、もう大丈夫です」と女性版さまよってるヨロイが動きを確認しながら戻ってきた。
こっちもどうやら落ち着いてくれたようだ。
「お疲れ様、そのあーと……」
こういう時なんて声をかければいいのだろうか。
「大丈夫です工場長。ですので忘れましょう――そうしましょう」というのでそうすることにした。
相手が忘れたがってることを蒸し返すのは無粋ってもんだ。
えーと――アルタさんがブロンズゴーレムにランクアップした!
銅は電気や熱を通しやすい代わりに非磁性体つまり磁石が付かない。
これでもうあんな事故は起きないだろう。
それよりもついにフェライト磁石ができた!
いえーい!!
いえーい。
……えい。
うん、もはや場の空気がなんとも微妙な感じになってしまった。
しょうがない1日時間を置こう。
次の開発――《銅の電解精錬》は明日からだ。
・意匠
工場長<ところでその新しい体の意匠はどうしたんだい?
アルタ「これは前にすまーとふぉんを見せてもらった時に中に入っていた可愛らしい絵を参考にしています」
工場長< ノオォォォォォーーーー!!!
――――
{ ▯}「ブロンズって青銅だよね?」
「 ▯」「そうだよ。青銅bronzeはブロンズで、銅Cuはコッパーだからコッパーゴーレムがより正確」
{ ▯}「どうせ世間的にはブロンズの方がわかりやすいからワザとそのままにしたんでしょ」
「 ▯」「キミのような察しの良い――ゴーレムが多ければもっと開発楽なのにね~」
{ ▯}「残念、僕らはあとがき専用の特別製だから本編には出れないんだ」




