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第11話 武装隊商

なんでも魔王領では魔王軍が隊商を護衛しているそうだ。


だから大抵の商人は隊商に参加して安全に商売ができる。


ん? この辺の領主様はそんなことはしないよ。


兵士といっても傭兵がほとんどだ。


山賊に護衛してもらいたい商人なんていないだろ。


――商人たちの噂話

 鉄鉱山では不休の高炉が赤々と燃えて毎日1トンの銑鉄が溶け出している。 石灰岩採石場でも白々とした砂煙が舞い上がり毎日数トンの石灰が山積していく。 銅鉱山では毎日0.1トン以上の銅を産出するために数十トンの山々を洗い流している。 各鉱山では毎日鉱物が産出し、稀に希少な鉱物が手に入る。 そうしてあらゆるものが山積みとなっていく。 



 モーターの開発に成功したが、たった一台では生産力をあげることはできない。


 つまりモーターの量産が次の課題になる。


 しかし現在の自励式だと銅線の消費量がとても重い。


 ――という事で永久磁石を量産してモーターの銅消費コストを下げようというのが今回の狙いになる。


 種類にもよるが永久磁石に必要なのは《ありふれた材料》に《レアな材料》をほんのり混ぜることだ。


 そのために、またしても材料探しから始めなければならない。


 それも今度は《レアな材料》をだ。


「探す当てはあるのですか?」そう言ってこの世で最も希少な不死の錬金術師は心配する。


 しかしご安心を確信はないが見つかりそうな場所は知っている。


「まずは採石場に行って石灰岩の山から探してみよう」



 ◆ ◆ ◆



 銅鉱山から採石場に行くために連弩で武装したゴーレムの列が行進する。


 まるで砂漠のキャラバンのような長い隊商状態となっている。


 もう鉄オリの御輿はやめた。


 ワームの巣穴に落ちるほどのマヌケ集団は一列になって、安全な道だけを歩く方が理にかなっている。


 ちなみにモノは木の棒にぶら下がり、それを二体のゴーレムが担いでいる。


 いまはダイアウルフ対策として緩やかで見晴らしのいい場所を歩いている。


 少し遠回りだが楽に移動することができそうだ。


 この道を整備して安全に大量の物資を移動できるようにしたい。


 なぜなら各鉱山が離れていて移動するたびにお邪魔物に妨害されるからだ。


 そうなると必然的に武装した隊商を組んで移動することになる。


 この隊商方式ははっきり言って効率が悪い。


 ゴーレムに命令するために()()が陣頭指揮を執らないといけないからだ。


 つまり研究も開発もストップすることになる。


 他にも運べる物資の総量にも問題がある。


 0.1馬力のゴーレムが物資を運ぶがチェストのかなりの部分を連弩と有刺鉄線の柵に使っている。


 ようするにこの長い行列で武器を運んでいるってことだ。




 ふむ、少し物流網について少し考えてみるか。


 問題は2つ――。


 一つ物資を運ぶときは開発ができない。


 一つチェストの何割かは武器類に割かれてしまう。


 さてどうしよう。


 まずチェストによってある程度一気に運べても物理的な限界は存在する。


 例えばチェストには板に錬成陣に似た模様が描かれている。


 《収納陣》とでも呼んでおこうか。


 これの大きさによって容量スペースがほぼ決まる――目安は幅1メートルで1立方メートルの容量だ。


 そうなると幅10メートルで10立方メートルと容量はとても大きくなるが取り回しが非常に不便だ。


 頑丈な板に記述しているがその関係でそれなりの重さがある。


 さらに途中で壊れたりしないようにこれまた頑丈な鉄の箱に大事にしまうので重量問題は常に付きまとう。


 輸送問題は解決しなければいけない問題ってことだ。


 よろしい、さらに考えよう。


 一般的に馬に乗せられる重量は1馬力75kgと言われている。 輸送に長けた品種でも150kgぐらいしか背中に乗せられない。


 そこで思いついたのが近くを流れる川を活用して船で運ぶ方法だ。 曳船方式これなら1馬力で約50トンは運べるはず。 世界四大文明が大河の近くで発展したというのには理由があるってことだ。 だがこの方法だと《銅鉱山》から川下りして《街》には着くが、何もない街にもっていっても意味はない。 燃料となる木炭も高炉も《鉄鉱山》にある――結局、陸路を移動するしかない。 それ以外にも川には問題がある。 川が南北で分けているが北側はかなり危険だ。 そちら側から魔物が襲ってきたら為す術がない。 他にも物資が《街》より下流に――つまり西の森の先にある《湿地帯》に流されたら困る。 西側は未調査だし《沼の魔物》なんて出てきたら困る。 という事でゴーレムによる曳船は止めよう。


 次に考えるのは荷馬車による輸送。 これならば1馬力で2トンは運べるはず。 だがこれにも問題がある。 そもそもの前提条件が頑丈に舗装された道路での話であり、悪路の場合は10馬力で1トンが精々だ。 それ以前に踏み固めた砂利道すらないので街道整備が必要になる。



 ――うーんどの方法もスマートさが欠けて嫌になるね。



 ◆ ◆ ◆



 何事もなく採掘場で石灰岩を回収して鉄鉱山まで向かう。


 その時、石灰岩とは別に《レアな鉱物》が手に入った。


 いえーい、永久磁石は何とかなりそうだ。


 そして特に問題もなく久しぶりに穏やかな森の中にある鉄鉱山に戻ってきた。


 実に20日ぶりの鉄鉱山には毎日銑鉄を1トン――計20トン積み上がっている。


 アルタは意気込んでこの銑鉄の山を錬成して純鉄に変えていく。



 …………。



 大量に鉄が手に入るのだからいっそレールを敷くのはどうだろうか?


 鋼鉄の車輪とレールの場合、輸送力は1馬力で8トン運ぶことができる。 どちらにせよ街道整備をして物資を大量に運べるようにしなければいけないのなら最初から鉄道にすればいい。 重量100トンの機関車を時速100㎞で走らせるわけじゃない。 人力トロッコが時速数キロで動けばそれでいい。 だから敷設するのは狭軌のレールになるだろう。


 狭軌――鉄道線路のレール間隔。 標準軌より狭い相対的な考え方である。 最大のメリットは山岳地帯など地形的な問題により急カーブが多いところで採用できること。 技術的なコストが大幅に安く、容易な建設と撤去ができること。 この利点のために林業工業などの短期プロジェクトおよび発展途上国での使用が多い。

 欠点は高速化に対応できない事が挙げられる。


 ――鉄道の歴史は奥が深い。


 どの国もまず狭軌で安く導入し実績を上げてから標準軌へと移行していった。


 つまり鉄道の選択肢は狭軌の鉄道づくりか、作らないかの二択しかない。




 ……脳内計算では1メートルあたり30kgの鉄が必要になる――つまり1㎞あたり30トン!


 残念、この計画は毎日30トンの鉄を採れるようになってからだな。



 ◆ ◆ ◆



 銑鉄を錬金術で分解し純鉄に変えていく。


 今はその手伝いのために錬成陣にモノを運ぶ手伝いをしている。


「ところで先刻、採石場で手に入れた鉱物は何でしょうか?」と興味津々の錬金術師。


「ああ、あれは《毒重石》という鉱物だ」


 毒重石――名前の通り微弱の毒性を有する鉱物。 水に溶けないことから安定していて無害であり肌に触れても何も起きない――劇薬指定されている毒物である。 毒性化するのは胃酸に反応したときであり誤飲さえしなければ無害である。


 このヘンテコな名前を付けるってことはこの毒々しい謎の鉱物を食べて腹を壊したことがあるってことだ。


 ご先祖様はとってもクレイジー!


 そしてもう一つの特徴がとても重いことだ。


 本当は重晶石が手に入ればよかったんだが無いからしょうがない。


「この鉱石は主にバリウムが含まれていてこれが永久磁石のレア原料になる」


「それでは――分解して精練しますか?」


「いやバリウムは扱いが難しいから磁石製造日までそのままでいいよ」


「それでは鉄の精練も終わりましたので鉱山に向かいますか?」


「そうだな燃料の木炭と鉄を回収したら銅鉱山に向かおう。銅関連の設備はあそこにしかないからな」


「ところで工場長――鉄鉱山の罠から魔石が20日分集まっていますので、この新しいゴーレム達に南の森の調査をさせてもよろしいでしょうか?」


 南の森、街を中心に東西南北を分けて今は東の山脈を重点的に開発している。


 北と西はやめておくとして南の森は東の森の次に安全な森だ。


 今の武装なら安全に調べられるかもしれない。


「ああ、余剰ゴーレムを遊ばしておくのはもったいないし南部調査団を組織するのは問題ない」


「それでは今日中に作り調査させますので――明日銅鉱山に戻りましょう」


 ダイアウルフよりはマシな魔物しかいないはずだから全滅することはないだろう。


 着実に進んでいる。


 この調子なら脱出の日もそう遠くない。


 よーし、明日は永久磁石の製造だ!

・万能パインオイル


工場長<これがサビ止めになる。


アルタ「ありがとうございます工場長」


~~


工場長<ふふふ浮遊選鉱のために作ったのだ!


アルタ(なるほど~そういう使い道があるのですね)


~~


工場長<ふははははエナメル線のために今まで作ってきたのだ!


アルタ(……あら? プレゼントはついでだったのかしら)


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